世界で一番可愛い君!

フジキフジコ

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恋するチェリーボーイズ

1.選んでプリーズ

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「どっちかを、選べ?」

校庭の片隅の大きな八重桜の下、智哉ともやの前に南里翔平みなみざとしょうへい西園寺裕さいおんじゆたかが並んで立ち、智哉の問いかけに、真剣な表情で頷いた。

この春、同じ私立の中学から附属の高校に進学した三人は、真新しい制服をどこか窮屈そうな、居心地の悪そうな様子で身につけていて、そんな三人の間を桜の花弁はなびらがひらひらと舞い落ち、静かに春の盛りを告げている。

「なに言ってんのか、意味がわかんないんだけど」

智哉がそう言うと、「だから!」と、翔平が物分かりの悪い智哉に苛立ったように言う。
「オレたちは、おまえのことが好きなの。今、告ってるの。オレか、西園寺か、どっちかと付き合ってくれって」

智哉は大きな目をパチパチさせて、翔平と裕の顔を交互に見た。

「おまえたちが、オレを、好き?友達とか、幼馴染みとか、そういうんじゃなくて?」

「急にそんなこと聞かされて、驚いたと思うけど、オレも翔平も、ずっと前からおまえのことを恋愛感情の意味で好きだったんだ」
と、裕が言い、隣で翔平が頷いている。

「オレたち、中学の時は智哉に手は出さないって条約を結んでたんだけど、高校になってオレと西園寺は理系クラス、智哉は文系クラスで、離れちゃっただろ?オレたち以外にも、おまえのことを狙ってるヤツはいると思うんだ。いや、確実にいる。だって、そんなに可愛いんだから。どこの馬の骨かわかんないヤツに手を出されるくらいなら、オレか、西園寺か、どっちか選んでもらおうってことになったんだ」
と、翔平が言い、隣で裕が頷いている。

二人の言葉の途中から顔を伏せて、地面を見ている智哉の肩がぷるぷる震えていた。
親友たちから、友情とは別の感情を向けられていたことは、やっぱり相当、ショックだったのだろうか。
翔平と裕がそんな心配をしはじめたとき、智哉が顔を上げた。
耳まで真っ赤になっていた。

「す、す、す、好きって、おまえら、よくそんな、は、恥ずかしいこと、言えるな。なんだよ、それ。どこがいいんだよ、オレの」
どうやら激しく照れているらしい。

「どこがって、智哉は可愛いじゃん。なんか、チワワとかポメラニアンみたいでさ」
智哉がどうやら怒ってはいない、ということにほっとして、翔平は言った。

「チワワ?ポメラニアン?おまえ、なに言ってるんだ。智哉が似てるのはリスとかハムスターとかの小動物系だろ。食い物を頬っぺたにためるちっこいやつだ」
翔平に張り合うように裕が言う。

「は?ハムスター?おまえこそ、なに言ってんだ。ハムスターってなあ、ネズミだぞ。智哉がネズミに似てるって?バカ言うな」
「ハムちゃんはネズミとは違う。あの愛くるしさがわからないとは、おまえは可哀想な人間だな」
「なんだとお?!」

翔平と裕が、どうでもいい言い争いをはじめた。

「おまえら、意味わかんねえ…」
チワワだのハムスターだのと言われても、全然、褒められている気がしない。
それならチワワでもハムスターでも、勝手に好きな動物を飼えばいいじゃないか。

「あのなあ、おまえたちも知ってるだろ。オレが好きなのは、あきらみたいにキラキラした、いい匂いのする、ちょっとキツめの美人さんだ。そりゃあ、翔平も裕も男としてはカッコいいほうだと思うよ、しゃくだけど、それは認める。でも、おまえら、男じゃん?悪いけど、オレ、おまえらのことは抱けない」
きっぱりと、智哉は言った。

翔平と裕は不毛な争いをやめて、困ったように顔を見合わせた。
ツッコミたいことは山程ある。

智哉は、分不相応にも兄のパートナーである晶に片想いしていた。
智哉の兄の雅治は、テレビでも人気の弁護士で、そこいらのタレントや俳優よりもカッコいい。
そしてその兄のパートナーの晶は、見かけは実に雅治とお似合いの超絶美形なのだが、かなり個性が強い。
そして正真正銘、男だ。

おまえは晶さんを「女」だと思っていたのか?!
とか、
おまえは晶さんを「抱く」つもりだったのか?!無理に決まってるだろ!
とか、
ツッコミたい気持ちが喉まで出かけたが、それをぐっと飲み込んで、翔平は言った。
「智哉、晶さんのことは諦めたんだよな?」

智哉は唇を突き出して、渋々「まあ、な」と、認めた。

「晶さんがキラキラしてるのは、半分以上、ファッションセンスのせいだと思うけど。なにしろあの人は、類を見ないほど派手だからなあ」
裕が余計なことを口にして、智哉に睨まれ、翔平に肘鉄された。

「智哉、おまえさ、『抱く』って言うけど、自分が『抱かれる』方だって思ったこと、ない?多分、誰が見ても、おまえはBLで言えば受だし、ゲイ的に言えばネコだ」

翔平がそう言うと、智哉は目を見開いて、一呼吸置いたあと、「えーーーっ?!」と叫んだ。

「お、お、おまえら、オ、オ、オレのことを、そ、そ、そんなエロい目で見てたのか!?だ、だ、抱きたい、とか、ヤリたい、とか、突っ込みたいとか、思ってたのか?!」

「突っ込みたい、って、おま、そんな露骨な…」
翔平が頬を染めながら、否定でも弁解でもないことを口にする。

「じゃあ、突っ込みたいわけじゃないんだな?!」
智哉に問い詰められて、翔平は「うっ」と、唸った。
「つ、突っ込みたい…かな」

智哉は目と口を開いて、固まってしまった。

同性の友達から、実は性的な目で見られていたと知ったら、智哉は傷つくかもしれない。
翔平と裕が、長い間、気持ちを打ち明けられなかったのは、そう心配していたせいもあった。
だから、言葉にはくれぐれも気をつけようと話し合っていた。
それなのに、結局、智哉を傷つけてしまった。

本当は、好きだ、という気持ちを伝えたいだけなのに。
そして出来れば、好きになって欲しい。
それがいつの間にか、抱きたい、やりたい、突っ込みたい、にすり替わっている。
なにしろ心より下半身が先走る年齢だ。
それも正直な気持ちといえば、その通りで、仕方なかった。

「まさか、そんな、嘘だろ、オレを、オレが…なんて、ひゃあー!」

しかし、智哉は傷ついているとか怒っている、という様子ではなく、ただただ動揺しながら、盛大に恥じらっているように見えた。

翔平と裕は、智哉の高い順応性と柔軟な思考能力に安堵した。
物事を単純に受け止める素直な性格は、智哉の愛すべき美点だった。

「返事はすぐじゃなくてもいいからさ、とりあえず、オレと西園寺と、それぞれお試しってことで、デートして欲しいんだ。親友として、じゃなく、付き合うことを前提にして」
翔平が言う。

智哉は、あまりに恥ずかしくて、この場を乗り切るためにウンウン頷いて、そして逃げ出した。



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