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第一部
18.スター
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「聖、藤崎Pが呼んでるよ。ミーティングルームに来て欲しいって」
ミュージックバラエティの録りのために局入りしてすぐマネージャーに言われ、指定された部屋に向かった。
ノックして入ると、部屋には藤崎と司がいた。
「司!なんで…」
会議のための広い部屋の中で、腕を組んで長机に浅く腰掛けている藤崎が、聖を見て苦笑した。
「おまえたち、喧嘩でもしたのか」
「どういう…ことですか」
「高野君に、言いがかりをつけられてる。オレがおまえを買ったと言ってるぞ。どういうことかと聞きたいのはこっちの方だ」
「藤崎さん、白々しいことを言わないでください。聖は、あなたとの関係を認めてます」
緊張感のない藤崎ののんびりした物言いに苛立ったように司の声が被った。
「へえ、聖、そうなのか」
聖は、司と藤崎の顔を交互に見た。
まさか司が藤崎に直談判に来るとは思っていなかった。
成り行きに戸惑っている。
「司、何が言いたいんだよ、おまえ」
「高野君はオレに、おまえを買うのをやめろと言いたいようだ。そうだろ?」
「立場を利用して身体の関係を強要するなんて、あんた最低だ」
「耳が痛いな」
「違う、司!藤崎さんとは…」
司の非礼に驚いて、聖は慌てて弁解をした。
「いいんだ、聖。ところで高野君、オレも君にひとつだけ質問があるんだが、答えてくれるかな。君はもしかして、クリスチャンか」
「大悟!」
今度は藤崎の言葉に狼狽する。
自分の好きな男は信仰を持っていて男が抱けないのだと、藤崎に告白したことがあった。
「そうです。それが、どうかしましたか」
この場に関係のない質問はますます司を怒らせたようだ。
「ほう、そうか、なるほどね」
司の苛立ちには頓着せず、藤崎はニヤニヤ笑って聖を見た。
「確かに…」
言いながら立ち上がり、ゆっくり聖の方に近づく。
すれ違いざま、司に挑戦的な視線を送った。
「オレたちはデキている。けど、これは合意の上の関係で売春じゃあない。他人にどうこう意見される筋合いはないんだよ」
言い終わったときは、聖の真後ろに立ち、後ろから聖を緩く抱いた。
「…大悟…なにを」
二人の親密な関係を見せつけられて、司はカッとなった。
「愛し合ってると、そう言いたいんですか」
「さあ、どうかな。合意の上で寝ている者同士が必ず愛し合っているわけじゃない。大人の関係、ということもある。世の中には、好きな人間と抱き合うことが出来ない者もいるってことさ」
「藤崎さん、あなたはなにが言いたいんですか」
「つまり…」
司の目を見ながら、藤崎は聖を抱きしめている腕で聖の身体を弄った。
「大悟!やめ…」
「この身体のことなら、オレはよく知っている。どこが感じるか、どこをどうすれば悦ぶか。だが聖の心の中のことはわからん。君が知りたいのなら、自分で確かめることだ」
「……失礼します」
藤崎を睨んで司が部屋を出ていくと、聖は藤崎の腕を振り払った。
「大悟、どういうつもりであんなこと!」
「ちょっと煽ってやったんだよ。全然、その気がないわけじゃなさそうじゃないか」
あっさり聖を解放して、藤崎はジャケットのポケットから煙草を出して火をつけた。
「おまえが惚れてるのが高野だったとはな。随分、望みが高いじゃないか」
「さっきと言ってることが違う」
「いや、一度や二度は叶うかもしれん。だが、高野は、あいつは…」
天井を仰ぎ見て、藤崎はゆっくり紫煙を吐き出した。
遠い場所にある視線は、何かを見つけたように面白そうに細められた。
「今はまだダイヤモンドの原石だ。だが、いつかきっとこの世界の宝になる」
「宝…司が?」
「聖、本物のスターなんていうのはな、一時代に一人いるかいないかっていう稀有な存在だ。カリスマ性なら、おまえにも充分にある。MUSEが芸能界でトップに立つのは、そう難しいことじゃないだろう。だがな高野司はそれとは次元が違う。時代を象徴する、スターになる」
藤崎の言葉を、大袈裟だとは思わなかった。
むしろ、やっぱりそうかと思う。
藤崎の目から見ても司は特別な存在に見えるらしい。
司は、いつか、自分には手の届かない存在になる。
出会ったときからわかっていた。
「司は、オレとは違う」
そう、違う。
司は自分が努力して努力してやっと手に入れられるものを、何もしないで持っている。
だから憧れる。
もしかしたら自分は司が羨ましいだけなのかもしれない。
司を好きだと思う気持ちは恋なんかじゃなくて、自分にないものを持っている司が羨ましいだけなのだろうか。
けれど、いつか司に手が届かなくなって離れる日のことを思うと、思うだけで胸が痛い。
「わかってる。いつか、手が届かなくなるってこと」
不意に視界がぼやけたと思ったら頬に冷たい感触があった。
気づかず、涙が流れていた。
「馬鹿だな、先のことを心配して泣くやつがあるか」
藤崎は優しく言って、聖の側に寄り慰めるように聖の頭を抱えた。
「まだこれから、だろ。おまえたちは同じ目的を持って、一緒に高みを目指すんじゃないか。愛し合うことだけが関係を築くことじゃない。想いを叶えるにはいろんな形があるんだ」
一緒に、高みを目指す。
聖はその言葉を噛み締める。
同じ目的を持っていることが、唯一、自分と司を繋ぐ。
◇◇◇
司は目の前で聖と藤崎の関係を見せつけられてもまだ諦められなかった。
社長に面会を求め、事実を問いただした。
明石は「そんな事実はない」と失笑した。
けれど「仮に、美神が藤崎Pや菊池先生と個人的な付き合いをしていたとしても事務所の関知する問題ではない」という言葉の中に、社長がすべてを知っているのだと確信した。
聖の売春行為は事務所が知っていて、公然と行われていた。
自分が、知らなかっただけだ。
何年間も。
司は傷ついた。
デビューして、ヒット曲を出し、レギュラー番組を持った。
これまでの成果は、自分の、自分たちの実力と可能性を認められたからだという自信や自負が覆されたような敗北感を感じた。
デビューしてから今まで、MUSEは順調だった。
そのどれくらいが、聖の、身体を使った営業の成果なのかはわからない。
ほんの少しでも聖の犠牲の上に今の自分たちがあると考えると、耐えられなかった。
司は荒れた。
酔い潰れるまで飲み歩き、フラフラになって寮の祥也の部屋を訪ねた。
「どうしたの」
「祥也…オレ、MUSEをやめる。芸能界も、やめる」
“オレにもおまえにも、どうすることも出来ない。オレには他に行き場所がない”
そうだ、聖の言うとおりに自分は無力なのだ。
聖を止めることは出来ない。
けれど黙って見ていることは出来そうにない。
だったら、負けを認めて逃げるしか、方法がない。
「やめる…それしかない」
祥也は、司を部屋に入れてミネラルウォーターを手渡した。
「そんなに酔ってるときに、そんな大事なこと言われても困るんだけど。今日は、とにかく泊まっていって。明日、話そう」
「祥也」
司に自分のベッドを譲り、側を離れようとした祥也の手首を掴んで言う。
「おまえ…男と寝たこと、ある?」
「…あるよ」
平然と答える祥也に、司の方が驚いて目を見開いた。
「どうやってやるの。教えろよ」
「司らしくないね。自棄になるなんて。別に、僕はいいけど、酔ってないときにしてよ。後悔されるの、イヤだから」
司はクスクス笑い、やがて大声で笑いだした。
「何も出来ないって言うんだよ、聖が。オレには何も出来ないって。あいつに出来てオレに出来ないことなのか?出来るさ、男と寝るくらい…」
「司…」
祥也は、慰めるように司の横に腰掛ける。
「聖は、司にそんなことをして欲しいわけじゃないよ」
「おまえは平気なのか。オレたちは、聖が身体売ってとってきた仕事をしてるんだぜ」
「それを、聖が望んでるんだから仕方ない。ねえ、司、やめるなんて絶対に、聖に言っちゃだめだよ。今の聖にはMUSEだけが自分のいられる居場所なんだ。聖はそれを守るために必死なだけなんだよ」
「じゃあ、ただ見てろって言うのかよ!出来るか、そんなことっ」
「見てるしか、ない」
祥也は、力強く断言した。
「僕たちは、今はただ見てるしかないんだ。それが我慢出来ないなら、君の力でMUSEをトップにしたら。この世界でトップに立てば、聖はもう身体を使う必要がなくなるよ」
「トップ…MUSEを」
「だって、それが、聖の望みでしょ」
聖の望み。
そうだ、自分はあの日、聖の目を見て聖に言ったのではなかったか。
“見返してやろうぜ”
SAPPHIREのバックで踊ったステージで。
“オレたちも、あんなふうになれるかな”
目に涙を浮かべて言った聖に、自分は言ったのだ。
“なれるさ。いや、あれ以上になってみせる”と。
それが聖を救う道なら、迷う必要はない。
高みを目指して昇ればいいのだ。
ミュージックバラエティの録りのために局入りしてすぐマネージャーに言われ、指定された部屋に向かった。
ノックして入ると、部屋には藤崎と司がいた。
「司!なんで…」
会議のための広い部屋の中で、腕を組んで長机に浅く腰掛けている藤崎が、聖を見て苦笑した。
「おまえたち、喧嘩でもしたのか」
「どういう…ことですか」
「高野君に、言いがかりをつけられてる。オレがおまえを買ったと言ってるぞ。どういうことかと聞きたいのはこっちの方だ」
「藤崎さん、白々しいことを言わないでください。聖は、あなたとの関係を認めてます」
緊張感のない藤崎ののんびりした物言いに苛立ったように司の声が被った。
「へえ、聖、そうなのか」
聖は、司と藤崎の顔を交互に見た。
まさか司が藤崎に直談判に来るとは思っていなかった。
成り行きに戸惑っている。
「司、何が言いたいんだよ、おまえ」
「高野君はオレに、おまえを買うのをやめろと言いたいようだ。そうだろ?」
「立場を利用して身体の関係を強要するなんて、あんた最低だ」
「耳が痛いな」
「違う、司!藤崎さんとは…」
司の非礼に驚いて、聖は慌てて弁解をした。
「いいんだ、聖。ところで高野君、オレも君にひとつだけ質問があるんだが、答えてくれるかな。君はもしかして、クリスチャンか」
「大悟!」
今度は藤崎の言葉に狼狽する。
自分の好きな男は信仰を持っていて男が抱けないのだと、藤崎に告白したことがあった。
「そうです。それが、どうかしましたか」
この場に関係のない質問はますます司を怒らせたようだ。
「ほう、そうか、なるほどね」
司の苛立ちには頓着せず、藤崎はニヤニヤ笑って聖を見た。
「確かに…」
言いながら立ち上がり、ゆっくり聖の方に近づく。
すれ違いざま、司に挑戦的な視線を送った。
「オレたちはデキている。けど、これは合意の上の関係で売春じゃあない。他人にどうこう意見される筋合いはないんだよ」
言い終わったときは、聖の真後ろに立ち、後ろから聖を緩く抱いた。
「…大悟…なにを」
二人の親密な関係を見せつけられて、司はカッとなった。
「愛し合ってると、そう言いたいんですか」
「さあ、どうかな。合意の上で寝ている者同士が必ず愛し合っているわけじゃない。大人の関係、ということもある。世の中には、好きな人間と抱き合うことが出来ない者もいるってことさ」
「藤崎さん、あなたはなにが言いたいんですか」
「つまり…」
司の目を見ながら、藤崎は聖を抱きしめている腕で聖の身体を弄った。
「大悟!やめ…」
「この身体のことなら、オレはよく知っている。どこが感じるか、どこをどうすれば悦ぶか。だが聖の心の中のことはわからん。君が知りたいのなら、自分で確かめることだ」
「……失礼します」
藤崎を睨んで司が部屋を出ていくと、聖は藤崎の腕を振り払った。
「大悟、どういうつもりであんなこと!」
「ちょっと煽ってやったんだよ。全然、その気がないわけじゃなさそうじゃないか」
あっさり聖を解放して、藤崎はジャケットのポケットから煙草を出して火をつけた。
「おまえが惚れてるのが高野だったとはな。随分、望みが高いじゃないか」
「さっきと言ってることが違う」
「いや、一度や二度は叶うかもしれん。だが、高野は、あいつは…」
天井を仰ぎ見て、藤崎はゆっくり紫煙を吐き出した。
遠い場所にある視線は、何かを見つけたように面白そうに細められた。
「今はまだダイヤモンドの原石だ。だが、いつかきっとこの世界の宝になる」
「宝…司が?」
「聖、本物のスターなんていうのはな、一時代に一人いるかいないかっていう稀有な存在だ。カリスマ性なら、おまえにも充分にある。MUSEが芸能界でトップに立つのは、そう難しいことじゃないだろう。だがな高野司はそれとは次元が違う。時代を象徴する、スターになる」
藤崎の言葉を、大袈裟だとは思わなかった。
むしろ、やっぱりそうかと思う。
藤崎の目から見ても司は特別な存在に見えるらしい。
司は、いつか、自分には手の届かない存在になる。
出会ったときからわかっていた。
「司は、オレとは違う」
そう、違う。
司は自分が努力して努力してやっと手に入れられるものを、何もしないで持っている。
だから憧れる。
もしかしたら自分は司が羨ましいだけなのかもしれない。
司を好きだと思う気持ちは恋なんかじゃなくて、自分にないものを持っている司が羨ましいだけなのだろうか。
けれど、いつか司に手が届かなくなって離れる日のことを思うと、思うだけで胸が痛い。
「わかってる。いつか、手が届かなくなるってこと」
不意に視界がぼやけたと思ったら頬に冷たい感触があった。
気づかず、涙が流れていた。
「馬鹿だな、先のことを心配して泣くやつがあるか」
藤崎は優しく言って、聖の側に寄り慰めるように聖の頭を抱えた。
「まだこれから、だろ。おまえたちは同じ目的を持って、一緒に高みを目指すんじゃないか。愛し合うことだけが関係を築くことじゃない。想いを叶えるにはいろんな形があるんだ」
一緒に、高みを目指す。
聖はその言葉を噛み締める。
同じ目的を持っていることが、唯一、自分と司を繋ぐ。
◇◇◇
司は目の前で聖と藤崎の関係を見せつけられてもまだ諦められなかった。
社長に面会を求め、事実を問いただした。
明石は「そんな事実はない」と失笑した。
けれど「仮に、美神が藤崎Pや菊池先生と個人的な付き合いをしていたとしても事務所の関知する問題ではない」という言葉の中に、社長がすべてを知っているのだと確信した。
聖の売春行為は事務所が知っていて、公然と行われていた。
自分が、知らなかっただけだ。
何年間も。
司は傷ついた。
デビューして、ヒット曲を出し、レギュラー番組を持った。
これまでの成果は、自分の、自分たちの実力と可能性を認められたからだという自信や自負が覆されたような敗北感を感じた。
デビューしてから今まで、MUSEは順調だった。
そのどれくらいが、聖の、身体を使った営業の成果なのかはわからない。
ほんの少しでも聖の犠牲の上に今の自分たちがあると考えると、耐えられなかった。
司は荒れた。
酔い潰れるまで飲み歩き、フラフラになって寮の祥也の部屋を訪ねた。
「どうしたの」
「祥也…オレ、MUSEをやめる。芸能界も、やめる」
“オレにもおまえにも、どうすることも出来ない。オレには他に行き場所がない”
そうだ、聖の言うとおりに自分は無力なのだ。
聖を止めることは出来ない。
けれど黙って見ていることは出来そうにない。
だったら、負けを認めて逃げるしか、方法がない。
「やめる…それしかない」
祥也は、司を部屋に入れてミネラルウォーターを手渡した。
「そんなに酔ってるときに、そんな大事なこと言われても困るんだけど。今日は、とにかく泊まっていって。明日、話そう」
「祥也」
司に自分のベッドを譲り、側を離れようとした祥也の手首を掴んで言う。
「おまえ…男と寝たこと、ある?」
「…あるよ」
平然と答える祥也に、司の方が驚いて目を見開いた。
「どうやってやるの。教えろよ」
「司らしくないね。自棄になるなんて。別に、僕はいいけど、酔ってないときにしてよ。後悔されるの、イヤだから」
司はクスクス笑い、やがて大声で笑いだした。
「何も出来ないって言うんだよ、聖が。オレには何も出来ないって。あいつに出来てオレに出来ないことなのか?出来るさ、男と寝るくらい…」
「司…」
祥也は、慰めるように司の横に腰掛ける。
「聖は、司にそんなことをして欲しいわけじゃないよ」
「おまえは平気なのか。オレたちは、聖が身体売ってとってきた仕事をしてるんだぜ」
「それを、聖が望んでるんだから仕方ない。ねえ、司、やめるなんて絶対に、聖に言っちゃだめだよ。今の聖にはMUSEだけが自分のいられる居場所なんだ。聖はそれを守るために必死なだけなんだよ」
「じゃあ、ただ見てろって言うのかよ!出来るか、そんなことっ」
「見てるしか、ない」
祥也は、力強く断言した。
「僕たちは、今はただ見てるしかないんだ。それが我慢出来ないなら、君の力でMUSEをトップにしたら。この世界でトップに立てば、聖はもう身体を使う必要がなくなるよ」
「トップ…MUSEを」
「だって、それが、聖の望みでしょ」
聖の望み。
そうだ、自分はあの日、聖の目を見て聖に言ったのではなかったか。
“見返してやろうぜ”
SAPPHIREのバックで踊ったステージで。
“オレたちも、あんなふうになれるかな”
目に涙を浮かべて言った聖に、自分は言ったのだ。
“なれるさ。いや、あれ以上になってみせる”と。
それが聖を救う道なら、迷う必要はない。
高みを目指して昇ればいいのだ。
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