地球防衛軍!

フジキフジコ

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【第三部】戦士恋情

11.殺害予告

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古い市民病院の処置室の前の長椅子に座った千里の横顔を、剣は時々、盗み見るように伺った。
中にいる克哉のことを心配しているのか千里は黙って項垂れている。

ロッジで倒れた克哉を二人で病院に運んだ。
すぐに千里が、克哉が持ち歩いている薬を飲ませたので病院についたときは意識もあり、危険な状態ではないようだが、念のために検査を受けていた。

千里には聞きたいことがありすぎて、なにから聞いていいのかわからない。
ため息は自然にこぼれた。

「かっちゃんは生まれつき心臓が悪いんだ。今まで何度か大きな手術をしたけど、完全に治すには移植しかないって言われてる」

剣のため息が心に届いたのか、聞きたかったことの一つを千里は打ち明けてくれた。
「心臓移植か、難しいんだろうな」
千里は頷いた。

「移植を受けるためにレシピエントの登録はしている。でもドナーが脳死する以外に、心臓は手に入らない。自分が生きるために、誰かが死ぬことを待つことで、かっちゃんは苦しんでいるだ」

だからなのか、と剣は思った。
ロッジで、千里が城戸を殺すのを克哉は止めた。
誰にも死んでほしくない、と言って泣いた。
たとえ自分の妹を、惨い方法で殺した男でも。

「剣くん、オレ、あのとき、早紀ちゃんを殺したあいつを、城戸を、殺そうとした」
「千里…」
「今までは、そんなふうには思ってなかった。犯人はあいつだって、そう思っていても、城戸を殺そうとは考えてなかった。ただ、償って欲しかった。罪を認めて、早紀ちゃんに、かっちゃんに、おじさんとおばさんに、心から謝って欲しいと思ってた。だけど、あいつは、早紀ちゃんを殺したことにほんの少しも痛みを感じてなかった。あんな人間も世の中にはいるんだ。死んだほうがいい人間も」
「やめろよ、そんなこと考えるのは。復讐で人を殺しても、早紀ちゃんが戻ってくるわけじゃないし、それは正義じゃない」
「そう、そんなの正義じゃない、よね」

千里は力なく笑って言った。
「でもオレはときどき、正義ってなんなのか、わからなくなる」
「千里……」

千里の言葉は剣にも共感できるものだった。
剣が城戸を殺そうとした千里を止めたのは、本能的な嫌悪感からに過ぎない。
考えも思想もない。

「かっちゃんがオレを止めたのは、かっちゃんが人の死に敏感だからだと思う。誰にも死んでほしくないって言うのは本心なんだよ。優しいんだ、かっちゃんは」

それからしばらく黙って床の一点を見つめていた千里が、言った。

「ねえ、剣くん。オレの力ってさ、病気も治せるのかな」
「千里の、力で?」
「さっきからずっと、そのことを考えてたんだ。もしかしたら、オレの力で、かっちゃんの病気を、治せるんじゃないかって」

千里は自分の大きな掌を見つめながら言った。
「千里はどう思うの。出来そうなの」
「わからない。でも、可能性があるなら、やってみたい」
剣は、表情を曇らせた。

「あのさあ、千里。能力者って言ってもオレたちは万能じゃない。力を使えばそれだけ、肉体的にも精神的にも負担になる。仮に、千里がその力を使って、克哉くんの病気を治せたとして、千里がどうなるか、わからないよ。なんてったって、千里はまだ覚醒したばかりで、力をコントロールすることも出来ないんだから」

しかしその覚醒したばかりの千里が、城戸の能力を奪った。
剣の見たところ、城戸は戦士に成り得る本物の能力者だった。
そのことも、剣が千里に聞きたいことの一つだったが、おそらく、千里自身にもどうしてそんなことが出来たのか、答えは持ってないだろうと思えた。

「オレはどうなってもいいんだ。かっちゃんが、助かればそれでいい」
「もう一つ、問題がある。綾波博士が言うには、オレたちの能力には限りがあるらしい。覚醒したばかりの千里が今の段階で大きな力を使うと、もしかしたら、力を失うかもしれない」

剣のその言葉には、千里は肩を落とした。
「この力を失ったら、もう防衛軍にはいられないね。それは残念だと思う。オレ、剣くんやみんなのこと好きだし、はじめて必要とされて、本当に嬉しかった。ブルーやレッドみたいに、カッコよく戦ってみたかった。正義の味方なんて、やりたくてもなかなかやれないもんね」
「オレだって、千里と一緒に戦いたいよ。ずっと、これから先も」

剣のその言葉を、千里は嬉しそうに聞いた。
「オレが、自分の個人的な理由で力を使うことを、ブルーは許してくれるかな。こういうのだって、正義でもなんでもないでしょ」

剣は少し考えて言った。
「涼は…涼なら、多分、許してくれると思う。自分にとって大切な人を守れなくて、どうやって地球が守れるんだって、涼ならきっとそう言うよ」
「良かった。だったらオレ、やってみる」
「千里は、なんでそこまで彼のことを」
「かっちゃんは、オレにとってはじめて出来た友達で、一番大事な人だから」
「おまえさあ、終夜のこと、あんなにホモホモ言って怖がってたくせに、おまえもそっちの趣味あるんじゃないの?!」
「剣くん、なんてこと言うんだよ!オレはね、レッドみたいにヤラせろとか言ってないし、思ってもないよ。そりゃあ、かっちゃんは小さくて可愛いよ。女の子でもかっちゃんより可愛い子なんか、いないよ。だからって、オレがホモだからじゃない」

いや、間違いなくこいつは本物だ。
確信して、剣は尻をずらして、千里から少し離れた。
千里は剣が自分の性癖を決定づけたことには気づかず、やる気満々になって、自分の掌を見つめていた。



***



緊急アラームを聞いた涼と終夜がメインルームに駆けつけると、中には九郎がいた。

その姿を見て終夜は並木洋介のことを思い出した。
「九郎…てめえ」

歩み寄ると、九郎は涼しい顔で前髪をかきあげて「その話は後。今は、それどころじゃないみたいだよ」と言った。

涼も九郎と目を合わせた。
基地に戻ってきた九郎は涼に、付き合っている男が高見の秘書の並木だということは打ち明けていた。
並木が組織との繋がりを持っている可能性については、終夜が戻ってから話す、という約束だった。

「で、今度はどこで暴れてるんだ、あいつら」
終夜が舌打ちしながら言うと、端末を扱っているオペレータの一人が、キーボードを操作した。
モニターに、映像が映る。
組織の広告塔をしている少女、叶未来だった。

「防衛軍のコンピューターに侵入して、ファイルを送ってきた」
九郎が言った。
「コンピューターに侵入だって?ハッキングのスキルもあるって見せつけてーのかよ」
「どうやら、犯行声明らしいね」

画面の中で少女はまっすぐ顔をあげ、美しい声で、まるで聖歌でも歌うように堂々と言った。

『これから名前をあげる人間を3日以内に始末します』
「はあ?」
思わず終夜は声に出した。
『西東京大学教授、嶺岸哲也。衆議院議員、栗崎一。愛敬病院委員長、久田満………』

少女はなにも見ないで、ただひたすら肩書と人の名前を口にした。
その数は20名余り。
「始末する」理由は一切、語らなかった。

終夜は呆気にとられたように、唐突に映像が終わるまで画面を見ていた。
「なんだよ、これ」
涼を振り返ると、涼は、重いため息を吐いた。

「理由は探れってことだろ。九郎…」
涼は、九郎を振り返った。
涼のその仕草で終夜も気づいた。
少女が「始末する」と告げ、無感動に羅列した名前の中に九郎の恋人、並木洋介がいたことを。



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