地球防衛軍!

フジキフジコ

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【第三部】戦士恋情

14.暴走

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メインルームの中央には、防衛軍最高司令官の高見恭子と、秘書の並木洋介、そして防衛軍のメイン構成員の5人が集まった。
「一人目の犠牲者が出たわ」
高見恭子が告げた。
「犠牲者と死因は」
そうそう聞く涼の声は固かった。

「波佐間教授、自宅マンションの屋上から飛び降り」
「自殺なんかするタマじゃなかったぜ」
終夜が言った。
「力で操られたのかもしれない。簡単なことでしょう、あなたたちでも」

誰も答えなかった。
次の瞬間、壁際で端末を操っていたオペレーターが次々に報告を始めた。
「西東京大学の嶺岸哲教授、自室で拳銃自殺しました」
「愛敬病院委員長の久田満氏、発狂して舌を噛み切り死亡!」
「会社役員、三田慶介氏、会社の窓を体ごと破って落下、死亡です」

メインルームは騒然となったが、誰もがなす術もなく、報告を聞くことしか出来ない。
壁に掲げられたモニターに映る19名の顔写真のうち、15名にバツ印がつけられた。
「間に合わなかった…」
「諦めるな!まだ生きてる者の意識に近づいて、コントロールを邪魔するんだ!終夜は田崎、剣は黒田、九郎は真島、千里は宮部だ!」
モニターに映る顔写真と経歴を指差して、涼は一人に一人ずつ「護衛」を命じた。

「やってるけど、遠すぎて難しいよ、涼」
剣がぼやいた。
「いや、剣、大丈夫、出来るよ。真島の意識を補足した。確かに外部から操ろうとする意識への働きかけがある。逆にそれを手繰って、パワーの持ち主を攻撃するんだ」
九郎が言った。

「…出来た。守った、真島を、守れたよ、涼…」
床に膝をつきそうになった九郎を、涼は支えた。
「よくやった、九郎」

他の3人も、九郎の指南通りにやって、それぞれ成功を収めた。
「助けられたのは20名中4人だけかよ…」
荒い呼吸を吐きながら呟く終夜に、「いや」と、涼が言った。
リストの最後の一人になった並木洋介に視線が集まる。

造反の疑いもある並木には、組織の抹殺リストに名前が挙げられていることは内密にしていたが、全員の視線を浴びて、感じるところがあったのか、並木は諦めたように溜息を吐いた。
「なるほど、私も、組織に選ばれたんですね」
「並木さん、原因を話してもらえませんか」
固い声で、涼が言った。

「私には幼児性愛はありません。ですが、考えようによってはもっと酷いことをしたと思います」
全員が固唾を飲んで、並木の言葉に耳を傾けた。
「東南アジアにいたとき、請われて、臓器売買の斡旋に手を貸しました。あの国には、飢餓や感染病のため死を待つばかりの子供たちが、路上にたくさんいました。臓器売買を仕事にするマフィアが、そういう子供たちを拾って病院に搬送してくる。助けるためでも治療するためでもありません。新鮮な臓器を搾取するためにです。私はその行為を見逃し、日本国内での斡旋ルートの窓口の役割を担ってました」
「並木さん、なぜ、そんな愚かなことをしたんですか」
涼に脇を支えられて立っている九郎が聞いた。
目に、涙が光っていた。

「九郎」
並木は愛しそうに九郎の名前を呼んでから答えた。
「君には話したね。僕はどうしても政治家になりたかった。政治家になって、この国を良くしたかった。臓器売買に手を貸すことで、寿家先生と懇意になることが出来ると考えたんだ。そしてその考えは正しかった。僕は寿家先生の娘と結婚し、先生の紹介で、高見先生の秘書になった」
「ところが、寿家に裏切られたんだろ」
終夜が言い放った。

「その通りです。寿家先生は引退間際になって、基盤を息子に譲ると言い出した。だから僕は、裏切ったんですよ。高見先生と、君たちを。民社党を通じて、組織の人間に会いました。そのときに、僕の過去を探られたんでしょうね。そういえば、あなたと同じ顔をした青年にはひどく嫌われていました」
並木は涼の顔を見ながらそう言った。
涼は、動揺を隠して詰問した。

「おまえは、防衛軍の機密を渡したそうだな。それは、なんだ」
並木は、高見恭子を見た。
薄い笑顔を口元に浮かべ、「それは」と言いかけて、頭を押さえた。

「うっ…!うっ、うわぁああああ!」
悲鳴を上げながら、床を転げまわる。
口からは泡を吐き、目は白目になっている。
「並木さん!」
九郎は並木に駆け寄って、身体を押さえようとするが、暴れる並木に近づけない。
そしてまた、涼も頭を押さえて、床に膝をついていた。

「涼!」
終夜は涼に駆け寄った。
「蓮…だ…蓮の思念だ……。やめろ…蓮…やめるんだ!…殺すな…殺すんじゃない…蓮…蓮!」
今までの被害者のように、意識をコントロールして自ら死を選ばせるような攻撃ではなかった。
もっと直接的で確実な攻撃。
思念で人の命を奪う。

19名の男の顔写真を写したモニターが左端からバリンバリンと音を立てて割れた。
計器類は次ぎ次に発火し、発煙があがり異臭が漂う。
部屋の照明は音を立てて明滅を繰り返した。

「涼!やめろ、やめるんだ!」
終夜は涼に向って叫んだ。
このパニックは蓮が起こしているというよりむしろ、涼が起こしていた。
二人の強過ぎる思念がぶつかり合い、反発することで気が乱れる。
地面が大きく揺れはじめ、立っていることも出来なくなった。
攻撃を受けている並木だけでなく、部屋にいるすべての人間が胸にも頭にも強い圧迫感を感じ、苦しんでいた。

「涼!!」
たっぷり10分間悶え苦しんだあと、並木洋介は絶命した。
揺れの収まった部屋は、消火活動などでまだ騒ぎが続いている。
力を使ったメンバーはぐったりと床に座り込んでいた。
涼は床に両手をついて、並木の遺体に縋って啜り泣く九郎の声を聞いていた。
冷たい床の上の手は、固く握った拳が白くなっていた。



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