チェリークール

フジキフジコ

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【番外編】世界中で誰よりも

6【完】ライクアバージン

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その日も先に寝室に入った晶は、風呂からあがった雅治が遅れて寝室に来ると、所在なげにベッドの上で座っていた。

「あれ、起きてたの。今日も眠れない?」
雅治の問いかけに、違う、というように首を振る。
そして、言いにくそうに、言った。
「オレたち、あの…結婚してるってことは、その…アレって、してたんだよな?」
「アレって、なに。セックス?」

その言葉に顔を赤くして、コクンコクンと何度も頷く。
「そりゃあ、まあ。してましたよ」
「あの、もし、嫌じゃなかったら…その、それを…その…して、欲しいんだ」
「え?!マジで?だって晶、オトコは嫌になっちゃったんじゃなかった?オトコとセックスするの、気持ち悪いんじゃないの?」

ますます顔を赤くして、恥ずかしそうに俯いて小さな声で言う。
「…だけど、してくれたら…思い出すかもしれないし…オレ、出来たら…思い出したいんだ」
「晶がいいなら、勿論、オレは構わないよ。っていうか、ほら、晶、覚のとこにいたし、しばらくしてないから、オレだってしたい。でも、本当に大丈夫?そんな初心うぶな反応見せられると、逆に、無茶苦茶そそられちゃうんだけど。ものすごいこと、しちゃうかも」

「え?!ちがっ…、ふ、普通ので、…いい!普通ので!」
「普通のって、言われてもなあ。オレたち、あんまり普通のプレイはしてなかったから」
「マ、マ、マジでッ?!ど、ど、どんなこと、してたんだよぉー」
涙目で聞いてくる。
雅治は、にこっと、笑って言った。
「ドロドロのグチョグチョのエロエロ」

真っ赤になって今にも卒倒しそうな晶を見て、雅治はぶっ、と吹き出した。

「冗談だよ。うそ、からかってごめん。大丈夫、晶が嫌がることはしないから」
言いながら晶の隣に座って、そっと、ふんわり包むように抱きしめてくる。
それでも晶は雅治の腕の中で緊張して、少し硬くなった。
雅治は晶の身体の強ばりが解けるまで、髪を撫でて、耳元に「好きだよ。愛してる」と囁いた。

口づけは耳朶から、頬に、そして顎に、軽く触れるだけ。
指は優しく、背中や肩を撫でた。
雅治は決して焦らず、晶の身体から力が抜けるまで、軽い愛撫を繰り返した。

晶は少しづつ、自分から雅治の方に身体を凭れかけてきた。

「唇にキスしても、いい?」
聞かれて、頷く。
なのに、恥ずかしくて顔があげられない。

「晶、顔上げて、これだとキス出来ない」
雅治が、強引にはなにもしないことを理解して、晶は雅治の腕の中でおずおずと顔を上げた。

見つめあい、視線が絡まる。
急に切ない気持ちが身体の奥から込み上げてくる。

「晶…」
優しく、求めるように名前を呼ばれて、唇が重なった。

柔らかな唇も、風呂あがりの火照った体温も、自分と同じボディソープの匂いも不快ではない。
むしろ、ただ重なっているだけの口づけに焦れったくなる。

違う、こうじゃない。

おぼろげな記憶を頼りに、唇を開いて、誘うように雅治の唇を舐めてみた。

「ん?」
雅治に驚かれて、我に返って慌てる。

「うわっ!オ、オレ、オレ、なんてことをっ、なんてエッチなことを!」
「きっと身体の方は、ちゃんと覚えてるんだ。ね、大丈夫だから、唇、開いて」
「う、うん」

唇を開いて待つと、ゆっくり、雅治の舌が入ってきた。
自分の舌に、雅治の舌が重なり、絡まる。
ただそれだけで、下半身がじんとする。

ゆっくりと口腔をくすぐるように舐められて、じっとしていられなくなり、雅治のパジャマの胸元をぎゅっと掴んだ。

「はぁ…あ~ん」
思わずイヤらしい声が出てしまった。
晶は何もしないことに耐えられなくなって、自分から口内にある雅治の舌を舌で追いかけて、唾液を飲み込むように吸った。
一度そうするともう止まらなくなり、夢中で、貪るように重ねる唇の角度を変えながら舌を絡ませる。

大人しくしていられない。
晶は雅治の首に両腕を回し、ぎゅっと抱きついた。

「あっ…あん…はっ…ん」
雅治も晶の腰をしっかり抱いてくる。
ぴったり身体を合わせながら、長い、濡れた、口づけを交わした。

ベッドに寝かされ、上から心配そうに「大丈夫?」と聞いてくる雅治に頷いて答える。

「なんだかまるで、はじめて晶を抱くような気分」
笑って言いながら雅治の指がパジャマのボタンを外す。
恐怖も嫌悪感もなかった。
あるのはただ羞恥心だけ。
ボタンが一つ外されるたびに「ひゃ」と小さな声をあげ、手で顔を覆う。
まるで他人にはじめて肌を晒す処女のような仕草だった。

パジャマの合わせを左右に開かれ、胸の突起を指で遊ばれる。

「晶、これ、なに」
「は、は、恥ずかしい…」
「どうして恥ずかしいの。赤く膨らんで、勃ってるから?」
「そんなこと、言うなーっ」

敏感になっていることは言われなくても充分わかっている。
そこを指でグリグリされるだけで、快感が、ダイレクトに股間に響く。

「こっちも、もう、勃ってるね」
言いながら、雅治の片手が晶の昂ぶりに触れる。
「すごい」
「やだあ!」
「そうか、晶も久しぶりなんだもんな。溜まってるんだ。こんなにして、ツライだろ、これじゃあ」
ヤケクソで晶は頷いた。

それを了解と解釈した雅治の手が、パジャマのズボンの中に入ってくる。
内腿に触ってくる手を、晶は脚を閉じて太腿の間に雅治の手を挟んでしまった。

「え?晶、足、開いてくれる?あの、これじゃあ、なにも出来ないよ」
「や、やだ…!雅治、変なとこ、触るからやだ!」
「変なとこって…。ここ、触られたら気持ちいいよ。晶も、このままじゃツライだろ。ね、いい子だから、足、広げて」
「うぅ……」
「触りたい。触らせて。晶の全部に触れたいんだ」

耳元に息を吹き込むように言われ、全身がカーッと熱くなる。
恥ずかしい気持ちがなくなったわけではないけれど、雅治の言うことは聞かなければいけないという気がして、晶は力を緩めて、雅治の手を解放した。

自由になった雅治の手が、晶の硬くなっている性器に触れた。
てのひらで、大事なものをそっと包むように。

「ほら、別に恥ずかしくないだろ。でも、これだけじゃ気持ちよくないよね。こうしないと」
「ひゃあっ…!」
擦られてびっくりする。
けれどその部分から甘美な痺れが生まれる。
恥ずかしくたまらないのに、もっと、触って欲しいと思ってしまう。

「我慢しないでいいから、晶、声出して」
揉み扱かれて腰から下が蕩けそうで、声を我慢するのは確かに辛い。
「…うん…う…っ…ひぃ」

両手でシーツをぎゅっと掴み、唇を噛んで快楽に耐える表情が、雅治のオトコの本能を刺激する。

「晶、オレの指、濡れてきた。なんで?」
「や…いやっ…」
「晶のこれも、ビショビショだよ」

言われなくてもわかっている。
先走りの露が、止まらない。
感じすぎて、泣きたいくらい気持ちよくて、晶はイヤイヤをするように首を振って、雅治の肩に顔を押し付けた。

「まいったなあ、晶が可愛すぎるから、オレもこんなになっちゃった。どうしようか?」

そう言って、雅治は、シーツを掴んでいた晶の右手を自分の股間に触れさせた。
パジャマのズボンの上から触っても充分に硬く、自分のものより随分大きいということがわかる。

「おっ…お、大きい」
つい正直に漏らした感想は、まるでAV女優のセリフのようにエッチな発言で、言った途端に晶はまた恥らう。

雅治はクスッと笑って「漏らしちゃいそう、脱いじゃっていい?」と聞く。

何を聞かれても頭に入らない晶はただ頷くばかりだ。
目の前で雅治が裸になる。
均整のとれた綺麗な身体の中心で、存在を誇るように堂々と上を向く男のシンボルを凝視してしまう。

雅治がそこをそうしているのは自分が欲しいから。
自分に、欲情している。
そう思うと、頭に血が上ったように、くらくらする。

どうやら自分は性的なことにオクテのようだ。

これくらいのことを恥ずかしがっていては、とても大人の男が悦ぶような行為は出来なかっただろう。
つまり、覚の言っていた「夫婦生活」とやらでも、自分は雅治をたいして満足させられなかったに違いない。

雅治は外見からはそうは見えないのに、平気でエッチなことを言うし、意外にスケベだ。
きっと雅治にとって自分との夫婦生活は物足りず、もしかして欲求不満にさせていたかも。

急に申し訳ないような気がして、恥ずかしいけれど、出来るだけ協力しようと晶は思った。

「晶も脱ぐ?」
聞かれたので頷いて、ズボンを脱ごうと手をかけると「待って。オレにさせて」と言われた。

晶は、パジャマの上も下も雅治に脱がされて、お互いに一糸纏わぬ生まれたばかりの姿になる。
どちらのペニスも熱く息づき、放出を期待してドクドクと脈打っている。
お互いに近づきたくて、交わりたくて、熱くなっている。

「晶……」
裸の雅治が身体に重なってきた。

「気持ちいい…晶とこうするの」
「オ、オレも…あの…気持ちいい。雅治、すげえ…いい匂いが、する」
「え、同じソープ使ってるから、晶と同じだよ」
「違う、これって、雅治の匂いだ。思い出せないけど、この匂いは、オレ、すげえ好きだ」

雅治の表情が驚きから、甘い微笑に変わる。
「ごめん」
至近距離で真上から見つめられて、なぜか雅治に謝られた。
「ごめん?」

「可愛いくて、たまらない。我慢出来ない。明日、起きれなかったら、ごめん」
返事をする前に、快楽の坩堝に引きずり込まれた。



***



「雅治!起きろ!雅治!!」
「…う~ん、なに」
「昨夜、オレたち、シタか?」
「したって、なにを」
「エッチだよ、エッチ?!した?!」
「したよ…」
「なんで?!」
「なんでって、晶がしてもいいって…悪かった?」
「違う、そうじゃなくて、なんでオレ、それ、覚えてねえの?」

そう言われて雅治は飛び起きた。

「覚えてない?なにを?!」
「昨日、雅治とシタこと。朝起きたら裸だし、おまえも裸だし、腰がすげえ重いし、シタのはわかるんだけど、記憶にない。もしかしてオレ、酔っ払ってた?」
「晶!記憶はいつから、いつまでないんだ?!」
「いつから…?えっと、えっと、いつだっけ。歩道橋の階段から落っこちて…で、そこからない」
「おまえの名前は?!」
「小田切晶、だけど?」
「オレはおまえのなに?!」
「えっ!?なんだよ、急に、なんでそんなこと聞くの!?朝から恥ずかしいこと、言わせんな。雅治のバカ。はあ?どうしても言わないとダメなの?なんなんだ、変だぞ、今朝の雅治。なんかいつもより腰痛てえし、前も後ろもヒリヒリするし、昨夜おまえ、オレになにしたんだよ。わかった、わかりました、言えばいいんだろ?そんな怖い顔すんじゃねえよ。おまえは、雅治は、世界中で誰よりも愛する、オレの夫です。うっわあーー!急に抱きつくなあーー!え?待って、まさか、ウソだろ、今、朝だよ、朝?!やだやだ、もう出来ないって!腰が痛いんだって、無理、ほんと無理、マジで無理!やーめーてぇ、お願い、雅治!!あぁぁぁーーーん!」









■おわり■




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