チェリークール

フジキフジコ

文字の大きさ
51 / 105
【番外編】世界中で誰よりも

5.もう一度恋をする

しおりを挟む
晶の実家に到着すると、真佐子が玄関に迎えに出た。
「いらっしゃい。さあ、二人とも入って。お父さんも待ってるのよ。一緒に晩御飯食べましょう」

晶と相談して、晶の両親には記憶の一部を失っていることは伏せておくことにした。

両親には雅治から、しばらくNYに出張することになり、その間、自宅をリフォームするために、晶を置いて欲しいと電話で説明していた。

4人で食事をしてお茶を飲んだあと、雅治は晶の両親に丁寧に挨拶して、晶の実家を出た。
玄関で泣きそうな顔をして立っていた晶には、「大丈夫」というように目を見て微笑みながら頷いた。
大丈夫じゃないのは自分の方の気がした。

もし、このまま晶がこの家から戻ってこなかったら。
考えないようにしても、その怖ろしい考えが浮かんでは雅治を追いつめる。
ところが、重い足取りで家の外から道路に下りる5段ほどの石段を降りていると、玄関が思い切り開いて、荷物を持った晶が追いかけてきた。

「晶!?どうしたの」
「オレも一緒に帰る。なんか、今、離れたらいけない気がする」
雅治の前で、必死な面持ちでそんなことを言う。

階段から玄関の方を見ると、晶の両親が、笑いながら立っていた。
「晶ったら、本当に雅治さんのこと好きなのね。迷惑でなければ、出発ギリギリまで一緒にいてあげて」
真佐子にもそう言われて、雅治は晶と一緒に帰ることにした。

帰りの車では、横浜に向かうときよりもいくらか、心が晴れやかになっていた。
「ね、晶、少しはオレのこと、思い出してくれたってこと」
「そうじゃない。ただ…、雅治と一緒にいると、なんか胸がドキドキして、離れると思ったら、すげえ悲しかった」

あまり上手くない、拙い表現でそう言われて、自分を単純だと思いながら雅治は口許が緩む。

「そうか。それもいいな。思い出せなくても、またオレのことを好きになってくれればいいよ。もう一度最初から恋をはじめられるなんて、考えたらすげえ贅沢じゃん」

だけど、二人の歴史を失う。
10年という、決して短くはなかった、愛しい時間を、失う。
それを少し残念に思うけれど、自分だけが持っていてもいいと雅治は思う。
思うしかなかった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...