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【番外編】世界中で誰よりも
5.もう一度恋をする
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晶の実家に到着すると、真佐子が玄関に迎えに出た。
「いらっしゃい。さあ、二人とも入って。お父さんも待ってるのよ。一緒に晩御飯食べましょう」
晶と相談して、晶の両親には記憶の一部を失っていることは伏せておくことにした。
両親には雅治から、しばらくNYに出張することになり、その間、自宅をリフォームするために、晶を置いて欲しいと電話で説明していた。
4人で食事をしてお茶を飲んだあと、雅治は晶の両親に丁寧に挨拶して、晶の実家を出た。
玄関で泣きそうな顔をして立っていた晶には、「大丈夫」というように目を見て微笑みながら頷いた。
大丈夫じゃないのは自分の方の気がした。
もし、このまま晶がこの家から戻ってこなかったら。
考えないようにしても、その怖ろしい考えが浮かんでは雅治を追いつめる。
ところが、重い足取りで家の外から道路に下りる5段ほどの石段を降りていると、玄関が思い切り開いて、荷物を持った晶が追いかけてきた。
「晶!?どうしたの」
「オレも一緒に帰る。なんか、今、離れたらいけない気がする」
雅治の前で、必死な面持ちでそんなことを言う。
階段から玄関の方を見ると、晶の両親が、笑いながら立っていた。
「晶ったら、本当に雅治さんのこと好きなのね。迷惑でなければ、出発ギリギリまで一緒にいてあげて」
真佐子にもそう言われて、雅治は晶と一緒に帰ることにした。
帰りの車では、横浜に向かうときよりもいくらか、心が晴れやかになっていた。
「ね、晶、少しはオレのこと、思い出してくれたってこと」
「そうじゃない。ただ…、雅治と一緒にいると、なんか胸がドキドキして、離れると思ったら、すげえ悲しかった」
あまり上手くない、拙い表現でそう言われて、自分を単純だと思いながら雅治は口許が緩む。
「そうか。それもいいな。思い出せなくても、またオレのことを好きになってくれればいいよ。もう一度最初から恋をはじめられるなんて、考えたらすげえ贅沢じゃん」
だけど、二人の歴史を失う。
10年という、決して短くはなかった、愛しい時間を、失う。
それを少し残念に思うけれど、自分だけが持っていてもいいと雅治は思う。
思うしかなかった。
「いらっしゃい。さあ、二人とも入って。お父さんも待ってるのよ。一緒に晩御飯食べましょう」
晶と相談して、晶の両親には記憶の一部を失っていることは伏せておくことにした。
両親には雅治から、しばらくNYに出張することになり、その間、自宅をリフォームするために、晶を置いて欲しいと電話で説明していた。
4人で食事をしてお茶を飲んだあと、雅治は晶の両親に丁寧に挨拶して、晶の実家を出た。
玄関で泣きそうな顔をして立っていた晶には、「大丈夫」というように目を見て微笑みながら頷いた。
大丈夫じゃないのは自分の方の気がした。
もし、このまま晶がこの家から戻ってこなかったら。
考えないようにしても、その怖ろしい考えが浮かんでは雅治を追いつめる。
ところが、重い足取りで家の外から道路に下りる5段ほどの石段を降りていると、玄関が思い切り開いて、荷物を持った晶が追いかけてきた。
「晶!?どうしたの」
「オレも一緒に帰る。なんか、今、離れたらいけない気がする」
雅治の前で、必死な面持ちでそんなことを言う。
階段から玄関の方を見ると、晶の両親が、笑いながら立っていた。
「晶ったら、本当に雅治さんのこと好きなのね。迷惑でなければ、出発ギリギリまで一緒にいてあげて」
真佐子にもそう言われて、雅治は晶と一緒に帰ることにした。
帰りの車では、横浜に向かうときよりもいくらか、心が晴れやかになっていた。
「ね、晶、少しはオレのこと、思い出してくれたってこと」
「そうじゃない。ただ…、雅治と一緒にいると、なんか胸がドキドキして、離れると思ったら、すげえ悲しかった」
あまり上手くない、拙い表現でそう言われて、自分を単純だと思いながら雅治は口許が緩む。
「そうか。それもいいな。思い出せなくても、またオレのことを好きになってくれればいいよ。もう一度最初から恋をはじめられるなんて、考えたらすげえ贅沢じゃん」
だけど、二人の歴史を失う。
10年という、決して短くはなかった、愛しい時間を、失う。
それを少し残念に思うけれど、自分だけが持っていてもいいと雅治は思う。
思うしかなかった。
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