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11.側にいること
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「なんで僕に、そんなこと頼むの」
自分のかわりに那智の側にいてやって欲しい。
突然樫野に言われて、芳彦は驚きながら言う。
「もちろん、僕は僕に出来る精一杯のことをするつもりだよ。でも、那智が今一番必要としているのは、僕じゃないと思う」
理由を説明せずに、芳彦がそんな頼みごとを聞いてくれるはずがなかった。
「…オレ、最低なことしたんだ。那智に、ひどいこと。辛いのは那智なのに、那智に忘れられる自分のことばっか考えて。つけこむような真似で、那智を抱こうとした」
重い口を開くように言った樫野を、芳彦は慰めるように見つめた。
「気持ち、わかるよ。そんなに自分を責めることはないと思う。忘れられるほうだって、辛いのは当然だよ」
まして好きな人に思い出ばかりか、存在自体を忘れられる、というのは。
自分だったら耐えられないかもしれない。
「圭太もね、傷ついてるみたい。この前、僕と拓人の話、少し立ち聞きしたみたいで、那智くんは悲しいことを忘れたくて、自分たちのことも忘れるのかって、僕たちの存在ってその程度なのかって、泣きながら怒ってた」
「圭太が?」
「圭太だけじゃない。僕も悠希も、どうしていいかわからなくて戸惑ってる。どうしたら那智を助けることが出来るのか、わからないんだよ」
悩み苦しんでいるのは自分だけじゃないとわかるような芳彦の言葉に、樫野ははっとした。
「拓人、今日のプロモ撮り、どう思った?」
「どうって?」
「僕には、信じられなかった。あれが、那智のダンスだっていうことが」
「芳彦……」
「那智は違う、あんなんじゃない。那智のダンスはもっと華麗で、優雅で、誰にも真似出来ないくらい綺麗だったよね。なにしろ、振付師のキング・ジャクソンが目を付けたくらいなんだよ。キングに誘われたとき、アメリカに行っていたら、那智はアメリカの一流ポップスターのバックで踊れたんだ」
その時のことを思い出して、樫野が遠い目をした。
「那智、一瞬も迷わなかったな。NOって、きっぱり断って。なんで那智は断ったんだろう」
「僕にはなんとなくわかる。拓人は鈍感だ」
「悪かったな」
俯いて少し笑った芳彦は顔をあげると、真っ直ぐ、樫野を見つめた。
「拓人、悲しいけど、那智はもう限界だよ。プロモは編集で繋ぐことが出来るからいい。でも、ライブは無理だ。収録にしても何度も撮り直しを頼まなければいけなくなる。そのとき、辛い思いをするのは那智だ。終わりに、してあげなくちゃ」
「それを、オレに言えっていうのか」
辛そうに、視線を逸らして「言えない」と言う樫野の腕を、芳彦は強く掴んだ。
「君しかいない。拓人、今更逃げるなんて許さないよ。君が現われるまでは、那智の親友は僕だったんだからね。君が、僕から、那智をとったんだ」
拗ねたように言われて、樫野はうろたえた。
「とったって、おまえ…」
「本当は寂しかったんだよ。僕だって、那智のこと大好きだったんだから。だけど…」
樫野に向けられた瞳の奥に、涙が光った。
「誰にも頼ろうとしない那智が、君の前では弱さを見せることが出来ることを知ったから、許したんだ。お願いだから、ちゃんと最後まで那智の側に、いてあげて」
自分のかわりに那智の側にいてやって欲しい。
突然樫野に言われて、芳彦は驚きながら言う。
「もちろん、僕は僕に出来る精一杯のことをするつもりだよ。でも、那智が今一番必要としているのは、僕じゃないと思う」
理由を説明せずに、芳彦がそんな頼みごとを聞いてくれるはずがなかった。
「…オレ、最低なことしたんだ。那智に、ひどいこと。辛いのは那智なのに、那智に忘れられる自分のことばっか考えて。つけこむような真似で、那智を抱こうとした」
重い口を開くように言った樫野を、芳彦は慰めるように見つめた。
「気持ち、わかるよ。そんなに自分を責めることはないと思う。忘れられるほうだって、辛いのは当然だよ」
まして好きな人に思い出ばかりか、存在自体を忘れられる、というのは。
自分だったら耐えられないかもしれない。
「圭太もね、傷ついてるみたい。この前、僕と拓人の話、少し立ち聞きしたみたいで、那智くんは悲しいことを忘れたくて、自分たちのことも忘れるのかって、僕たちの存在ってその程度なのかって、泣きながら怒ってた」
「圭太が?」
「圭太だけじゃない。僕も悠希も、どうしていいかわからなくて戸惑ってる。どうしたら那智を助けることが出来るのか、わからないんだよ」
悩み苦しんでいるのは自分だけじゃないとわかるような芳彦の言葉に、樫野ははっとした。
「拓人、今日のプロモ撮り、どう思った?」
「どうって?」
「僕には、信じられなかった。あれが、那智のダンスだっていうことが」
「芳彦……」
「那智は違う、あんなんじゃない。那智のダンスはもっと華麗で、優雅で、誰にも真似出来ないくらい綺麗だったよね。なにしろ、振付師のキング・ジャクソンが目を付けたくらいなんだよ。キングに誘われたとき、アメリカに行っていたら、那智はアメリカの一流ポップスターのバックで踊れたんだ」
その時のことを思い出して、樫野が遠い目をした。
「那智、一瞬も迷わなかったな。NOって、きっぱり断って。なんで那智は断ったんだろう」
「僕にはなんとなくわかる。拓人は鈍感だ」
「悪かったな」
俯いて少し笑った芳彦は顔をあげると、真っ直ぐ、樫野を見つめた。
「拓人、悲しいけど、那智はもう限界だよ。プロモは編集で繋ぐことが出来るからいい。でも、ライブは無理だ。収録にしても何度も撮り直しを頼まなければいけなくなる。そのとき、辛い思いをするのは那智だ。終わりに、してあげなくちゃ」
「それを、オレに言えっていうのか」
辛そうに、視線を逸らして「言えない」と言う樫野の腕を、芳彦は強く掴んだ。
「君しかいない。拓人、今更逃げるなんて許さないよ。君が現われるまでは、那智の親友は僕だったんだからね。君が、僕から、那智をとったんだ」
拗ねたように言われて、樫野はうろたえた。
「とったって、おまえ…」
「本当は寂しかったんだよ。僕だって、那智のこと大好きだったんだから。だけど…」
樫野に向けられた瞳の奥に、涙が光った。
「誰にも頼ろうとしない那智が、君の前では弱さを見せることが出来ることを知ったから、許したんだ。お願いだから、ちゃんと最後まで那智の側に、いてあげて」
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