カラダの恋人

フジキフジコ

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ヒミツの恋人【第一部】

1.ふたり暮らし

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指が…こめかみから滑るように髪の中に落ちていく。
なんでそんなとこ、さわんだよ…そう思っても声には出ない。
「……っ、…あっ」
さっきからオレにだせるのは意味のない、出来れば飲みこんでしまいたい途切れ途切れの声だけ。

「なあ、ココっていいの?」
それなのに紺野は余裕しゃくしゃくで、わざわざ人の耳元でそんなことを聞いてくる。
浅く繋がったところを掻き回すように腰なんか使いやがって。
「…うっ…」
「なあって…」

言って紺野はしつこく触っていたオレの前髪をかきあげて、額にキスしてきた。
紺野の汗に濡れた胸がちょうどオレの顔の側にあって、上下するその胸の鼓動がなんか艶かしい。
オレは多分無意識で、紺野の背中に腕を回した。
そう多分、紺野を自分のカラダの奥深くに引き寄せるために。

なに、って目で紺野がオレの顔を覗きこむ。
わかってるくせに。なんて意地の悪いヤツ。
「も…やだって…っ」
「イキたいの?オレ、まだ愉しみたいのに」
しっかりと紺野の腕がオレの腰に回って、いままでとは違う激しさで身体を揺すられる。
奥まで、突かれる。
「あっ!やっ…あ、ああ…んっ」
頭の中が真っ白になる。
もう恥も意地もプライドもない。
この快感は陥落する感覚。

でもオレは心配なんかしたことはない。
どこに陥ちても、紺野がしっかり手を握っていてくれるから。



***



先にシャワーをすませて、部屋に戻ると紺野はオレの布団でうつ伏せになってすっかり寝こけていた。
「紺野、風呂!風呂入れって」
「ん…も、いい。明日の朝で」
寝惚けた声で毛布にもぐりこんで、言う。
「オレがやなんだよっ」
と、言ったところでこうなった紺野はテコでも動かせないことはもう身に染みて知っている。

紺野と一緒に暮らすようになって半年、何度こんなことがあったか。
しょうがねえな、明日の朝、シャワーを浴びるための時間を考えていつもより30分早く起こしてやる、と考えながらオレは布団の横に座って、紺野の毛布からはみ出たむきだしの肩を見ていた。

日に焼けた小麦色の、滑らかで筋肉のつきかたも綺麗な肩。
普段はこんなの見てもナンとも思わないけど、こういうときはつい考えてしまう。
さっきまで、この腕に抱かれてたんだって…。
考えただけなのに顔が火照る。
ダメだ、恥ずかしい。寝よ、もう。

オレは紺野の横にもぐり込んだ。
ちゃんと自分のベッドがあるくせに、なんだってこんな窮屈な思いをして一緒に寝てんだろう。
そう思いながら、けどそれを許してる自分自身のことが不思議だった。

紺野が一緒に暮らそうといい始めたときは正直言って戸惑った。
なんとなく、それはしない方がいいって思った。
いくら好きな…違う、気の合う相手とだって、人間関係はある程度距離をとった方がうまくいくと思うし、高校時代から寮とはいえ親元を離れて暮らしていたオレはすっかり一人でいることに慣れて、生活様式の違う他人と一緒に暮らす自信なんてまるでなかった。
そう、それがたとえ紺野とでも。

今思えばオレは不安だったんだと思う。
もし、うまくいかなかったら。
一緒に暮らして、お互いの嫌なところを知って、嫌いになったら。
紺野に、嫌われたら。
絶対に口にはしない心の奥底に、そんな不安は間違いなくあった。

結局、いつものように紺野の強引に押しきられて同居することになって、オレが出した同居の第一条件は寝室(個室)は別、ってことだった。

オトコと同居するのになにが悲しくてそんな至極もっともな条件を出さなきゃいけないのか情けないが、紺野の非常識にはときどき度肝を抜かれるから、どうしてもそれだけは確約を取る必要があった。

紺野は案外簡単にその条件を受け入れて(いくら個室が別でもこうしょっちゅう人の布団で寝られたら意味がない気がするけど)、オレたちは大学卒業間際に、この2DKのアパートに引っ越した。

どう見ても新婚さん向きの外見は気に入らなかったものの、自分で物件を探す気力もなかったし、勤務先の学校まで電車で乗り換えなしの2駅という近さもあって、オレは妥協した。

そんなこんなで一緒に暮らすようになって半年立つが、オレたちの間にいまのところまだ波風はたってない。
けど、これからどうなるかは誰にもわからない。
うん、そう、誰にも。


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