カラダの恋人

フジキフジコ

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ヒミツの恋人【第一部】

8.女子高生

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松浦の家からアパートに帰る途中でスーパーで買い物をして、ビニール袋を手にアパートの階段をあがると、部屋の前にミニスカートから覗く生足が眩しい制服姿の女子高生が3人立っていた。
「わっ。な、なんか用?」
情けないことにオレはどもりながら言った。

女子高生という生き物は一人なら少しも怖くないのに、複数だと、なぜか怖い。
その可愛らしい外見を裏切って口から飛び出す言葉には毒があることが多いからだ。

女子高生たちはお互いに顔を見合わせて、肘を突付きあっている。
一番右端の、活発そうなショートヘアの子が言った。
「あの、ここ、紺野先生の部屋ですよね?」
「そうだけど、君たち、紺野の生徒さん?」
「はい。失礼ですが、あなたはどなたですか」
「オレは紺野と同居している佐倉です」
オレが恭しく自己紹介すると、3人は目をパチパチさせたあと、急に表情を崩して「なーんだ」と言った。
あの、なにが「なんだ」なんでしょうか。

「よかったね、美鈴!」
左右それぞれの子が、真ん中の子に向かってそう言っている。
真ん中の子は「やだ、やめてよ。恥ずかしい」と二人をたしなめながら頬を染めた。
事情のわからないオレがキョトンとしていると、今度は左端のぽっちゃりした子が説明するように言った。
「私たち、てっきり紺野先生が恋人と同棲してるんだと思ったんです。部屋に来て見たら表札もやっぱり二人分書いてあって、『佐倉さん』っていうのが、先生の恋人だとばっかり思い込んじゃって」
いや、それは、案外間違ってないような…。
別にオレは紺野のこと「恋人」って認めてるわけじゃないけど、紺野の認識では多分、そういうことだと、思います。
とは言えなかったけど。

「はあ」
「騒いじゃって、すみませんでした」
真ん中の子が、頭を下げた。
今時珍しい黒髪のストレートのロング。
色の白い顔立ちは清楚で、なかなかの美少女だった。

「あの、紺野先生って恋人いるんですよね?」
ショートヘアの子が聞いてくる。
真ん中の子が「やめなよ」と袖を引っ張るのを「美鈴だって気になるでしょ」と言う。
「もう何人も紺野先生に告白して、みんな玉砕してるんです。だから、先生の恋人、ものすごく美人なんだって思って。佐倉さん、会ったことあります?」
「いや、あの…ないです、ない。はい」
「そうですか。でも、紺野先生あんなにカッコいいんだもん、彼女なんていて当たり前ですよね」

「もしかして、紺野ってモテる?」
女子高生たちの物怖じしないキャピキャピした態度につられて、つい聞かなくてもいいことを聞いてしまった。
「すっごいです。ファンクラブがあります。なにしろ女子高なんで、若い男ってだけで無条件でモテるんですけど、紺野先生の場合、あれだけカッコいいんで」
「へえ、そう…」
「でも、紺野先生って、恋人一筋!って感じなんですよね。告白した子、ノロけられたって泣いてました。かなりの美人で、色っぽくて、素直じゃないけど怒った顔まで可愛いとかなんとか」
生徒に何喋ってんだ、あいつ。
「無神経なヤツで、どうもすみません」
「いやだ、佐倉さんのせいじゃないですから」

紺野の「恋人」の話が出たせいか、美鈴ちゃんが悲しそうに俯く。
それに気づいたぽっちゃりした子が美鈴ちゃんの肩を叩いた。
「でも、大丈夫だよ、美鈴。先生とその彼女だって、いつまで続くかわからないし。美鈴は可愛いし、きっと美鈴のが若いしね。そうですよね?佐倉さん」
はいはい、どーせ、オレは可愛くもねえし、若くもねえよ。
とっとと帰れ。

やっぱりそうは言えなくてオレは曖昧に笑いながら、まだ話し足りない素振の3人を苦労して追っ払った。


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