カラダの恋人

フジキフジコ

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ヒミツの恋人【第二部】

8.作戦デート

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「お・ま・た・せ」
目の前に現れた浅岡さんは、今日も扇情的な格好だった。
胸元の大きく開いたシャツは、裾が極端に短くてヘソが見えそうだし、スカートもやっとパンツが隠れるくらい。
しっかり布を節約している、地球に優しいファッションだ。

「い、行こうか」
オレが言うと、浅岡さんはニッコリ微笑んで、オレの腕を組んできた。
ちょっと強引で変わってるけど、やっぱり女の子らしい可愛いところもあるんだよなあ、と思って鼻の下が伸びてしまった。

「ゴッホン!」
そのとき、背後から大きな、ワザとらしい咳が聞こえてオレは振り返った。
そこには電柱に身体を半分隠した陸がいた。
頭にハンチング帽を被り、目には大きなサングラスをしている。
変装のつもりだろうが、陸を知ってる人間が見れば誰にでも陸だってことがわかる。
半分予想はしていたけど、やっぱり後をついてくるつもりなんだろうなあ。

デートコースは陸が考えた通りにした。
まずは、駅前の商店街でウィンドショッピング。
疲れたところで、夕食は居酒屋で軽くビールを一杯と食事を少々。
そして、居酒屋を出てからが問題だ。
なんとなくブラブラ歩いてて、あれ、こんなところに来ちゃったよ、という自然な装いで駅裏のホテル街に向かわなければならない。
しかし難しいと思っていたそれが意外に上手くいった。
レールでも敷かれているんじゃないかというくらいスムーズに、気づいたらオレたちはネオン煌びやかなホテルストリートに迷い込んでいた。
でも考えてみたら、今までの人生で女の子を強引にホテルに連れ込むなんてしたことがない。
腕を掴んで「ちょっと休んでいかないか」と言うだけでいいとわかってはいても、なかなか勇気が出なかった。

気づくとホテルストリートの出口まで進んでいた。
マズイ。
オレが内心でうろたえていると、浅岡さんが急に立ち止まった。
「どうしたの」
「さっきから、変な人が後をつけてるの。きっと私のストーカーだわ。四ノ宮君、麻美、怖いよう」
言って、浅岡さんはオレに抱きついた。
「えっ?!」
っていうか、それは多分、君のじゃなくて、オレのストーカーだから安心していいよ、とは言えない。
「ねえ、怖いからここに隠れよう」
「はあ?」
どこに?
と聞き返すまえに、オレは浅岡さんに押されて、ホテルの簾式玄関を潜っていた。
「えええええ?」
中に入ると、浅岡さんは実に慣れた様子でパネルで部屋を選んでいる。
「行こ、四ノ宮君」
オレの腕を組んで、ずんずん進んでいった。

オレは想定外の事態になすすべもなく、気がつけばホテルの部屋の中でシャワーを浴びていた。
「なんでこうなるんだよ。引っ叩かれて終わるんじゃなかったのかよ」
ブツブツ文句を言いながら、生温い湯を浴びて、どうすればいいか考える。
ここまで来て、実は君と付き合うつもりはなかったとか、セックスは出来ないとか、そんなことが言えるんだろうか、オレに。
それに、男として、女の子に恥をかかせていいのか。
かといってここで浅岡さんとヤッちゃったら、陸は激怒するだろう。
激怒して、オレと別れる、とか言うかもしれない。
どうしたら、いいんだろう。

考えていたら面倒になって、それも仕方ないかもしれないと思いはじめた。
どうせ陸はいつかはオレとのことに飽きちゃうんだから、それが今になっただけのことじゃないか。
多分、オレは相当悲しいと思う。
でも乗り越えられないことはないだろう。
失恋なんて、誰でも一つや二つ、経験するものだ。
オレは腹をくくった。
浅岡麻美を抱こう、そう決心した。


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