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73兄弟の誇り
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レオポルドは中庭と夫婦部屋を往復し、最後まで気を張っていた。
過保護な妻と従者に囲まれて、世間から少しだけ遠いところに身を置いていた。鍛錬をするのにこれほど理想的な環境も無かっただろう。
大会の当日になると、まるで世界が熱で浮かされたように喧噪で満ちていった。
人々は王子のあれこれを見知っており、噂があらゆる場所まで行き届いている。「王子が婚約をかけて果たし合いをする」、この文言が熱狂と興奮を生むのに時間はいらなかった。
「レオポルド殿下が決闘の場で勝ち、いかなる手を尽くしてでもルイ妃の名誉と立場を守る」
さほど伝統とか国の習わしに興味のない民衆でも、気運に動かされることは必然であった。大会の舞台となる円形闘技場、古来よりの神事そのものが、再び役割を果たすことになるのだから。死ぬ前に拝みたいと人々が列をなし、群れをなすこととなった。
王妃ミランダの出席と、これまた珍しく他国の姫が大会を観戦することが決まったと、都ではお祭り状態であった。
「皮肉なものだよな。俺たちは新たな時代の寵児になるはずだったのに」
「ああ……」
「今はどうだ、血なまぐさい決闘戦士の時代に逆戻りだ」
レオポルドは、兄であるロイドの愚痴に付き合わされていた。たくさんの感情に振り回されている、王族も、その例に漏れることはなかった。
重たい鎧に着替えている間でも、会話が途切れることはない。ロイドの方は、いつもよりも調子を上げながら不敵な笑みを浮かべている。
「うまくやったよ、お前は。よく母上を説き伏せることができたな」
「あれはルイのおかげなんだよ。二人で腹を割って話したらしい」
「ともあれ本当にお前の描いたとおりになってしまったわけだから、末恐ろしいよ」
大会では同じ騎士部門に参加する。王族であろうと勝ち残りの掟は変わらず、三人の兄弟もまた王国最強の座を争うことになる。
「お前が心を捧げた相手は結局、ルイさんだったかぁ」
「他にいたと思うか?」
「不仲の噂とかもあったからな。ま、それこそ杞憂だったわけだが」
ロイドは靴を磨きながら、わざわざ王宮の噂をあげて切り込んでくる。お互いの好意を認め合うまでは、確かに不仲だったと言えなくもない。そんな期間もあったから、レオポルド側もはっきり否定することはしない。
「どこまでも人騒がせな夫婦だよ、お前たちは」
「面目ない」
「いや褒めてるんだよ。王宮はこれでまた面白くなる、より強固に人がまとまる」
分断を生み出しているレオポルドからしてみれば、この言葉は頷きづらかった。それでも、年長者の言わんとしていることはなんとなく伝わってくる。
母の本音が聞けて、兄であるマルクスとも正々堂々、今日闘うことができる。ルイの周りの人間とも理解が進み、この舞台のおかげで、時の流れが急速に早まっていく感じがした。
「若い人間が日和っていたら、国がますます滅んでいくだけさ」
「はっ、ロイド兄上も若いだろ。結婚はしないのか?」
「俺は運命の淑女を抱くためにいつも準備はしているよ」
冗談なのか本気なのか。のん気にそれっぽいことを話すロイドに向けて、レオポルドはお世辞代わりに笑ってみせた。頼りがいのある兄だが、こういう飄々としたところは侮れない。
「お前のように駆け抜ける人生も、案外難しいわけだ」
「今はそうでもないさ。俺はルイに支えられているから」
それが一番難しいんだよと、兄の方はあからさまに不平を訴えてくる。
運命の相手。同じ夢にひたすら付き合ってくれる相棒、それはまさに生涯でもかけがえのない存在といえるだろう。そんな貴重な存在を、レオポルドはすでに手にしている。
「こぼすなよ、絶対に」
「ロイド兄上……」
「お前はよく頑張った。よく守ったよ。あとは、待ちわびていた舞台で勝利を飾るだけだな」
強く肩を叩かれると同時に、わかりやすく激をもらい受ける。レオポルドは兄の顔を見ながら、まざまざと高ぶるものを呼び起こしていった。
無邪気にこぼれるロイドの笑みからは、哀愁のような香りをも感じられた。湧き上がる情熱と、これから始まる行事への幕開けにふさわしく、二人の兄弟は手を強く握り合った。
過保護な妻と従者に囲まれて、世間から少しだけ遠いところに身を置いていた。鍛錬をするのにこれほど理想的な環境も無かっただろう。
大会の当日になると、まるで世界が熱で浮かされたように喧噪で満ちていった。
人々は王子のあれこれを見知っており、噂があらゆる場所まで行き届いている。「王子が婚約をかけて果たし合いをする」、この文言が熱狂と興奮を生むのに時間はいらなかった。
「レオポルド殿下が決闘の場で勝ち、いかなる手を尽くしてでもルイ妃の名誉と立場を守る」
さほど伝統とか国の習わしに興味のない民衆でも、気運に動かされることは必然であった。大会の舞台となる円形闘技場、古来よりの神事そのものが、再び役割を果たすことになるのだから。死ぬ前に拝みたいと人々が列をなし、群れをなすこととなった。
王妃ミランダの出席と、これまた珍しく他国の姫が大会を観戦することが決まったと、都ではお祭り状態であった。
「皮肉なものだよな。俺たちは新たな時代の寵児になるはずだったのに」
「ああ……」
「今はどうだ、血なまぐさい決闘戦士の時代に逆戻りだ」
レオポルドは、兄であるロイドの愚痴に付き合わされていた。たくさんの感情に振り回されている、王族も、その例に漏れることはなかった。
重たい鎧に着替えている間でも、会話が途切れることはない。ロイドの方は、いつもよりも調子を上げながら不敵な笑みを浮かべている。
「うまくやったよ、お前は。よく母上を説き伏せることができたな」
「あれはルイのおかげなんだよ。二人で腹を割って話したらしい」
「ともあれ本当にお前の描いたとおりになってしまったわけだから、末恐ろしいよ」
大会では同じ騎士部門に参加する。王族であろうと勝ち残りの掟は変わらず、三人の兄弟もまた王国最強の座を争うことになる。
「お前が心を捧げた相手は結局、ルイさんだったかぁ」
「他にいたと思うか?」
「不仲の噂とかもあったからな。ま、それこそ杞憂だったわけだが」
ロイドは靴を磨きながら、わざわざ王宮の噂をあげて切り込んでくる。お互いの好意を認め合うまでは、確かに不仲だったと言えなくもない。そんな期間もあったから、レオポルド側もはっきり否定することはしない。
「どこまでも人騒がせな夫婦だよ、お前たちは」
「面目ない」
「いや褒めてるんだよ。王宮はこれでまた面白くなる、より強固に人がまとまる」
分断を生み出しているレオポルドからしてみれば、この言葉は頷きづらかった。それでも、年長者の言わんとしていることはなんとなく伝わってくる。
母の本音が聞けて、兄であるマルクスとも正々堂々、今日闘うことができる。ルイの周りの人間とも理解が進み、この舞台のおかげで、時の流れが急速に早まっていく感じがした。
「若い人間が日和っていたら、国がますます滅んでいくだけさ」
「はっ、ロイド兄上も若いだろ。結婚はしないのか?」
「俺は運命の淑女を抱くためにいつも準備はしているよ」
冗談なのか本気なのか。のん気にそれっぽいことを話すロイドに向けて、レオポルドはお世辞代わりに笑ってみせた。頼りがいのある兄だが、こういう飄々としたところは侮れない。
「お前のように駆け抜ける人生も、案外難しいわけだ」
「今はそうでもないさ。俺はルイに支えられているから」
それが一番難しいんだよと、兄の方はあからさまに不平を訴えてくる。
運命の相手。同じ夢にひたすら付き合ってくれる相棒、それはまさに生涯でもかけがえのない存在といえるだろう。そんな貴重な存在を、レオポルドはすでに手にしている。
「こぼすなよ、絶対に」
「ロイド兄上……」
「お前はよく頑張った。よく守ったよ。あとは、待ちわびていた舞台で勝利を飾るだけだな」
強く肩を叩かれると同時に、わかりやすく激をもらい受ける。レオポルドは兄の顔を見ながら、まざまざと高ぶるものを呼び起こしていった。
無邪気にこぼれるロイドの笑みからは、哀愁のような香りをも感じられた。湧き上がる情熱と、これから始まる行事への幕開けにふさわしく、二人の兄弟は手を強く握り合った。
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