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廊下を吹き抜ける渇いた風、窓を叩きつける大きな音がわずらわしく鳴っていた。
身支度を終えたレオポルドの行く手には、多くの人員が集っていく。王宮から帰ってきたのが1年前、その時には想定もしていない人数となっている。
大行列が後をなし、第三王子の格を誇示しているかのようだ。
「王子ならこうでなくては」
ララが言うには、貴族もそれなりのお付きを侍らせてくるというので、見た目は徹底するべきだという。レオポルドはそんな些末なことを気にする性格ではないのだが、大舞台のために必要なものは揃えていた。
レオポルドの隣を占めるのは、いつも通りルイだった。彼が奔走したおかげで、今日の晴れ舞台ができあがったと言ってよい。それに加えて、王妃ミランダとは秘密裏にたくさんの情報を共有しているため、いざという時の備えもできている。完璧な準備のもとで夫を送り出そうとこちらも気張っていた。
「立派なお姿です」
「照れるから、あんまり見るのはよしてくれよ」
「では、会場で好きなだけ見させてもらいますね」
普段と同じ面持ちのルイは、さも当然のように会場までの道を指し示した。
この道をまっすぐ、東に行けばわかることだ。王国の威信が刻み込まれた円形闘技場。そこを囲む何百、何千という観衆がいる。彼らを前に、武門の誉れに恥じぬ戦いをしなければならないこと。レオポルドにとってそれは、単に敵を打ち倒すこと以上の意味も持っている。
「8年前に戻ったみたいだ」
「そうか……そうですよね」
ルイはそれを聞いても、やはり特別なことは何もなさそうに振る舞っていた。
前にこの長い廊下を歩いた時、レオポルドは独りだった。着慣れない防具をひきずって、緊張を抱えながら、それでも前を進もうと思ったのはルイに立派な姿を見せたい一心であったからだった。
今はどうだろう。隣にルイがいて、かけがえのない仲間が周りに見えている。
「でも不思議だ。こんなに、色々なことが違うものなんだな」
「景色、どうですか?」
先の先まで、見える。子どもの時に届かなかった視界に、ワクワクと気持ちが高ぶっていく。
闘技場に灯された大きなかがり火、丸みを帯びた石の曲線もとらえることができる。なにより人が、大海のように地面を埋め尽くしている。まるで波を打つかのように、人が人を押して乱れていた。
「うん……よく見えるよ」
レオポルドは強く拳を握りしめる。ついに来た、因縁の場所へ戻ってきたと心が騒いでいる。
大きく口を開けている出入り扉を、一息にくぐり抜けようとした。その直後、ほとんど同じ瞬間に兄であるマルクスとすれ違った。
「……」
対峙する両者は、一度だけ目線を合わせた後、物言わずに黙っていた。
長男の方は王太子らしく豪華な衣をなびかせて、通り過ぎようとしている。レオポルドは大会前に、兄とはせめて声を交えておきたかった。
「俺が勝つよ。兄上!!」
「……」
「くだらない夢にも意味があるってことを、今日で証明してやる」
「ふんっ……ほざいてろ」
相手は、小さく低い唸りのような声をあげた。見るからに怒りを滲ませて、敵意むき出しの表情でいる。話が通じる状況でないことは、ルイも含め、かなりの人間が思い知ることであった。
「最強か、いや。お前には最も狂った王子の称号がお似合いだ」
「他人の婚約を打ち消そうとしている兄上の方が、よっぽど凶悪じみてると思うが」
「王家のこれまでの歴史に泥を塗るような、忌まわしい婚約ならば当たり前のことだ」
「俺たちは都合のいい駒じゃないんだ!!人とつながり合いながら生きている、それが兄上にはわからないのか!?」
ルイとの関係を、いつまでも大事にしたいと思っているだけだ。レオポルドは梃子でも動かない気持ちで、兄にそう反論した。人間は、政治の道具じゃない。元はといえば、ルイとレオポルドの婚約も兄や王妃が無理やり結びつけた。この事実だけでも苦しいのに、どうして目の前の男は正義を誇ったような顔をしているんだろう。
決闘の前につかみ合いが起こりかねない。このままでは埒が明かないと、ルイがレオポルドの背を押すことで修羅場はなんとか避けることとなる。兄弟の対話はここに来ても、うまく成り立つことはなかった。
廊下を吹き抜ける渇いた風、窓を叩きつける大きな音がわずらわしく鳴っていた。
身支度を終えたレオポルドの行く手には、多くの人員が集っていく。王宮から帰ってきたのが1年前、その時には想定もしていない人数となっている。
大行列が後をなし、第三王子の格を誇示しているかのようだ。
「王子ならこうでなくては」
ララが言うには、貴族もそれなりのお付きを侍らせてくるというので、見た目は徹底するべきだという。レオポルドはそんな些末なことを気にする性格ではないのだが、大舞台のために必要なものは揃えていた。
レオポルドの隣を占めるのは、いつも通りルイだった。彼が奔走したおかげで、今日の晴れ舞台ができあがったと言ってよい。それに加えて、王妃ミランダとは秘密裏にたくさんの情報を共有しているため、いざという時の備えもできている。完璧な準備のもとで夫を送り出そうとこちらも気張っていた。
「立派なお姿です」
「照れるから、あんまり見るのはよしてくれよ」
「では、会場で好きなだけ見させてもらいますね」
普段と同じ面持ちのルイは、さも当然のように会場までの道を指し示した。
この道をまっすぐ、東に行けばわかることだ。王国の威信が刻み込まれた円形闘技場。そこを囲む何百、何千という観衆がいる。彼らを前に、武門の誉れに恥じぬ戦いをしなければならないこと。レオポルドにとってそれは、単に敵を打ち倒すこと以上の意味も持っている。
「8年前に戻ったみたいだ」
「そうか……そうですよね」
ルイはそれを聞いても、やはり特別なことは何もなさそうに振る舞っていた。
前にこの長い廊下を歩いた時、レオポルドは独りだった。着慣れない防具をひきずって、緊張を抱えながら、それでも前を進もうと思ったのはルイに立派な姿を見せたい一心であったからだった。
今はどうだろう。隣にルイがいて、かけがえのない仲間が周りに見えている。
「でも不思議だ。こんなに、色々なことが違うものなんだな」
「景色、どうですか?」
先の先まで、見える。子どもの時に届かなかった視界に、ワクワクと気持ちが高ぶっていく。
闘技場に灯された大きなかがり火、丸みを帯びた石の曲線もとらえることができる。なにより人が、大海のように地面を埋め尽くしている。まるで波を打つかのように、人が人を押して乱れていた。
「うん……よく見えるよ」
レオポルドは強く拳を握りしめる。ついに来た、因縁の場所へ戻ってきたと心が騒いでいる。
大きく口を開けている出入り扉を、一息にくぐり抜けようとした。その直後、ほとんど同じ瞬間に兄であるマルクスとすれ違った。
「……」
対峙する両者は、一度だけ目線を合わせた後、物言わずに黙っていた。
長男の方は王太子らしく豪華な衣をなびかせて、通り過ぎようとしている。レオポルドは大会前に、兄とはせめて声を交えておきたかった。
「俺が勝つよ。兄上!!」
「……」
「くだらない夢にも意味があるってことを、今日で証明してやる」
「ふんっ……ほざいてろ」
相手は、小さく低い唸りのような声をあげた。見るからに怒りを滲ませて、敵意むき出しの表情でいる。話が通じる状況でないことは、ルイも含め、かなりの人間が思い知ることであった。
「最強か、いや。お前には最も狂った王子の称号がお似合いだ」
「他人の婚約を打ち消そうとしている兄上の方が、よっぽど凶悪じみてると思うが」
「王家のこれまでの歴史に泥を塗るような、忌まわしい婚約ならば当たり前のことだ」
「俺たちは都合のいい駒じゃないんだ!!人とつながり合いながら生きている、それが兄上にはわからないのか!?」
ルイとの関係を、いつまでも大事にしたいと思っているだけだ。レオポルドは梃子でも動かない気持ちで、兄にそう反論した。人間は、政治の道具じゃない。元はといえば、ルイとレオポルドの婚約も兄や王妃が無理やり結びつけた。この事実だけでも苦しいのに、どうして目の前の男は正義を誇ったような顔をしているんだろう。
決闘の前につかみ合いが起こりかねない。このままでは埒が明かないと、ルイがレオポルドの背を押すことで修羅場はなんとか避けることとなる。兄弟の対話はここに来ても、うまく成り立つことはなかった。
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