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78シオン、想い、届け
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レオポルドは兄への尊敬を忘れたことがない。
その憧れの心は少年のころから。ルイに寄せる想いが仮に純粋な愛情だとするならば、兄に向けるそれは盲信的な愛情であった。
兄は一番強い。この国の誰一人として兄に勝てた者はいない。決闘の権化みたいな人だとみんなが言っている。噂に劣ることなく実績も山のようにある、だからこそすごいのだ。
レオポルドの夢の先にはいつも兄がいる。高い壁であり、遠い道を指し示してくれる存在でもあり、なにより彼は模範的な男だった。シオン王国を代表する男のなかの男。まさにレオポルドが挑むべき相手であった。
「緊張してますか?」
戦いに向かう前のレオポルドに、ルイが言葉を投げかけてた。
華々しいこの舞台で平常心でいられる人はいないだろう。場内を見渡せば色々な人がいて、数多くの知り合いも目に入った。手を振れば彼らが「殿下!!」とか「ルイ様!!」とか声を格段まで上げて祝ってくれる。彼らが燃えたぎるような熱い闘志をさらに引き立ててくれる。
彼らの気持ちに応えなければならない。全力で声援に応えなくてはならない。もう8年前みたく、レオポルドもルイも孤独に居座るわけにもいられなかった。
「なぜだかすごく不安だ。あれだけ鍛錬をしたのに、手が震えるほど怖い」
「怖い?レオ様が?」
「俺は今から、ずっと憧れていた男を倒しにいくんだ。そう考えるだけで胸が張り裂けそうになる」
肩がわなわな震えて、足先から寒気が伝わってくる。レオポルドはかつてないほどの感情の高ぶりにひどく眩暈を感じていた。
「だけど俺はこの日を待ち遠しくも思っていたんだよ。なぜだかわかるか?」
「夢を叶えるため?」
「それもあるが、それだけじゃない」
レオポルドは、懐にしまいこんでいた物を、ひょいとルイの手のうえに乗っけた。ただの布切れ。見れば見るほど普通の手拭いだったが、レオポルドとルイにとって、その王家の紋様は思い出深いものだった。
「シオンの……星」
「ああ。渡すの忘れてたから」
シオンの星。8年前は渡しそびれてしまったが、ようやく彼に託すことができた。紋章は金糸で紡がれ、前にあげたものよりも高価になっている。特注品だからとレオポルドが職人に頼み込んでおいたのだった。
レオポルドは以前の決闘で自分が惨めに負けたこと、その後に、泣きながら紋章をルイに差し出したことを振り返っていた。
ルイは覚えているだろうか。「レオと呼んでほしい」と彼に懇願したのも、決闘で格好悪いところを見せてからだということを。ルイのことがたまらなく好きで、何度も彼と寝所をともにした懐かしい日々のことを。
「ちゃんと覚えててよかったよ俺は」
「ぅ……こんな。もったいないです。うぅ……わたしには」
「いっしょに居てくれてありがとう。もう少しだけ、俺の身勝手に付き合ってくれ」
ぼたぼたと涙をこぼすのは、前とは逆でルイの方であった。
「そんなの……、ねぇレオさま。当たり前じゃないですか。わたしこそっ……ありがとう、こんなに。たくさん夢をみさせてくれて」
果たしてどんな夢を、ルイは枕の上で見ていたことだろう。レオポルドは、彼が想っている夢の続きが少しだけ気になった。まさか自分の幼いときのことでも思い出してくれていたのだろうか、なんて。
最強の男になるというおめでたい望みも、ルイといつまでも共にいたいという我が儘も、レオポルドが自ら生みだした物語だった。ルイは呆れるほど子どもじみた願いさえも、笑って受け止めてくれた。だから愛おしい。だからこそ彼がいない人生はあり得なかった。
「ルイ。もう一つだけ俺の願いを叶えてくれないか?」
「え……ええ、なんです?」
「俺がこの決闘で勝ったら、もういっかい。ふたりで婚礼をしよう」
子どもの時はちゃんと最後までいられなかったから。照れ隠しで合間の台詞をつないでみても、やはり気恥ずかしい。レオポルドは顔を真っ赤に染めながら、ルイが泣きじゃくる姿を眺めていた。
地面に落ちかけた涙をすくい取って、抱きしめる。彼の温もりをいっぱいに感じて、血の一滴すら流れが速まっていった。
その憧れの心は少年のころから。ルイに寄せる想いが仮に純粋な愛情だとするならば、兄に向けるそれは盲信的な愛情であった。
兄は一番強い。この国の誰一人として兄に勝てた者はいない。決闘の権化みたいな人だとみんなが言っている。噂に劣ることなく実績も山のようにある、だからこそすごいのだ。
レオポルドの夢の先にはいつも兄がいる。高い壁であり、遠い道を指し示してくれる存在でもあり、なにより彼は模範的な男だった。シオン王国を代表する男のなかの男。まさにレオポルドが挑むべき相手であった。
「緊張してますか?」
戦いに向かう前のレオポルドに、ルイが言葉を投げかけてた。
華々しいこの舞台で平常心でいられる人はいないだろう。場内を見渡せば色々な人がいて、数多くの知り合いも目に入った。手を振れば彼らが「殿下!!」とか「ルイ様!!」とか声を格段まで上げて祝ってくれる。彼らが燃えたぎるような熱い闘志をさらに引き立ててくれる。
彼らの気持ちに応えなければならない。全力で声援に応えなくてはならない。もう8年前みたく、レオポルドもルイも孤独に居座るわけにもいられなかった。
「なぜだかすごく不安だ。あれだけ鍛錬をしたのに、手が震えるほど怖い」
「怖い?レオ様が?」
「俺は今から、ずっと憧れていた男を倒しにいくんだ。そう考えるだけで胸が張り裂けそうになる」
肩がわなわな震えて、足先から寒気が伝わってくる。レオポルドはかつてないほどの感情の高ぶりにひどく眩暈を感じていた。
「だけど俺はこの日を待ち遠しくも思っていたんだよ。なぜだかわかるか?」
「夢を叶えるため?」
「それもあるが、それだけじゃない」
レオポルドは、懐にしまいこんでいた物を、ひょいとルイの手のうえに乗っけた。ただの布切れ。見れば見るほど普通の手拭いだったが、レオポルドとルイにとって、その王家の紋様は思い出深いものだった。
「シオンの……星」
「ああ。渡すの忘れてたから」
シオンの星。8年前は渡しそびれてしまったが、ようやく彼に託すことができた。紋章は金糸で紡がれ、前にあげたものよりも高価になっている。特注品だからとレオポルドが職人に頼み込んでおいたのだった。
レオポルドは以前の決闘で自分が惨めに負けたこと、その後に、泣きながら紋章をルイに差し出したことを振り返っていた。
ルイは覚えているだろうか。「レオと呼んでほしい」と彼に懇願したのも、決闘で格好悪いところを見せてからだということを。ルイのことがたまらなく好きで、何度も彼と寝所をともにした懐かしい日々のことを。
「ちゃんと覚えててよかったよ俺は」
「ぅ……こんな。もったいないです。うぅ……わたしには」
「いっしょに居てくれてありがとう。もう少しだけ、俺の身勝手に付き合ってくれ」
ぼたぼたと涙をこぼすのは、前とは逆でルイの方であった。
「そんなの……、ねぇレオさま。当たり前じゃないですか。わたしこそっ……ありがとう、こんなに。たくさん夢をみさせてくれて」
果たしてどんな夢を、ルイは枕の上で見ていたことだろう。レオポルドは、彼が想っている夢の続きが少しだけ気になった。まさか自分の幼いときのことでも思い出してくれていたのだろうか、なんて。
最強の男になるというおめでたい望みも、ルイといつまでも共にいたいという我が儘も、レオポルドが自ら生みだした物語だった。ルイは呆れるほど子どもじみた願いさえも、笑って受け止めてくれた。だから愛おしい。だからこそ彼がいない人生はあり得なかった。
「ルイ。もう一つだけ俺の願いを叶えてくれないか?」
「え……ええ、なんです?」
「俺がこの決闘で勝ったら、もういっかい。ふたりで婚礼をしよう」
子どもの時はちゃんと最後までいられなかったから。照れ隠しで合間の台詞をつないでみても、やはり気恥ずかしい。レオポルドは顔を真っ赤に染めながら、ルイが泣きじゃくる姿を眺めていた。
地面に落ちかけた涙をすくい取って、抱きしめる。彼の温もりをいっぱいに感じて、血の一滴すら流れが速まっていった。
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