78 / 81
78シオン、想い、届け
しおりを挟む
レオポルドは兄への尊敬を忘れたことがない。
その憧れの心は少年のころから。ルイに寄せる想いが仮に純粋な愛情だとするならば、兄に向けるそれは盲信的な愛情であった。
兄は一番強い。この国の誰一人として兄に勝てた者はいない。決闘の権化みたいな人だとみんなが言っている。噂に劣ることなく実績も山のようにある、だからこそすごいのだ。
レオポルドの夢の先にはいつも兄がいる。高い壁であり、遠い道を指し示してくれる存在でもあり、なにより彼は模範的な男だった。シオン王国を代表する男のなかの男。まさにレオポルドが挑むべき相手であった。
「緊張してますか?」
戦いに向かう前のレオポルドに、ルイが言葉を投げかけてた。
華々しいこの舞台で平常心でいられる人はいないだろう。場内を見渡せば色々な人がいて、数多くの知り合いも目に入った。手を振れば彼らが「殿下!!」とか「ルイ様!!」とか声を格段まで上げて祝ってくれる。彼らが燃えたぎるような熱い闘志をさらに引き立ててくれる。
彼らの気持ちに応えなければならない。全力で声援に応えなくてはならない。もう8年前みたく、レオポルドもルイも孤独に居座るわけにもいられなかった。
「なぜだかすごく不安だ。あれだけ鍛錬をしたのに、手が震えるほど怖い」
「怖い?レオ様が?」
「俺は今から、ずっと憧れていた男を倒しにいくんだ。そう考えるだけで胸が張り裂けそうになる」
肩がわなわな震えて、足先から寒気が伝わってくる。レオポルドはかつてないほどの感情の高ぶりにひどく眩暈を感じていた。
「だけど俺はこの日を待ち遠しくも思っていたんだよ。なぜだかわかるか?」
「夢を叶えるため?」
「それもあるが、それだけじゃない」
レオポルドは、懐にしまいこんでいた物を、ひょいとルイの手のうえに乗っけた。ただの布切れ。見れば見るほど普通の手拭いだったが、レオポルドとルイにとって、その王家の紋様は思い出深いものだった。
「シオンの……星」
「ああ。渡すの忘れてたから」
シオンの星。8年前は渡しそびれてしまったが、ようやく彼に託すことができた。紋章は金糸で紡がれ、前にあげたものよりも高価になっている。特注品だからとレオポルドが職人に頼み込んでおいたのだった。
レオポルドは以前の決闘で自分が惨めに負けたこと、その後に、泣きながら紋章をルイに差し出したことを振り返っていた。
ルイは覚えているだろうか。「レオと呼んでほしい」と彼に懇願したのも、決闘で格好悪いところを見せてからだということを。ルイのことがたまらなく好きで、何度も彼と寝所をともにした懐かしい日々のことを。
「ちゃんと覚えててよかったよ俺は」
「ぅ……こんな。もったいないです。うぅ……わたしには」
「いっしょに居てくれてありがとう。もう少しだけ、俺の身勝手に付き合ってくれ」
ぼたぼたと涙をこぼすのは、前とは逆でルイの方であった。
「そんなの……、ねぇレオさま。当たり前じゃないですか。わたしこそっ……ありがとう、こんなに。たくさん夢をみさせてくれて」
果たしてどんな夢を、ルイは枕の上で見ていたことだろう。レオポルドは、彼が想っている夢の続きが少しだけ気になった。まさか自分の幼いときのことでも思い出してくれていたのだろうか、なんて。
最強の男になるというおめでたい望みも、ルイといつまでも共にいたいという我が儘も、レオポルドが自ら生みだした物語だった。ルイは呆れるほど子どもじみた願いさえも、笑って受け止めてくれた。だから愛おしい。だからこそ彼がいない人生はあり得なかった。
「ルイ。もう一つだけ俺の願いを叶えてくれないか?」
「え……ええ、なんです?」
「俺がこの決闘で勝ったら、もういっかい。ふたりで婚礼をしよう」
子どもの時はちゃんと最後までいられなかったから。照れ隠しで合間の台詞をつないでみても、やはり気恥ずかしい。レオポルドは顔を真っ赤に染めながら、ルイが泣きじゃくる姿を眺めていた。
地面に落ちかけた涙をすくい取って、抱きしめる。彼の温もりをいっぱいに感じて、血の一滴すら流れが速まっていった。
その憧れの心は少年のころから。ルイに寄せる想いが仮に純粋な愛情だとするならば、兄に向けるそれは盲信的な愛情であった。
兄は一番強い。この国の誰一人として兄に勝てた者はいない。決闘の権化みたいな人だとみんなが言っている。噂に劣ることなく実績も山のようにある、だからこそすごいのだ。
レオポルドの夢の先にはいつも兄がいる。高い壁であり、遠い道を指し示してくれる存在でもあり、なにより彼は模範的な男だった。シオン王国を代表する男のなかの男。まさにレオポルドが挑むべき相手であった。
「緊張してますか?」
戦いに向かう前のレオポルドに、ルイが言葉を投げかけてた。
華々しいこの舞台で平常心でいられる人はいないだろう。場内を見渡せば色々な人がいて、数多くの知り合いも目に入った。手を振れば彼らが「殿下!!」とか「ルイ様!!」とか声を格段まで上げて祝ってくれる。彼らが燃えたぎるような熱い闘志をさらに引き立ててくれる。
彼らの気持ちに応えなければならない。全力で声援に応えなくてはならない。もう8年前みたく、レオポルドもルイも孤独に居座るわけにもいられなかった。
「なぜだかすごく不安だ。あれだけ鍛錬をしたのに、手が震えるほど怖い」
「怖い?レオ様が?」
「俺は今から、ずっと憧れていた男を倒しにいくんだ。そう考えるだけで胸が張り裂けそうになる」
肩がわなわな震えて、足先から寒気が伝わってくる。レオポルドはかつてないほどの感情の高ぶりにひどく眩暈を感じていた。
「だけど俺はこの日を待ち遠しくも思っていたんだよ。なぜだかわかるか?」
「夢を叶えるため?」
「それもあるが、それだけじゃない」
レオポルドは、懐にしまいこんでいた物を、ひょいとルイの手のうえに乗っけた。ただの布切れ。見れば見るほど普通の手拭いだったが、レオポルドとルイにとって、その王家の紋様は思い出深いものだった。
「シオンの……星」
「ああ。渡すの忘れてたから」
シオンの星。8年前は渡しそびれてしまったが、ようやく彼に託すことができた。紋章は金糸で紡がれ、前にあげたものよりも高価になっている。特注品だからとレオポルドが職人に頼み込んでおいたのだった。
レオポルドは以前の決闘で自分が惨めに負けたこと、その後に、泣きながら紋章をルイに差し出したことを振り返っていた。
ルイは覚えているだろうか。「レオと呼んでほしい」と彼に懇願したのも、決闘で格好悪いところを見せてからだということを。ルイのことがたまらなく好きで、何度も彼と寝所をともにした懐かしい日々のことを。
「ちゃんと覚えててよかったよ俺は」
「ぅ……こんな。もったいないです。うぅ……わたしには」
「いっしょに居てくれてありがとう。もう少しだけ、俺の身勝手に付き合ってくれ」
ぼたぼたと涙をこぼすのは、前とは逆でルイの方であった。
「そんなの……、ねぇレオさま。当たり前じゃないですか。わたしこそっ……ありがとう、こんなに。たくさん夢をみさせてくれて」
果たしてどんな夢を、ルイは枕の上で見ていたことだろう。レオポルドは、彼が想っている夢の続きが少しだけ気になった。まさか自分の幼いときのことでも思い出してくれていたのだろうか、なんて。
最強の男になるというおめでたい望みも、ルイといつまでも共にいたいという我が儘も、レオポルドが自ら生みだした物語だった。ルイは呆れるほど子どもじみた願いさえも、笑って受け止めてくれた。だから愛おしい。だからこそ彼がいない人生はあり得なかった。
「ルイ。もう一つだけ俺の願いを叶えてくれないか?」
「え……ええ、なんです?」
「俺がこの決闘で勝ったら、もういっかい。ふたりで婚礼をしよう」
子どもの時はちゃんと最後までいられなかったから。照れ隠しで合間の台詞をつないでみても、やはり気恥ずかしい。レオポルドは顔を真っ赤に染めながら、ルイが泣きじゃくる姿を眺めていた。
地面に落ちかけた涙をすくい取って、抱きしめる。彼の温もりをいっぱいに感じて、血の一滴すら流れが速まっていった。
29
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―
砂原紗藍
BL
大学生の三毛乃レンは、雨に濡れたり感情が高ぶったりすると、ふわふわの猫耳としっぽが勝手に出てしまう“半猫体質”。
誰にも知られないように隠してきたのに、気になっていた隣人・橘カナトに見られてしまう。
「お前は、そのままで可愛い」
そう言って優しく受け入れてくれるカナトに対し、レンは「別に嬉しくない」と強がる。
でも本当は――寂しがりで不安になりやすく、嫉妬も拗ねるのも止められない“無自覚メンヘラ”気質。
実はその原因は、“幼い頃に背負った傷”にあった。
半猫姿を狙われて怯えたり、危ない目に遭えば、カナトは迷わず抱き寄せて守ってくれる。
そんな溺愛に触れていくうちに、気づけば、“心も体も”カナトなしでは生きていけなくて――。
「カナトさんがいないと、やだ。置いてかないでね」
「置いていかない。絶対に」
「……約束?」
「約束するよ」
レンを守り甘やかす一方で、嫉妬や拗ねるレンにデレデレになりがちなカナト。
耳もしっぽも、心も体も――お互いを独り占めしたくて、手放せない。
こじらせ半猫男子と、一途に溺愛するダーリンの、甘々ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる