ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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77そこには届かない

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 打ち合いは長く続かなかった。

 いくらかアランの剣技に振り回されることがあったが、どれもレオポルドの鎧まで届くことはない。
 親友の手の長さから、剣の柄の長さまでを正確に読み当てることができる。意識できてさえいれば、敵の攻め方に困るものでもない。

「くそったれ、当たれよ!!」

 息を乱すアランに対してレオポルドはいまだ余力を残してある。受け身を取りながらも、あらゆる攻撃の機会を虎視眈々と狙っていた。

(もっとだ、もっと奴の重心を揺さぶれ)

 勝負は一瞬。臆して目をそむけたら会場の熱気にのみ込まれていく。気持ちは平穏を保たせて、心臓の鼓動だけを頼りとする。
 まだ大丈夫だ。剣は思うがままに動かせている。レオポルドは焦らずに、ここだという場面で一気に腕を伸ばす。相手は身構えるのが遅れ、その腹部への衝撃を、鎧で受け止めていく。突き技は会心の一撃となった。

「がはっ!!げほ……、ま、まだまだ!!」

 アランは倒れ込んだ。本来ならば、ここで勝負ありだ。文句無しでレオポルドの勝ちが決まったも同然。
 しかしアランは負けたことを受け入れないばかりか、試合は終わっていないと剣を持ち、死闘に意気込んでいる。

「よせ、腹が苦しいだろ。早めに処置をしてもらいに行こう」

「俺ならまだやれる!!まさか怖気付いたのか、レオポルド」

 ふらふらとよろつきながら、アランは握った剣を離さなかった。突きをもろに食らった腹部を必死に隠そうと、がむしゃらになっている。
 
「その傷ではお前は俺に敵わないぞ」

「勝者の余裕か?まだ俺はここで立っているのに、降伏しろと?」

「ああ。潔くあきらめてくれ、お前に俺を倒すことはできない」

 レオポルドの慈悲のない言葉に、相手は膝から崩れ落ちた。床にはじんわりと傷口から痛々しい血の染みが広がっていく。

「秒殺かよ、この俺が?ありえないぜ」

「アラン……」
 
「どうして……どうしていつもお前ばっかりなんだ!!才能も、環境も、望むものだって!!なんで俺には一つも足りやしないのに、お前にはあるんだよぉ!!」

 彼の叫びは周りに届かなかった。それもそのはず、レオポルドの勝利を祝して、人々は嵐のような喝采を送っていたのだ。
 
「俺は努力したよ!!この日のために死に物狂いで剣を振るってきた。お前を超えるために……俺こそ最強の男だとみんなから認めてもらうために!!だからせめて腕っぷしぐらい俺に譲ってくれてもいいじゃないか」

「いや譲らない」
 
「なにが違う!?学園では肩を並べていたはず……なのにどうして、この力の差はなんだよ。お前と俺でどこで、こんなに道が変わったんだ」

 うなだれたアランの姿には、もはや戦意が感じられなかった。覇気の失せた彼は、秘めた感情を隠すことなく、時おり汚い言葉で自らを貶していた。

 このままではアランが聴衆の見せ物になってしまう。それに気づいたレオポルドは、親友の肩を抱いて、速やかに場外へと退いた。

「ちくしょう……悔しい」

「また挑みに来い、相手になってやるからさ」

「強すぎるんだよ、お前。どうすりゃ勝てるんだよ」

「『勝つまで特訓、負けても特訓』。学園で教えてもらった心構えがあるじゃないか。忘れたのか?」

「あれは脳筋の考え方だろう……、生活で実践しているのはお前ぐらいなものだレオポルド」

 泣き顔を隠すように、アランは頭を深く下げた。取り乱していた時間はわずかだったが、彼の勝利への泥臭い執着が知れた。そのことがレオポルドは嬉しかった。

「なぁアラン。守りたいものがあるんだ、俺には」

「は、なんだって?」

「たぶんそれが俺とお前の気持ちの違いなんだと思う。うまく説明できないが。お前が力の差を感じたなら、そこに大切なものがある気がする」

「なんだそれ。意味がわからん」

 アランは鼻で笑いつつ、顔はさっきまでの固い表情を微動だにしないでいる。よほど自分の完敗ぶりが堪えたのであろう。どちらも息を切らして、次に控えている試合に想いを傾けていた。

 いよいよ本命の最後。世にも珍しい王家兄弟による一戦。数百年ぶりに実現した古よりの伝統は、マルクス王子とレオポルドが受け継ぐこととなった。

「ぜったい勝てよ、お前。あの仏頂面の兄貴になんか死んでも負けるな」

「ありがとう。頑張るよ」

 ふたりはぎこちない握手を交わしたあと、それぞれの居場所に戻っていった。
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