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51祝福と束縛④
しおりを挟む貴族たちの催しも終わり、王宮は着々と元に戻っていった。
余韻から目覚めたくないような若者の叫びや、笑い声が、庭のほうから聞こえてくる。まるで彼らも生き辛さを表明しているかのようだった。
会場を出たらそこは見慣れた現実である。祭りを終えた後の虚しさを抱えながら、明日も働くことを迫られる。夢から醒めたくないと若者が思うのも仕方のないことだと、ルイは同情した。
「あの、今日はもう……」
「そうだな。寝ようか」
ルイは枕を引き寄せた。王族の品らしく高級そうな肌触りがする。この日に備えてか、王子の寝台には2つの枕が隣合っていた。
頬にキスを交わし、それきりのんびりと抱き合っていた。
「レオ様には伝えられてよかった」
「俺もルイのことが聞けて、本当に嬉しかったよ」
尻の違和感だけは拭えないが。それでも今夜はいつもより心が軽い気がする。
もっと話したい、伝えたいという欲がルイにはあるのだが、それを夫へ示すことはしない。相手はあっけらかんとしているが、彼にだって情報をのみ込む時間がいるだろう。急ぐことはない。あとは歩み寄るだけなのだから。
「レオ様の夢って、兄君たちを越えて最強になることですよね?」
「そうだ。ずっと変わってないと思うぞ」
「ふふっ、私もその夢に混ぜてほしい……なんて」
ルイは笑いながら、レオポルドに希望を告げていく。自分も筋肉をつけて最強になれたら。それとも兄王子たちを篭絡する?決闘大会で大衆を扇動しても意味はなさそうだ。何をすれば、彼を支えられるか。彼の横で自分は何をすればよいか。わからないことだらけだけど、一緒にいられるなら何でもよかった。
純粋なルイの言葉に、レオポルドは呆れ顔をしている。
「なんです?その顔」
まるで感情のない人形みたいな間抜け面。答えは、無言の内にはぐらかされたまま。
夫側は口づけだけしてくる。「わからないのか」と暗に言われている気がして、ルイは困惑した。
~~~~~
王子とその妻が会場から消えた後、少しだけ騒ぎになった。催事の主役が出ていって、それきり帰ってこないのは初めてだったから。従者たちが場を鎮めることがなければ、「第三王子失踪」の知らせが流れる寸前であった。
二人が慎ましく同じ部屋で寝ていたことは、数人の側近しか知らされていない。これもまた話題を広げることがないよう人を絞った結果だといえる。
「夫妻は肉体的にはつながっていない」
往年の夫妻の関係性に目を向ければ、なるほど魂の伴侶という見方もできなくない。あくまで心を通わせた仲であること。王宮側はそれを周りに伝播し続けている。王子に同性愛のレッテルを貼られては困るからと当然の措置ではあった。
ただし成人儀礼の内容を知っている者であれば、この風説も嘘っぱちだと言い切れてしまうわけだが。
夜が明けるまで、ルイとレオポルドは深く眠り込んでいた。性交後の生々しい跡は、従者が綺麗に整えてくれている。どこもかしこも磨かれた室内の天井を、ルイはぼんやり見つめていた。
(ぜんぶ言ってしまったなぁ)
包み隠さずぶちまけた。レオポルドの顔色もうかがわず、ほぼ一方的に気持ちを吐露した。昨夜を思い返せば、もう自分の悩みなんて残っていないと感じる。
不思議と後悔はない。清々しい気分で、今のところは穏やかな朝を迎えられている。ルイは自分の単純さに呆れつつ、レオポルドの具合はどうかと知りたくなった。
彼の背負っているものへの覚悟を、ルイは改めて考えさせられた。王子として、職務に、一族と家庭に、全力を注いでいる彼のことを。くだらない維持と過去に囚われて、自分は遠ざけていた。
愛情を向けられるのが辛かった。彼の躍進を想うなら、ルイは身を引くことだって考えていたから。ひどく重たい愛情に、身動きが取れなかったのだ。
ルイは、寝息を立てるレオポルドの頬に手をあてた。
レオ様。私のレオ様、あとは何もいらない。もしそうやって告げていたら、あるいは手紙に書いていたら。彼との付き合いがうんと楽だったろうに。変に大人ぶっていたから面倒な遠回りをするはめになってしまった。
「同じ夢を見たいって言ったら、あなたは笑うでしょうか?」
レオポルドがルイを求めるように、ルイもまたレオポルドを求めていた。有り体にいえば共依存に近いそれが、二人の関係の正体だった。
澄んだ空みたいに濁りのない寝顔、さらさらと麦の穂のように揺れる髪色。艶のあるまつ毛。早く目を開けてほしいと、思わずにはいられなくなる。
王子の顔を見つめながら、手に触れる感覚を愛しく思う。大きくなっても変わらないものがあると、ルイは気づくことができた。ようやくレオポルドの少年時代の面影から抜け出せそうな気がした。
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