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55イヴの受難~甘いもの➀~
動乱から数日が経った。かん口令の布かれた中枢部では、いまだに役人の外出規制が継続されている。
そんな折りに女官と侍女の数人が冬宮殿に召し出される出来事があった。
皇家の勅令という形でなされた指名。呼び出しを受けた彼女たちの周りは気が気では済まなかった。先の一件もあることだし、廷臣の動向に上層部は敏感になっているはずである。
レイフィールドの内通者として疑われているのではないか。彼女たちをそのような視線で見る人々も少なくなかった。
「さようなら……イヴ…………」
女官のイヴ・ハーツの周りでも同じような現象が巻き起こっていた。せん別のように、憐れな風に同業者たちに見送られる。まるで死別するかのような勢いで泣く同輩たち。明日は我が身だと、身に覚えのない罪に怯える彼女らを見ていると、イヴは少しだけ申し訳なく思った。
(俗世とおさらば、ってやつかしら)
自分が死ぬわけがないのに。昨夜のお別れ会の流れを思い出しながら、冬宮殿の所定場所に立ち尽くす。同じ要件で入ってくる女性のコツコツと鳴らす靴音、あとは侘しげな静寂を耳にした。
「集まったようね。では今回の招集の目的を端的に伝えていきます」
新任の女官長が場に現れたことで、皆が緊張感を宿すことになる。恐怖よりも訳の分からない不安がイヴのなかでも迫ってくる。
「まず誓いなさい。法令通り他言は厳禁です。先日、尊き我らが皇太子殿下がご成婚と相成りました。それに伴なって、皇太子妃となられる方の従者が不足している事。これを皇后陛下が由々しき問題だとして取り上げられています」
「経緯はこのようなものです」と女官長は一息に言ってしまう。
ご成婚?従者?キョロキョロ周りに目をやっている女性をイヴは目にした。同じように混乱している仲間がいないか探しているのだろう。
残念なことに、自分はその期待に応えられそうにない。周りの人もきっとそう、大半がわかりきっているのではないだろうか。
「もうわかりますね?今日よりあなたたちは、妃となられる御方の侍女として励んでもらうことになりますよ」
皇太子はもう婚約なさったのかと衝撃は受けるは受ける。その次に、自分が無実の罪をきせられなくて良かったと安心感がほのかにやって来た。
女官長の顔つきも先ほどより柔らかい。このような重大なことを告げるため、相当な気負いをしていたのだろう。言い切ってすっきりした彼女は「頑張ってね」と事も無さそうに迷惑な声援を送ってくる。やかましいとイヴは思った。
「あの……お妃様とはいったい誰なのでしょうか」
端っこに並び立つ女性が質問をうっかり口にした。ここまで噂が広がっているのに尋ねる必要があるだろうか。あまりに愚問がすぎるだろうと、空気を読めない人の声には多くが鼻で笑った。
そんな折りに女官と侍女の数人が冬宮殿に召し出される出来事があった。
皇家の勅令という形でなされた指名。呼び出しを受けた彼女たちの周りは気が気では済まなかった。先の一件もあることだし、廷臣の動向に上層部は敏感になっているはずである。
レイフィールドの内通者として疑われているのではないか。彼女たちをそのような視線で見る人々も少なくなかった。
「さようなら……イヴ…………」
女官のイヴ・ハーツの周りでも同じような現象が巻き起こっていた。せん別のように、憐れな風に同業者たちに見送られる。まるで死別するかのような勢いで泣く同輩たち。明日は我が身だと、身に覚えのない罪に怯える彼女らを見ていると、イヴは少しだけ申し訳なく思った。
(俗世とおさらば、ってやつかしら)
自分が死ぬわけがないのに。昨夜のお別れ会の流れを思い出しながら、冬宮殿の所定場所に立ち尽くす。同じ要件で入ってくる女性のコツコツと鳴らす靴音、あとは侘しげな静寂を耳にした。
「集まったようね。では今回の招集の目的を端的に伝えていきます」
新任の女官長が場に現れたことで、皆が緊張感を宿すことになる。恐怖よりも訳の分からない不安がイヴのなかでも迫ってくる。
「まず誓いなさい。法令通り他言は厳禁です。先日、尊き我らが皇太子殿下がご成婚と相成りました。それに伴なって、皇太子妃となられる方の従者が不足している事。これを皇后陛下が由々しき問題だとして取り上げられています」
「経緯はこのようなものです」と女官長は一息に言ってしまう。
ご成婚?従者?キョロキョロ周りに目をやっている女性をイヴは目にした。同じように混乱している仲間がいないか探しているのだろう。
残念なことに、自分はその期待に応えられそうにない。周りの人もきっとそう、大半がわかりきっているのではないだろうか。
「もうわかりますね?今日よりあなたたちは、妃となられる御方の侍女として励んでもらうことになりますよ」
皇太子はもう婚約なさったのかと衝撃は受けるは受ける。その次に、自分が無実の罪をきせられなくて良かったと安心感がほのかにやって来た。
女官長の顔つきも先ほどより柔らかい。このような重大なことを告げるため、相当な気負いをしていたのだろう。言い切ってすっきりした彼女は「頑張ってね」と事も無さそうに迷惑な声援を送ってくる。やかましいとイヴは思った。
「あの……お妃様とはいったい誰なのでしょうか」
端っこに並び立つ女性が質問をうっかり口にした。ここまで噂が広がっているのに尋ねる必要があるだろうか。あまりに愚問がすぎるだろうと、空気を読めない人の声には多くが鼻で笑った。
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