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58離さないで➀ ※
夜もどっぷり更けこんだ頃。ハヤセは寝所に繋がる執務室にて、黙々と公文書の署名作業を進めていた。
ずっと暇を持て余していたら、皇后にお世話になっていた時と同じ気分を味わうことになる。働いていないと頭が冴えないし落ち着かなかった。
この点は皇太子と同様で、仕事に尽くす真面目な部分が隠れなかったというべきか。
そんな理由で皇太子からの忠告など、もとからハヤセは守る気も無い。
自分が望むことだからと執事のゴードンも黙らせておく。おかげで従者の手は空き放題であった。
「お帰りになられましたよ。ハヤセ様」
集中して風の音も気にならなかったが、ひっそりとした老人の声には鋭く反応する。
ハヤセは執事からの言に目を輝かせた。そうして室内などさっさと抜け出して、溢れる感情を抑えながら玄関まで小走りで急いでいった。
「アルベール……!!」
玄関で彼と対峙する。朝に別れたきりの相手の顔が見られて、ハヤセはこの上ない安心感を覚える。
間もなく抱擁する。相手の行動など待っていられないと、ほぼ飛びかかる勢いだった。さらさらと風に浮き立つ黒髪の毛先。腕力を注いで彼に縋るが、相手は動じる素振りすら見せなかった。
「くっついたら動けないぞ」
「そう。でも今だけは」
そっと口づけすると、アルベールも応えるようにハヤセの腰に手を回した。待ち焦がれていた、帰りを待っていたと、ハヤセはもっと相手に示したくなる。
「……っ、ここで煽るなよ」
「いやだよ」
もう隠さないからとハヤセは瞳の熱を押し出した。もはや制御すべき理性などかなぐり捨てても許されるだろう。
「従者以外も見てる」
「うん……でもだめ」
「離さないで」と美しい人はねだるように言った。その一連の流れでついにアルベールの正気も失せたらしかった。かがみこんで、真っ白なハヤセの首筋に唇を押し当てる。口づけを期待していた受け手は少し不満がったが、またすぐに気を取り直していた。
「抱きしめて」
「あぁ」
隙間のないくらいに密着させ合うとじんわりと温かい。トクトクと胸の鼓動が聞こえてきて、だんだんとそれが激しくなっていくのがわかる。
ハヤセは嬉しかった。自分に対してこれほどの想いを寄せてくれる相手がいること。アルベールの顔にはありありと好意の文字が見えてきそうなほどだ。公務を終えたばかりとは思えないほど、彼の顔にはギラギラとしたものが宿っていく。
「浴場に行こうか」というアルベールの提案に、笑みを浮かべる人は反応をしなかった。言葉の代わりに手を引いて、従者の並ぶ列を前に通路を横切っていった。
「ハヤセ」
寝所の扉が完全に閉じられる。そこにきてアルベールは改めて相手の手首を握りしめた。骨の傷が痛むだろうと左手をあて気を遣ってみても、想い人は躊躇なく右手も使ってくる。
「いいから」
ハヤセは大げさにしゃがみ込んで目配せを送る。麗しの上目遣いに我慢できるはずがないと、アルベールの剛直な欲望が湧き上がっていた。
すでに初手の抱擁から下半身の興奮が隠せていない。これを認めたハヤセは今すぐにでも鎮めてやりたいと思っていた。
「お……おい何する気だ」
「じっと動かないで。練習するんだから」
無駄に音をたてながら下穿きの隅から隅までを弄っていく。ポケットの中やベルトの内側を触る。どこに指をあてれば軍服の締め付けが緩むのかを探っているようであった。
好奇心に浮かぶハヤセの顔。そこに拒絶の言葉などいれるのも忍びない。
格闘の末、服はゆるゆると床に落ちていった。ハヤセは隠す暇も与えないと、勢いそのままに肌着にまで手をかけていく。
ずっと暇を持て余していたら、皇后にお世話になっていた時と同じ気分を味わうことになる。働いていないと頭が冴えないし落ち着かなかった。
この点は皇太子と同様で、仕事に尽くす真面目な部分が隠れなかったというべきか。
そんな理由で皇太子からの忠告など、もとからハヤセは守る気も無い。
自分が望むことだからと執事のゴードンも黙らせておく。おかげで従者の手は空き放題であった。
「お帰りになられましたよ。ハヤセ様」
集中して風の音も気にならなかったが、ひっそりとした老人の声には鋭く反応する。
ハヤセは執事からの言に目を輝かせた。そうして室内などさっさと抜け出して、溢れる感情を抑えながら玄関まで小走りで急いでいった。
「アルベール……!!」
玄関で彼と対峙する。朝に別れたきりの相手の顔が見られて、ハヤセはこの上ない安心感を覚える。
間もなく抱擁する。相手の行動など待っていられないと、ほぼ飛びかかる勢いだった。さらさらと風に浮き立つ黒髪の毛先。腕力を注いで彼に縋るが、相手は動じる素振りすら見せなかった。
「くっついたら動けないぞ」
「そう。でも今だけは」
そっと口づけすると、アルベールも応えるようにハヤセの腰に手を回した。待ち焦がれていた、帰りを待っていたと、ハヤセはもっと相手に示したくなる。
「……っ、ここで煽るなよ」
「いやだよ」
もう隠さないからとハヤセは瞳の熱を押し出した。もはや制御すべき理性などかなぐり捨てても許されるだろう。
「従者以外も見てる」
「うん……でもだめ」
「離さないで」と美しい人はねだるように言った。その一連の流れでついにアルベールの正気も失せたらしかった。かがみこんで、真っ白なハヤセの首筋に唇を押し当てる。口づけを期待していた受け手は少し不満がったが、またすぐに気を取り直していた。
「抱きしめて」
「あぁ」
隙間のないくらいに密着させ合うとじんわりと温かい。トクトクと胸の鼓動が聞こえてきて、だんだんとそれが激しくなっていくのがわかる。
ハヤセは嬉しかった。自分に対してこれほどの想いを寄せてくれる相手がいること。アルベールの顔にはありありと好意の文字が見えてきそうなほどだ。公務を終えたばかりとは思えないほど、彼の顔にはギラギラとしたものが宿っていく。
「浴場に行こうか」というアルベールの提案に、笑みを浮かべる人は反応をしなかった。言葉の代わりに手を引いて、従者の並ぶ列を前に通路を横切っていった。
「ハヤセ」
寝所の扉が完全に閉じられる。そこにきてアルベールは改めて相手の手首を握りしめた。骨の傷が痛むだろうと左手をあて気を遣ってみても、想い人は躊躇なく右手も使ってくる。
「いいから」
ハヤセは大げさにしゃがみ込んで目配せを送る。麗しの上目遣いに我慢できるはずがないと、アルベールの剛直な欲望が湧き上がっていた。
すでに初手の抱擁から下半身の興奮が隠せていない。これを認めたハヤセは今すぐにでも鎮めてやりたいと思っていた。
「お……おい何する気だ」
「じっと動かないで。練習するんだから」
無駄に音をたてながら下穿きの隅から隅までを弄っていく。ポケットの中やベルトの内側を触る。どこに指をあてれば軍服の締め付けが緩むのかを探っているようであった。
好奇心に浮かぶハヤセの顔。そこに拒絶の言葉などいれるのも忍びない。
格闘の末、服はゆるゆると床に落ちていった。ハヤセは隠す暇も与えないと、勢いそのままに肌着にまで手をかけていく。
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