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04下衆
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長い旅を終えて、私は棺桶から雑に放り下ろされた。文字通り死からよみがえった気分がした。どこがどうなっているのか、この耳と鼻だけが状況を教え示してくれる。
周りはやけに静かな場所で、戦勝パレードの歓声が遠くから響いてくるだけだ。汚らしい臭気もなく、むしろ甘い花のような香りがする。私をしまい込んでいた箱は、大きな音とともに別の空間に移されていくようだった。複数人が力を合わせて箱を運んでいるのがわかる。
「失礼します」
屈み座りを強いられている私の後ろから、女性が慣れた手つきで衣服をはぎ取ってくる。
「んーっ!!んぅう!!」
「身を清めるだけです。何も辛いことはありません」
抵抗するなと言われる方が無理な頼みだった。殺される。何もなし得ないまま、惨めに首と胴体を断ち斬られてしまう。
ギシギシと私は首と腰に力をいれるたび、痛みで叫びそうになった。それでも縄が千切れることを祈りながら、懸命に抜けだそうともがいた。
何度目かの涙が出てきて、目隠しの布が湿ってくる。あぁ不本意だが綺麗でだだっ広い室内が見える。上等そうな机と椅子が並んであって、いかにも雲上人の住まいみたいだった。私が床に孤児みたいにうずくまっているのも、よくわかる。
「動いても痛いだけですよ。大丈夫、ここには私しかいません」
床に見える人影。それがゆっくりと降りてきて、黒髪の女性の顔が映ってきた。
「ラルカ様。ハインツ公爵夫人ですよね?」
「……」
「お辛いでしょうから、腰と首の縛りを解きましょう。じっとしていてください」
ぶちっと音をたてながら、ゆっくりと縄の力が抜けていく。ついでのように邪魔だった目隠しも外された。キツく繋がれた首と腰回りは自由を取り戻して、私はたまらず仰向けになって倒れこんだ。澄んだ空気が吸える。色鮮やかな世界も帰ってくる。石のように硬直した筋肉をほぐしながら、目に見えるものはすべて確認していく。
「万が一のために他の拘束具は外せません。今はそれで我慢してください」
「う……はー……、はー……」
「私はエヴァ・ベイハルト。あなたの世話を任じられた侍女です」
エヴァと名乗る女性は、私の肩を支えるように上体を起こしてくる。最初の挨拶では、特に意味もない謝意と憐憫を重ねてくるだけ。はっきり言って不愉快だった。
私の身柄は現在、帝国内務省という機関の管理下にあるらしい。宰相と全大臣が同意する形で身の安全が保たれていることを女は説明した。長ったらしい話のなかで、まぁ重要なことはそれだけだった。
知らない。どうせ全員地獄おくりにするのだから、関係がない。
私は女を睨みつけて、自分に触れるなと何度も威嚇した。それにも関わらず、女は私の裸体をすみずみまで拭い続けた。恥部は特に念入りに、こちらが十分だと思えるほど撫で回してくる。排せつしてから放置されていた男性器も。尻穴には謎の粉薬がかけられ、洗浄を終えたようだった。
こちらに座ってくださいと女に椅子を差し出される。介助を受けながら、私はがくがく震える足取りでそこに座らされた。もちろん全裸で。何が始まるかを私は理解していない。尋ねることはおろか、動かせる舌先すらない。
完全なる孤立空間のなかで、部屋には続々と敵国の人間がやって来るのだった。一人が私を見て、軽く舌なめずりした。服の見た目や飾りからして、ガルア帝国の貴族に違いない。気持ち悪い視線に裸体がさらされて私は悪寒が走った。
「ほう……これがハインツの奥方か」
そんな下衆な声とともに、周りの視線にも吐き気がする。だけどその目に焼き付ければいい。私が「史上最悪」の男の伴侶、お前たちがこき下ろした男の妻だということを。
遠くからは鋭い金属音が聞こえてきた。ちょうど私の手枷と同じような音だ。高貴な人間たちは、着席するや否や、何かにむけて準備を整えていた。
武装した帝国兵。憎き装いをした男たちがずらりと部屋の隅に立っている。その背後から、私と同じく鎖につながれた人々が入室してきた。言うまでもない。そう、彼らは私の同胞であるハインツ人であった。
ハインツの民、それと兵だった者が何人かいる。城に残っていた侍従も、この目に見える。私みたいに捕まっていたんだ。戦場で別れた友が目の前にいる。彼らはボロ雑巾みたいな布をまとっている。こちらとは違って、彼らは口と足を固定されていない。対して私は裸で鎖付きの再会を果たしてしまったが、それでも構わない。
生き残ってくれて本当に嬉しい。私は涙を流しながら、同胞の存在をありがたく思った。ここまで一人きりで、不安と恐怖に潰されそうになっていた。敵の地で、私はこのまま生き恥を晒すことになる。その前に愛おしい彼らの顔で見納めできるとは夢にも思わなかった。
「ラルカさま……あぁ、おいたわしや」
しおれた皆が、私の姿を憐れんでくる。大丈夫。皆のおかげで、私は外傷をあまり負っていない。裸になることだって大したことはない。このぐらいの屈辱は、公爵夫人として受けてしかるべきだ。敗戦国の代表として、民のためなら私は責任を負うことは厭わない。
「では一巡目を殺そうか」
正面に座るガルア貴族の声だった。衝撃の言葉に、私は頭のなかが真っ白になった。
周りはやけに静かな場所で、戦勝パレードの歓声が遠くから響いてくるだけだ。汚らしい臭気もなく、むしろ甘い花のような香りがする。私をしまい込んでいた箱は、大きな音とともに別の空間に移されていくようだった。複数人が力を合わせて箱を運んでいるのがわかる。
「失礼します」
屈み座りを強いられている私の後ろから、女性が慣れた手つきで衣服をはぎ取ってくる。
「んーっ!!んぅう!!」
「身を清めるだけです。何も辛いことはありません」
抵抗するなと言われる方が無理な頼みだった。殺される。何もなし得ないまま、惨めに首と胴体を断ち斬られてしまう。
ギシギシと私は首と腰に力をいれるたび、痛みで叫びそうになった。それでも縄が千切れることを祈りながら、懸命に抜けだそうともがいた。
何度目かの涙が出てきて、目隠しの布が湿ってくる。あぁ不本意だが綺麗でだだっ広い室内が見える。上等そうな机と椅子が並んであって、いかにも雲上人の住まいみたいだった。私が床に孤児みたいにうずくまっているのも、よくわかる。
「動いても痛いだけですよ。大丈夫、ここには私しかいません」
床に見える人影。それがゆっくりと降りてきて、黒髪の女性の顔が映ってきた。
「ラルカ様。ハインツ公爵夫人ですよね?」
「……」
「お辛いでしょうから、腰と首の縛りを解きましょう。じっとしていてください」
ぶちっと音をたてながら、ゆっくりと縄の力が抜けていく。ついでのように邪魔だった目隠しも外された。キツく繋がれた首と腰回りは自由を取り戻して、私はたまらず仰向けになって倒れこんだ。澄んだ空気が吸える。色鮮やかな世界も帰ってくる。石のように硬直した筋肉をほぐしながら、目に見えるものはすべて確認していく。
「万が一のために他の拘束具は外せません。今はそれで我慢してください」
「う……はー……、はー……」
「私はエヴァ・ベイハルト。あなたの世話を任じられた侍女です」
エヴァと名乗る女性は、私の肩を支えるように上体を起こしてくる。最初の挨拶では、特に意味もない謝意と憐憫を重ねてくるだけ。はっきり言って不愉快だった。
私の身柄は現在、帝国内務省という機関の管理下にあるらしい。宰相と全大臣が同意する形で身の安全が保たれていることを女は説明した。長ったらしい話のなかで、まぁ重要なことはそれだけだった。
知らない。どうせ全員地獄おくりにするのだから、関係がない。
私は女を睨みつけて、自分に触れるなと何度も威嚇した。それにも関わらず、女は私の裸体をすみずみまで拭い続けた。恥部は特に念入りに、こちらが十分だと思えるほど撫で回してくる。排せつしてから放置されていた男性器も。尻穴には謎の粉薬がかけられ、洗浄を終えたようだった。
こちらに座ってくださいと女に椅子を差し出される。介助を受けながら、私はがくがく震える足取りでそこに座らされた。もちろん全裸で。何が始まるかを私は理解していない。尋ねることはおろか、動かせる舌先すらない。
完全なる孤立空間のなかで、部屋には続々と敵国の人間がやって来るのだった。一人が私を見て、軽く舌なめずりした。服の見た目や飾りからして、ガルア帝国の貴族に違いない。気持ち悪い視線に裸体がさらされて私は悪寒が走った。
「ほう……これがハインツの奥方か」
そんな下衆な声とともに、周りの視線にも吐き気がする。だけどその目に焼き付ければいい。私が「史上最悪」の男の伴侶、お前たちがこき下ろした男の妻だということを。
遠くからは鋭い金属音が聞こえてきた。ちょうど私の手枷と同じような音だ。高貴な人間たちは、着席するや否や、何かにむけて準備を整えていた。
武装した帝国兵。憎き装いをした男たちがずらりと部屋の隅に立っている。その背後から、私と同じく鎖につながれた人々が入室してきた。言うまでもない。そう、彼らは私の同胞であるハインツ人であった。
ハインツの民、それと兵だった者が何人かいる。城に残っていた侍従も、この目に見える。私みたいに捕まっていたんだ。戦場で別れた友が目の前にいる。彼らはボロ雑巾みたいな布をまとっている。こちらとは違って、彼らは口と足を固定されていない。対して私は裸で鎖付きの再会を果たしてしまったが、それでも構わない。
生き残ってくれて本当に嬉しい。私は涙を流しながら、同胞の存在をありがたく思った。ここまで一人きりで、不安と恐怖に潰されそうになっていた。敵の地で、私はこのまま生き恥を晒すことになる。その前に愛おしい彼らの顔で見納めできるとは夢にも思わなかった。
「ラルカさま……あぁ、おいたわしや」
しおれた皆が、私の姿を憐れんでくる。大丈夫。皆のおかげで、私は外傷をあまり負っていない。裸になることだって大したことはない。このぐらいの屈辱は、公爵夫人として受けてしかるべきだ。敗戦国の代表として、民のためなら私は責任を負うことは厭わない。
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