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18出来損ない
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動けない。足も手もなまじ力が入らず、上体を支えることができないでいる。私は震える身を抱きしめて、飛び散りそうな怒りをこらえていた。辺りにぶちまけたい衝動をきつく耐えるまで、耐えて、耐え抜いた。
情けなくて、月を見上げる気は起きない。私はもう穏やかな夜に舞っている羽虫と同じだった。どこにいても誰の目にも留まることはない、ただ卑しい音を鳴らすだけの存在だ。
もうたくさんだ、ずっと悪い方向へ考えてしまう。仲間を弔う気持ちをこめて、怒り、嘆き憐れみ立ち上がることもできない私にはもう価値など残っていない。
自分は無価値だ。とっとと私だけいなくなれ。このまま消えて、誰の記憶からも失せていけばいい。人がかけてくれた温情も台無しにして、勝手に地面に這いつくばっている、そんな何も果たせない自分ならこの世からいなくなれ。
「ぎ……ぃわたしはっ、できそこない……!!できそこない!!このまま死んでぐれ……ここでしねよ!!」
出来損ない。母が言っていた罵倒を、私も同じくらい叫ぶと涙がとめどなく溢れてきた。『まざりもの』を表すのにこれほど適した語句もないだろう。普通の人間として生きるだけでいいのにそれさえも現実は、運命は許してくれないのだろうか。
ずっと皆と同じになりたかった。男としてなら武威を誇り、女として生きるなら花を愛でるのも良いだろう。大人が見せてくれた広い背中をずっと見つめてきたはずなのに私は今でもその背中に届いた気がしないでいる。
ないものねだりをくり返す私は卑しい人間だ。そして腰抜けで中途半端だ。戦場に出ても人を殺せず、友の手を掴めず、夫の復讐を果たすこともできない。何もかもを私は選ぶことができず、ついに逃げ出したのにこの体たらくだ。
「ぅ、ぐす……いかなきゃ。もういかなきゃ」
私を待っている人はいない。でも行くんだ。この辛い現世から報われるよう仲間のために神様に祈るって。そう決めたんだ。
馬がいるので私はまだ幸せを噛みしめるべきなのかもしれない。頑張ってあの子の背にしがみつけば、どこかへ進むことは可能なのだから。
目的を見失いながらも、地の底におでこを張り付けてでも私は這った。まともに動く関節を不器用に曲げながら、馬の手綱を拾いあげる。握る手のひらは力が浅く頼りない。
「ごめん。のせてね」
エヴァが与えてくれた馬は素直で良い子だ。私の変な姿勢をものともせず、ゆったりと背中を預けてくれている。
馬が一歩を踏みしめるたび、私は尻と腹の痛みに悶絶した。木を回りこむ時には細かく停止してしまう。そうしないと私の内臓がいくつも混ざっていきそうな感覚がして、これがあと数刻も続くなんて考えたくなかった。
ごつんと強い衝撃が左腕に伝わっていく。どうやら私は馬から崩れ落ちたみたいだった、気をつける暇もなく、ほぼ天と地が逆さまになるように落っこちたらしい。もう立ち上がれない。ここからあの子の手綱を持ち直すことはできなさそうだし、腕も痛いし、意識も定まっていかない。
「おいっ、ラルカ!!」
それは仲間の声?ハインツの民がかけてくれた応援だろうか。幻聴にしてはやけにくっきり耳に残る低い声である。もしかしたら、旦那様が私の人生の終着に際して語りかけてくれているのだろうか。そうだとしたらまるで走馬灯のようだ、まだ私は元気に生きているというのに。
「しっかりしろ!!」
最後の戦場で倒れた時、あの場でもそうだった。私が事切れる寸前に「よくやった」と誰かが褒めてくれたから私は死の淵から蘇ったのだ。別に求めていなかったけどあの言葉がもしなかったら、私の魂は遠い故郷に居着いたまま。寂しい地縛霊と化していたに違いない。
「よくやった」って、それだけで救われたんだ。私が懸命に生きようとしたことを誰かが肯定してくれた気がして。
情けなくて、月を見上げる気は起きない。私はもう穏やかな夜に舞っている羽虫と同じだった。どこにいても誰の目にも留まることはない、ただ卑しい音を鳴らすだけの存在だ。
もうたくさんだ、ずっと悪い方向へ考えてしまう。仲間を弔う気持ちをこめて、怒り、嘆き憐れみ立ち上がることもできない私にはもう価値など残っていない。
自分は無価値だ。とっとと私だけいなくなれ。このまま消えて、誰の記憶からも失せていけばいい。人がかけてくれた温情も台無しにして、勝手に地面に這いつくばっている、そんな何も果たせない自分ならこの世からいなくなれ。
「ぎ……ぃわたしはっ、できそこない……!!できそこない!!このまま死んでぐれ……ここでしねよ!!」
出来損ない。母が言っていた罵倒を、私も同じくらい叫ぶと涙がとめどなく溢れてきた。『まざりもの』を表すのにこれほど適した語句もないだろう。普通の人間として生きるだけでいいのにそれさえも現実は、運命は許してくれないのだろうか。
ずっと皆と同じになりたかった。男としてなら武威を誇り、女として生きるなら花を愛でるのも良いだろう。大人が見せてくれた広い背中をずっと見つめてきたはずなのに私は今でもその背中に届いた気がしないでいる。
ないものねだりをくり返す私は卑しい人間だ。そして腰抜けで中途半端だ。戦場に出ても人を殺せず、友の手を掴めず、夫の復讐を果たすこともできない。何もかもを私は選ぶことができず、ついに逃げ出したのにこの体たらくだ。
「ぅ、ぐす……いかなきゃ。もういかなきゃ」
私を待っている人はいない。でも行くんだ。この辛い現世から報われるよう仲間のために神様に祈るって。そう決めたんだ。
馬がいるので私はまだ幸せを噛みしめるべきなのかもしれない。頑張ってあの子の背にしがみつけば、どこかへ進むことは可能なのだから。
目的を見失いながらも、地の底におでこを張り付けてでも私は這った。まともに動く関節を不器用に曲げながら、馬の手綱を拾いあげる。握る手のひらは力が浅く頼りない。
「ごめん。のせてね」
エヴァが与えてくれた馬は素直で良い子だ。私の変な姿勢をものともせず、ゆったりと背中を預けてくれている。
馬が一歩を踏みしめるたび、私は尻と腹の痛みに悶絶した。木を回りこむ時には細かく停止してしまう。そうしないと私の内臓がいくつも混ざっていきそうな感覚がして、これがあと数刻も続くなんて考えたくなかった。
ごつんと強い衝撃が左腕に伝わっていく。どうやら私は馬から崩れ落ちたみたいだった、気をつける暇もなく、ほぼ天と地が逆さまになるように落っこちたらしい。もう立ち上がれない。ここからあの子の手綱を持ち直すことはできなさそうだし、腕も痛いし、意識も定まっていかない。
「おいっ、ラルカ!!」
それは仲間の声?ハインツの民がかけてくれた応援だろうか。幻聴にしてはやけにくっきり耳に残る低い声である。もしかしたら、旦那様が私の人生の終着に際して語りかけてくれているのだろうか。そうだとしたらまるで走馬灯のようだ、まだ私は元気に生きているというのに。
「しっかりしろ!!」
最後の戦場で倒れた時、あの場でもそうだった。私が事切れる寸前に「よくやった」と誰かが褒めてくれたから私は死の淵から蘇ったのだ。別に求めていなかったけどあの言葉がもしなかったら、私の魂は遠い故郷に居着いたまま。寂しい地縛霊と化していたに違いない。
「よくやった」って、それだけで救われたんだ。私が懸命に生きようとしたことを誰かが肯定してくれた気がして。
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