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22暮らし
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庭園のなかに埋もれた位置に白宮はまとまっており、ほのかに自然の花や木々の匂いが香ってくる。そよそよと風なんかが吹いてくる日は好ましい。
白宮は隣に立つネーベル宮殿の半分ぐらいの大きさである。内装を比べると、あちらよりも堅実で重厚なつくりとなっている。主と女性が住むための施設だったこともあり、警備の面がより重視された建造物なのだろう。
一方で、私の新居生活は牢獄みたいな部屋が選ばれた。窓が一つもなくて、出入りの扉を塞ぐと完全に閉ざされた空間ができあがってしまう。家具の揃いだけはすこぶる良いので、生活の質はそれなりに保たれてはいる。穏やかな風を感じるには侍女を呼んで散歩に付き合ってもらうしかない。
鎖や縄で縛られることがなくなったぶん解放感があった。だがその代償として監視役が増やされて逃げ場を物理的に封じられている。というのも私の自室は宮の二階層をもらい受けているため、外の世界とは分離されていたのだ。
内外の橋渡し役としてエヴァを介す必要がある。人伝てに宮で起こった出来事を見聞きしながら、楽しかったり楽しくなかったり。一日のことを知っておく機会は貴重なのでできるだけ事欠かさないようにしている。もちろん侍女たちと話す時間も忘れずに、見張り役がいない時には、たまに宮のなかを皆で歩いたりする。
決まった時間にご飯が給され、湯浴みから消灯まで私の健康はすべて管理されている。これは別に難儀なことではなくてむしろありがたい話だ。公爵が戦いから帰還するまでは同じように健康増進がなされるということで、何でずっとこれを続けてくれないんだと私は軽く愚痴ったりした。
さて最も厳しい生活上の問題としては、やはり公爵と同居することが内々で決まったことだろう。
「前までの公爵殿下たちは、みなもともと白宮で寝泊まりされていたのです」
エヴァが意気揚々と語ってくる。私が日月公妃になるからと、わざわざ公爵もこちらに移り住むつもりらしいのだ。
同じ部屋で寝る、夫以外の男と自分がいる想像すらできない。さすがに試練が来たなと私は冷や汗をかいたし、できれば公爵が戦地から帰ってこないでほしいとさえ願っていた。失礼だが、私はあんな血の気の多い男と一緒にいられる自信がなかったのだ。
「私は同意した覚えが無い……」
「ここは我慢ですラルカ様。議会にて全会一致で決まってしまったので、覆りようがありません」
公妃になると明言したことはない。だが拒絶できるほどの権限はないので、このまま一直線に私は公爵家に嫁がされるのだろう。
私はもう半分諦めの境地に達していた。さすがに逃亡未遂をやらかして観念したしこれ以上の波風を立てる気概は湧いてこない。従者にも迷惑をかけたくなかったし、なにより私は孤独がとても恐ろしくなった。もう闇のなかで一人でいたくない。
「でも嫌なものは嫌だな」
私の気持ちとは逆に、侍女たちは公爵との同居には前向きでいた。私がこれから公妃になることを考えたら夫との付き合いは良いに越したことはない。ここで不自由なぶん、人との交流を密にしたほうが毎日がより楽しくなる。そういった事情をできるだけ勘案したうえでの彼女らの意見はもっともだった。
「正直に言いますと、ラルカ様が日月公妃になられると噂を聞いてからずっと浮かれているんです」
「そうなの……どうして?」
「公爵家にようやく奥方がやって来る!!それだけでも大事件なのに、それがラルカ様のように美しい御方だとわかったら嬉しくて仕様がなくなるのは当たり前ですよ」
宮中でも私が『まざりもの』であることは広まっていた。何も言ってこないが世話役の侍女もそれとなく私の身体を労わってくる。なにもかも至れり尽くせりだった。こちらの身の上が暴かれていくたび周囲の態度はどんどん柔らかくなっていったし、良いのか悪いのか、宮内では私をすでに妃のように扱ってくる者さえいた。
白宮は隣に立つネーベル宮殿の半分ぐらいの大きさである。内装を比べると、あちらよりも堅実で重厚なつくりとなっている。主と女性が住むための施設だったこともあり、警備の面がより重視された建造物なのだろう。
一方で、私の新居生活は牢獄みたいな部屋が選ばれた。窓が一つもなくて、出入りの扉を塞ぐと完全に閉ざされた空間ができあがってしまう。家具の揃いだけはすこぶる良いので、生活の質はそれなりに保たれてはいる。穏やかな風を感じるには侍女を呼んで散歩に付き合ってもらうしかない。
鎖や縄で縛られることがなくなったぶん解放感があった。だがその代償として監視役が増やされて逃げ場を物理的に封じられている。というのも私の自室は宮の二階層をもらい受けているため、外の世界とは分離されていたのだ。
内外の橋渡し役としてエヴァを介す必要がある。人伝てに宮で起こった出来事を見聞きしながら、楽しかったり楽しくなかったり。一日のことを知っておく機会は貴重なのでできるだけ事欠かさないようにしている。もちろん侍女たちと話す時間も忘れずに、見張り役がいない時には、たまに宮のなかを皆で歩いたりする。
決まった時間にご飯が給され、湯浴みから消灯まで私の健康はすべて管理されている。これは別に難儀なことではなくてむしろありがたい話だ。公爵が戦いから帰還するまでは同じように健康増進がなされるということで、何でずっとこれを続けてくれないんだと私は軽く愚痴ったりした。
さて最も厳しい生活上の問題としては、やはり公爵と同居することが内々で決まったことだろう。
「前までの公爵殿下たちは、みなもともと白宮で寝泊まりされていたのです」
エヴァが意気揚々と語ってくる。私が日月公妃になるからと、わざわざ公爵もこちらに移り住むつもりらしいのだ。
同じ部屋で寝る、夫以外の男と自分がいる想像すらできない。さすがに試練が来たなと私は冷や汗をかいたし、できれば公爵が戦地から帰ってこないでほしいとさえ願っていた。失礼だが、私はあんな血の気の多い男と一緒にいられる自信がなかったのだ。
「私は同意した覚えが無い……」
「ここは我慢ですラルカ様。議会にて全会一致で決まってしまったので、覆りようがありません」
公妃になると明言したことはない。だが拒絶できるほどの権限はないので、このまま一直線に私は公爵家に嫁がされるのだろう。
私はもう半分諦めの境地に達していた。さすがに逃亡未遂をやらかして観念したしこれ以上の波風を立てる気概は湧いてこない。従者にも迷惑をかけたくなかったし、なにより私は孤独がとても恐ろしくなった。もう闇のなかで一人でいたくない。
「でも嫌なものは嫌だな」
私の気持ちとは逆に、侍女たちは公爵との同居には前向きでいた。私がこれから公妃になることを考えたら夫との付き合いは良いに越したことはない。ここで不自由なぶん、人との交流を密にしたほうが毎日がより楽しくなる。そういった事情をできるだけ勘案したうえでの彼女らの意見はもっともだった。
「正直に言いますと、ラルカ様が日月公妃になられると噂を聞いてからずっと浮かれているんです」
「そうなの……どうして?」
「公爵家にようやく奥方がやって来る!!それだけでも大事件なのに、それがラルカ様のように美しい御方だとわかったら嬉しくて仕様がなくなるのは当たり前ですよ」
宮中でも私が『まざりもの』であることは広まっていた。何も言ってこないが世話役の侍女もそれとなく私の身体を労わってくる。なにもかも至れり尽くせりだった。こちらの身の上が暴かれていくたび周囲の態度はどんどん柔らかくなっていったし、良いのか悪いのか、宮内では私をすでに妃のように扱ってくる者さえいた。
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