日月物語~亡国公妃の美しき末路について~

芽吹鹿

文字の大きさ
22 / 23

22暮らし

しおりを挟む
 庭園のなかに埋もれた位置に白宮はまとまっており、ほのかに自然の花や木々の匂いが香ってくる。そよそよと風なんかが吹いてくる日は好ましい。
 白宮は隣に立つネーベル宮殿の半分ぐらいの大きさである。内装を比べると、あちらよりも堅実で重厚なつくりとなっている。主と女性が住むための施設だったこともあり、警備の面がより重視された建造物なのだろう。

 一方で、私の新居生活は牢獄みたいな部屋が選ばれた。窓が一つもなくて、出入りの扉を塞ぐと完全に閉ざされた空間ができあがってしまう。家具の揃いだけはすこぶる良いので、生活の質はそれなりに保たれてはいる。穏やかな風を感じるには侍女を呼んで散歩に付き合ってもらうしかない。

 鎖や縄で縛られることがなくなったぶん解放感があった。だがその代償として監視役が増やされて逃げ場を物理的に封じられている。というのも私の自室は宮の二階層をもらい受けているため、外の世界とは分離されていたのだ。

 内外の橋渡し役としてエヴァを介す必要がある。人伝てに宮で起こった出来事を見聞きしながら、楽しかったり楽しくなかったり。一日のことを知っておく機会は貴重なのでできるだけ事欠かさないようにしている。もちろん侍女たちと話す時間も忘れずに、見張り役がいない時には、たまに宮のなかを皆で歩いたりする。

 決まった時間にご飯が給され、湯浴みから消灯まで私の健康はすべて管理されている。これは別に難儀なことではなくてむしろありがたい話だ。公爵が戦いから帰還するまでは同じように健康増進がなされるということで、何でずっとこれを続けてくれないんだと私は軽く愚痴ったりした。

 さて最も厳しい生活上の問題としては、やはり公爵と同居することが内々で決まったことだろう。

「前までの公爵殿下たちは、みなもともと白宮で寝泊まりされていたのです」

 エヴァが意気揚々と語ってくる。私が日月公妃になるからと、わざわざ公爵もこちらに移り住むつもりらしいのだ。
 同じ部屋で寝る、夫以外の男と自分がいる想像すらできない。さすがに試練が来たなと私は冷や汗をかいたし、できれば公爵が戦地から帰ってこないでほしいとさえ願っていた。失礼だが、私はあんな血の気の多い男と一緒にいられる自信がなかったのだ。

「私は同意した覚えが無い……」

「ここは我慢ですラルカ様。議会にて全会一致で決まってしまったので、覆りようがありません」

 公妃になると明言したことはない。だが拒絶できるほどの権限はないので、このまま一直線に私は公爵家に嫁がされるのだろう。
 私はもう半分諦めの境地に達していた。さすがに逃亡未遂をやらかして観念したしこれ以上の波風を立てる気概は湧いてこない。従者にも迷惑をかけたくなかったし、なにより私は孤独がとても恐ろしくなった。もう闇のなかで一人でいたくない。

「でも嫌なものは嫌だな」

 私の気持ちとは逆に、侍女たちは公爵との同居には前向きでいた。私がこれから公妃になることを考えたら夫との付き合いは良いに越したことはない。ここで不自由なぶん、人との交流を密にしたほうが毎日がより楽しくなる。そういった事情をできるだけ勘案したうえでの彼女らの意見はもっともだった。

「正直に言いますと、ラルカ様が日月公妃になられると噂を聞いてからずっと浮かれているんです」

「そうなの……どうして?」

「公爵家にようやく奥方がやって来る!!それだけでも大事件なのに、それがラルカ様のように美しい御方だとわかったら嬉しくて仕様がなくなるのは当たり前ですよ」

 宮中でも私が『まざりもの』であることは広まっていた。何も言ってこないが世話役の侍女もそれとなく私の身体を労わってくる。なにもかも至れり尽くせりだった。こちらの身の上が暴かれていくたび周囲の態度はどんどん柔らかくなっていったし、良いのか悪いのか、宮内では私をすでに妃のように扱ってくる者さえいた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト
BL
転生したらオークでした。豚の顔とかマジないわ~とか思ったけど、力も強くてイージーモードじゃん。イージーイージー!ははは。俺、これからスローライフを満喫するよ! そう思っていたら、住んでいる山が火事になりました。人間の子供を助けたら、一緒に暮らすことになりました。 子供、俺のこと、好きすぎるのやめろ。 前半ファンタジーっぽいですが、攻めの思考がヤバめです。オークが受けでも別に大丈夫という方のみお読みください。 不憫オークですが、前向きすぎるので不憫さは全くありません。 ムーンライトノベルズでも投稿しております。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

処理中です...