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7、再会

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お店のSNSで写真を見た。昔よりは少し色黒く、たくましくなった感じがする。はるおももう38歳のはずだ。はかなげな青年ではないけれど、相変わらず整った顔をしている。
会社を起こして、人気店のバーを経営している。やっぱりずっとお酒と関わっていたのかな、仕事として立派に形にできていてよかった。生きていてよかった。

グーグルマップで見た家は、あの頃はるおが1人で住んでいた古い家ではなく、建て直されたきれいな家になっていた。結婚して家庭をもったのかな、幸せでいるのかな。もう死にたいなんて思ってない?幸せに生きてる?はるお、あれからどんな15年を過ごしてた?
私は社会生活をきちんと送って、仕事をして友達と交流して、結婚して子供も産んだ。突発的に死のうとすることはほとんどなくなって病院も行ってない。それでもふいに意識は死に向かってしまって、そうなるともう誰とも関われずに、内に内に心が沈んでいく。
私はいつ死ぬんだろうと考えていた時に、はるおを思い出したんだ。
あの時確かに強く死にたがっていたはるおは今どうしているのかを知りたくて、はるおと話したくなったんだ。


シャンディガフを何口か飲んだところでカウンターの奥から人が出てきた。はるおだ。
ホール、カウンター席と、きっと状況を把握するためだろう、店全体をさっと見渡したはるお。私とも一瞬目が合った。私は自然に目をそらしたつもりだった。
会社の飲み会帰りにまだ少し飲みたくて、1人でふらっと入っただけのバーだから。カウンターの中を物珍しく見渡してただけだから。
視界の淵にはるおが入る。こっちに来てる。気付いたのかな、いや普通に歩いているだけかな、反対の方向をぼんやり見つめてる自分が白々しい。

「久しぶりじゃん」
はるおの声に、顔を向けた。
すごく自然な、そして懐かしい笑顔で、はるおが私を見ている。
15年ぶりなのにオーバーなリアクションをしない、まるで半年ぶりに会う友達みたいな言い方が、すごくはるおっぽかった。私は照れたようななんだかバツの悪いような変な顔をしていたかもしれない。
「私のこと覚えてる?」「瀬賀奈々子」なんでフルネームよ。もう今は瀬賀じゃないし。
「久しぶりだね、はるお」

どんな別れ方をしていたって会っていない間にどんな感情があったって、今目の前にあるその顔が声が雰囲気が、はるおという存在が丸ごと迫ってきて、懐かしくて泣きたくなる。
え、はるお?!なんでここにいるの?!このお店で働いてるの?すごい偶然じゃん!的な態度を取らなかったことで、このお店にはるおがいる事を私が最初から知っていたことは隠せなくなってしまった。
いきなりの涙目と、はるおに会いたくて調べて来たという事実をごまかすように私はしゃべりだした。
「この前友達と偶然このお店にきてね、それで後から SNS調べたらはるおが載っててびっくりしてさ、だから今日は飲み会帰りで、はるおいるかなーってふらっと来てみたの」
「ここオレの店。てか、はるおって呼ばれるの懐かしいな」
私の適当な嘘はバレてるのか信じてもらえたのか興味がないのかよくわからないけれど、はるおの淡々と話すペースに飲まれ、私もあたふたする必要がなく思えてきた。とりあえず、気まずくて話せなかったらどうしようという心配は払拭されたけれど、何を話そうか。そのままはるおの顔を見ていた。
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