女の子は、女の子に恋をしない

あおい

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大切と大嫌い

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 その道の途中から温かい暖炉の前に連れてこられるまで、私はひたすらに感情を吐露した。
 ここに来るまでになにがあったか。私がどういう思いで望に気持ちを伝えたか。
 そうして、どんな風に裏切られたか。
 咲先輩は、やはり優しかった。私の言葉足らずな気持ちのひとつひとつを真剣に聞いてくれた。そのおかげで、私の涙も少しずつ落ち着いてくる。
「……本当、大変だったね」
「……はい」
 お互いに、しばらく沈黙する。暖炉は私のすぐ前で、ぱちぱちと弾けている。咲先輩は桃色の柔らかそうな部屋着に身を包み、高級そうな椅子に座りながら私のすぐ隣にいる。いつもなら左右で巻いているはずのその金髪は、今はセットされていない。部屋全体の床を覆う柄付きの絨毯に、まっすぐと伸びている。
「もう、どうしたらいいかわからないです」
 先輩の目を見ないまま言い、もらったバスタオルの中に目をつぶってうずくまる。できるならこのままなにも考えず、なにも感じずに眠ってしまいたい。
「でも、親友同士なんだしさ。きっとまた仲直りできる……と思うよ」
 先輩はつぶやくように言ったのち、膝の上でこぶしを作りながら、その顔を伏せる。
「ごめん。こんなの、無責任だよね」
 彼女は急にしぼんでしまった。
 しかし次の瞬間、私にかけられていた笑顔の形がとたんに変わる。慰めることをやめて、ただ私のすべてを肯定してくれる。そんなふうに。
「やまとちゃん、よく頑張ったと思う。きっと私には想像できない苦労とか、たくさんあったんだろうなって。だから、今は休んで。気が済むまでここにいていい。私にできることって、多分それくらいだから」
 そう言ってくれる。
 私は自分勝手だ。咲先輩には助けを求めることしかできず、なにかをしてあげられたことなんて一度もない。
 でも自分が情けないと思うのは、もう慣れたこと。誰になにを思われるとか、そんなことどうでもいい。
 もう、すべてがどうでもよかった。ただこの心をどうにかしなければ、また泣き出してしまいそうで。咲先輩は優しくて、私のことが好きだから。きっと、許してくれると思った。
 バスタオルを退け、彼女の傍まで行く。
「咲先輩っ……」
「……!」
 先輩は驚いて、可愛い顔になる。私の顔との距離は、既にたった数センチ。
 その体に覆い被さるようにして、私は先輩に抱きつく。ほんの少し首を動かせば、唇がふれ合ってしまう距離。そうなってもいいと思った。石鹸のような香りのする彼女の温かい息が、私の鼻にかかる。先輩の体は、柔らかくて気持ちいい。いつまでもこうしていたい。もっと先に進んでみたい。
 だから私はまた目をつぶって、さらに強くその体を抱きしめる。彼女が椅子の上で潰れてしまわないよう気を使いながら、ゆっくりと体重を預ける。
 先輩ならきっと、すべてを忘れさせてくれると。


「そんなんで来られても、嬉しくないよ」
 その両手は、私を強く突き放す。私の腕をつかみ、体から引き剥がすように。
 彼女の頬は赤い。それゆえに悲しくなった。
「いや、嬉しくない、わけないけど……」
 彼女は言葉を濁しながら言う。
「でも、今の私がやまとちゃんに相応しくないってことだけはわかる」
 このままいけば、きっと二人で幸せになれただろう。
 そう思ったけれど、言葉には出せない。目も合わせられない。
「そんなこと、ないです……」
「あるの! おかしな話、私は一人でも生きていける。でも、望ちゃんはどう? 十年近く一緒に過ごしてきて、あんなにやまとちゃんにでれでれして。望ちゃんは、やまとちゃんが大好きなの。それはやまとちゃんだって同じことでしょ?」
「望には、私が必要ないんです。いくら先輩に違うって言われても……!」
 私が叫びそうになったとき。
 先輩はその言葉をせき止めるように、私の手を握りしめる力を強める。
「聞いて。私がやまとちゃんを好きになった理由」
 先輩は言う。今までよりもっと真剣な表情で、何度か深呼吸をする。
「すっごく恥ずかしいけど、ちゃんと言うから」
 視線をあちこちにやりながら、その言葉を続ける。
「体ががっちりしてて、たくましいところ。自分では卑下してるけど、顔も普通に可愛いところ。あとは…自分よりも、常に他人を大切にしてるところ」
 それは、今まで誰にも言われなかったこと。親しかった望ですらあまりに身近で、お互いを褒め合うことなんてなかったから。
「イズニーで小夜ちゃんを引き留めたとき。私は、もっとやまとちゃんのことが好きになったんだよ。私のために泣いてくれてる姿も、素敵だった。寂しくはあったけどさ……誰からも必要とされないなんて、ありえない」
「でも、そんな保証、どこにもないじゃないですか」
「あるの!!」
 最低な私を吹き飛ばすかのような、先輩の叫び声。
 私は目を覚ます。こんな先輩の姿、今まで一度だって見たことがなかったから。


「やまとちゃんは、世界に一人しかいないんだ!!!!」


——燃料の木材を吸い、より高く燃え上がる暖炉の横で。
 その言葉は、火のように舞う。
「泣かないでいい。つらいなら私を頼って。絶対に忘れちゃいけないの。あなたがこれまでの人生で、どれだけみんなに大切にされてきたか!!」
 そう言われてよみがえる、いつかの記憶。いつかの夏に聞いた、冒険を求めるあの声。


『大和』
 幼い頃の望。その夜、木々に囲まれた暗闇の中でその顔が見えたのは、空が輝いていたから。色とりどりの光、何度も鳴り響いた美しい爆発音。私たちの会話は、その音に何度もかき消されてしまいそうだった。それでも七色の光に照らされる彼女の姿は、いつまでだって見ていられそうで。
『ずっとしまっておこう。いつか思い出せるように。私たちがどれだけ、お互いを大切に想ってるか』
 私たちはそのとき、なにかを隠した。あの鳥居のすぐ近く、その神社を最終地点として。
 それ以上は思い出せない。あのとき望が言っていた、お互いを想う気持ちのように。


「あのとき、花火が鳴ってたんです」
 現実に戻ったとき。私は無意識にそうつぶやいていた。
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