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第2話 探り探り

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翌日。
宿を出たユウ達は、ヤフレ家の屋敷へと向かう。
ドリイの町で馬を預ける際、訪れる理由を『皇帝からの使者、それも緊急の』と伝えていた。
身に着けた革の鎧にも、皇帝護衛隊の紋章が刻まれているので。
不審がられながらも、一応馬を預かってくれた。
それは、馬に何も仕掛けが無かったからに過ぎない。
使者と言うのが本当か、信用された訳では無く。
だからこそ監視役として、2人の兵士が付いて来たのだ。
ジューレの町に達するまで観察して来たが、どうやら使者と言うのは本当らしい。
所作を見ていれば、一般人なのかそれなりの地位に居るのか判断出来る。
その上で、皇帝の身近に居る者と考えたのだ。
ヤフレ家の兵士レイアが、事前に話を通しておいてくれたものの。
屋敷の前に立っている警備兵は、威圧感たっぷり。
ユウに同行して来た護衛隊3人の内、ハイが警備兵に取り次いでくれる様頼む。
一行をジロジロ観察した後、警備兵は屋敷の敷地内に居る召使いを呼ぶ。
そして、一行を客人として案内する様命じた。
警備兵に一礼して、屋敷の敷地内に入る一行。
敷地は、一般家庭の住宅の4倍程の広さ。
12貴族の屋敷としては小さい方だ。
玄関前に立つと、ドアを開け中へ声を掛ける召使い。
執事の様な老人が、奥からやって来る。
事情を召使いから伝え聞くと。
執事は一行を、玄関から少し入った所に在る応接間へと案内する。
そこに置かれた2人掛けのソファへ、それぞれ着席。
当主の登場を待つ事となった。



待つ事10数分。
執事が応接間のドアを開ける。
そして中に入って来たのは。
ヤフレ家当主、《アルバト・ヘウス・ヤフレ》。
年は40過ぎだろうか。
顔付きはしっかりとしている。
やや茶髪で、髭は無し。
綺麗に整えられている首から上とは裏腹に。
着ている服は庶民と変わらないレベル。
申し訳無さそうにしている。
彼を直立で迎える一行。
しかしユウはまだ頭巾を深く被り、うつむき加減の姿勢。
まだだ。
正体を知らせるのは。
まずは、本当に日和見派なのかを確かめる必要が有る。
応接間の上手かみてに在る椅子へと座るアルバト。
話を切り出すのは、ホム。

「陛下より『ヤフレ家を調査せよ』との命があり、参上致しました。」

「ご苦労。調査とはまた物騒な。」

以前に開かれた評議会で、出席していたアルバトは敢えて何も発言しなかった。
王族擁護派、反対派、どちらに取られるのも嫌がったのだ。
ジューレの立地条件然り。
身に着けている衣服然り。
部屋のシンプルさ然り。
12貴族の中でも貧しい部類なので。
面倒事は、より貧しくする要因になりかねない。
触らぬ神に祟り無し。
そう言う精神からの対応。
だから調査と言われても、何とも答え様が無かった。
アルバトがホムに尋ねる。

「して、何の調査かな?」

「はい。実は『ご当主様が信用に足る人物かを見極めよ』と言う物でして。」

「信用……。」

そこでハイがアルバトへ告げる。



「あなた様には、『反対派への内通者』の嫌疑が掛けられております。」



「な、何だって!」

思わずガタッと立ち上がるアルバト。

「内通だと!誰がそんな根も葉も無い噂を……!」

「それは申せません。守秘義務がございますので。」

「むむう……。」

考えるアルバト。
誰だ?
そんな事を言う奴は?
この家を取り潰した所で、得をする者は居ない筈。
……いや。
反対派がこの地を手に入れて、敵国へ攻め込むルートを確保する狙いか?
とすると、反対派と目される中で一番力の強そうな《チンパレ家》か?
奴ならやりかねん。
領土も近いしな。
兵士を境界辺りに置いてはいるが、あれでも不十分か。
しかし、現在の戦力を考えると……。
考えれば考える程、ドツボに嵌るアルバト。
そこで。

「どうすれば、嫌疑が晴れる?」

そう尋ねるしか無かった。
王族と反対派、どちらにくみするのもリスクを伴う。
しかし最早、日和見で居るのは叶わぬ様だ。
ならば、分の良い方に付くまで。
それを量るには、嫌疑の晴れる条件を提示してもらう。
その内容如何いかん
しかしこれは、《あの者》が立てたシナリオ通りの展開。
彼は、その先も読んでいた。
そこで、シナリオ通りの条件を。
ハイが続ける。

「野営所を設営して頂きたく。」

「うむ?何故その様な物を?」

野営所?
戦でも始める気なのか?
しかし何故ここに?
まさか、ここから敵国へ攻め入る気では?
それでは、ここに暮らす民の生活が……。
迷うアルバト。
そこへハイが。

「戦をするのは敵国とでは有りません。反対派とです。」

「何と!」

敵は反対派。
とすると、チンパレ家を潰すと言うのか!
随分と直接的な動きを見せるのだな。
そこまで事態は切迫しているのか?
『暗殺の危険に晒されている』と言うのは本当だったのか?
実は、火の粉がこちらへ飛んで来ない様考えるので精一杯だったアルバト。
チンパレ家を牽制出来れば、どちらに転んでも良い。
民を守るのが先決。
チンパレ家と戦うのであれば、こちらにもメリットが有る。
ただ1つ、気になる事が。

「ムヒス家はどうなのだ?」

ワインデューとラミグとの間に位置する、シゴラ。
そこを支配するムヒス家も、怪しく感じていた。
娘を王族へと嫁がせると聞く。
もし反対派だとはっきりしたら、かなり厄介だ。
チンパレ家を叩くのも容易では無かろう。
そう心配するのも無理はない。
それを見透かす様に、ハイが続ける。

「ムヒス家は大丈夫です。」

「どう大丈夫なのだ?」

確証が持てないので、問いただすアルバト。
もう少し材料が欲しい。
王族側に付いて、チンパレ家を攻撃する大義名分が。
『それはこちらから』と、さっきからずっと俯いている騎士を指すハイ。
突然ガバッと頭巾を取り。
高らかに宣言する。



「ムヒス家は反対派を裏切り、こちら側へ付いたよ。」
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