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第4話 始動

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「出て来たぞ!」

身構える兵士達。
しかしそれは、金で出来た人形だった。
玄関から2体、窓からそれぞれ1体。
のっそりのっそり、兵士達に近付いて来る。

「き、気味が悪い!」

兵士は人形から遠ざかる。
10数歩歩いた場所で、人形達はバタッと倒れる。

「それで騙したつもりか!まだ中に居る筈だ!総員、突撃!」

リーダーが号令を上げる。
『わあーーっ!』と家の中へと殴り込む兵士達。
すると、何処からか。



「プレゼントだ!受け取れ!」



家の外からそう聞こえる声。
同時に家の屋根が金色へと変わり、どろっと溶けて兵士達に覆い被さって来る。
うわあーーーーーーーっ!
うめき声にも似た悲鳴を上げる兵士達。
家が丸ごと、ぷるんぷるんと震える黄金の塊となり。
兵士達へ向かって、ベシャッと潰れた。

『く、くそう!動けん……!』

もがき苦しんでいる兵士達をよそに、人形達が起き上がる。
そして。



「『その金塊で勘弁してくれよ』って、領主に伝えといてくれ。」



「やはり、あなただったのですね!」

何かやると思って1人だけ中に入らなかった、敵兵の錬金術師が駆け寄る。
それは体の表面を金で纏い、人形に擬態したクライス達だった。

「こんな事も出来るなんて……!」

金の膜が剥がれ落ちて顔が現れると、再び驚嘆するマリー。
頭の中で整理しながらも、興奮を抑えきれないエリー。
これ程の凄腕が、味方になってくれたら……!

「後は宜しく。助け出しやすい様に、兵士の周りと脱出口は固めて無いから。」

錬金術師の肩をポンと叩いて、マリー達の方へ向かうクライス。
玄関側は、纏った金のせいで動き辛くなったマリーとエリー。
窓からは、2人の錬金術師。
何処から出るかも計算済み。

「良かったよ、2人共。本当に人形の様だったよ、不格好で。」

「まあ、失礼な!演技よ、演技!」

変な褒め方のクライスに、ツンとするマリー。
『いつもの事ですから』と、エリー。
『それよりも、早くここを離れないと』と促すアン。
『それもそうだ』と、4人は家だった成れの果てを後にする。
その後ろ姿を敵の錬金術師は見送り、これからの無事を祈って一礼した。



安全な場所まで来ると、クライスに平謝りするエリー。

「申し訳ありません。巻き込んでしまった上に、住居や貴重な本まで……。」

「謝る事は無いよ。いずれこうなっていただろうし。それに本の知識は全部頭の中に有るから、問題無いさ。」

「でも……。」

「本当に良いって。それより。襲われる前に、姫さんが何か言いかけてたろう?」

ああ……。
クライスの言葉で、我に返るマリー。
こうなった以上、責任を取らないと。
一国の王女として。
マリーはクライスに言う。

「無礼を承知でお願いするわ。私達に協力しては貰えないかしら?」

「と言うと?」

「元々、領主からは逃げ出そうと思っていたの。我が野望の為に。」

「ほう……。」

「何ですか?兄様を変な事に利用する気じゃ……?」

急に警戒し目つきが鋭くなるアン。
クライスはそれを制した。

「《世界統一》。世界を1つにして、争いの無い平和な世の中にしたい。その為にあなたの力を借りたいの。」

「随分大風呂敷を広げるもんだな。それが叶うとでも?」

クライスは、マリーの真意と覚悟を測る。
マリーの目は真剣だった。
『叶う』では無く『叶える』と言う、強い意志が汲み取れた。

「まあ、家も無くなったし。それに一所ひとところに留まるのも狙われ易いからな、お互いに。」

「じゃあ……?」

「良いよ、付き合おう。それが実現出来るかどうかは分からないけど。」

クライスの返答に、反発するアン。

「兄様……!」

「アン、お前は無理する事は無い。帰る場所も有る。さっさと……。」

「嫌です!もう離れ離れは御免です!絶対に付いて行きますから!」

「……しょうが無いなあ。そう言う事になったが、良いかい?」

「優秀な錬金術師が2人も!贅沢過ぎて……!」

目をウルウルさせるエリー。
マリーの野望が現実味を帯びて来た。
それが嬉しかったのだろう。
マリーの苦労を一番知っているのは、ずっと傍で見てきたエリーなのだから。

「では改めて自己紹介を。私は……。」



自己紹介も終わって。
クライスがマリーに尋ねる。

「これからどうするんだい、姫さん?」

「『マリー』で結構よ。取り敢えず、国境に向かおうと思うの。懇意にしている領主が居るのよ。」

「なるほど、そこを拠点に活動すると。」

「そう。出来れば、その途中で寄る地域も味方に付けたいのだけど。」

「兄様には不思議な人徳があります。可能ではないでしょうか。」

「そうと決まれば、旅を始めますか。ところで……。」

アンの相槌の後、クライスは或る提案をした。

「俺達は、それ程名を知られていないから構わないけど。君達は、偽名を名乗った方が良いんじゃないか?その方が、追っ手を撒き易いだろうし。」

「それもそうね。じゃあ……。」

うんうんと頷き、考え出すマリー。
うーん。
うーん。
うーーーーーーーん……。
そこで断念。

「クライス、命名して。私にはネーミングセンスが無いみたい。」

「私もお願いします、クライス様。」

エリーも、その流れに乗っかる。
クライスは少し戸惑うが。

「ホントに俺で良いのかい?」

コクリと2人。
『じゃあ』と、それぞれを指差しながら。

「姫さんは【ラヴィ】で、お付きの人は【セレナ】。どうかな?それぞれ、【愛の神】と【月の女神】をもじったものなんだけど……。」

「ふうむ。悪くないわね。」

「私には勿体無くて……。でも気に入りました。」

満足気の顔をする2人。
更にクライスが提案する。

「それとお互い、敬語も無しにしよう。堅苦しいし、何よりそれで身分がバレる恐れがある。」

それは。
『屈託無く何でも話して欲しい』と言う、クライスの願望でもあった。
それに『マリー』、では無くここからは『ラヴィ』、は気が付いていた。

「良いわ、そうしましょ。ねえエリー、じゃ無かった、セレナ。」

「わか、わか、わか……りました、では無くて、分かった。」

ずっとマリーに仕える身だったので、やはり戸惑いが有る様だ。
でも主に恥は掻(か)かせられない。
やり切ろうと決めた。



ここに、ヘンテコ御一行が誕生した。
果たして、彼等を待ち受けているのは……?
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