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第103話 騙しと信用、それが盗賊

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「な、何だ!」
「う、うわあ!」

次々と足を取られる盗賊達。
ここは、盗賊の巣の現在地。
不測の事態が起こる事を想定して。
代行のドズが方々に声を掛け、盗賊達を集めていた。
そこへこのアクシデント。
拠点に入ろうとした奴が何かに引っ掛かっては転び、また起きては引っ掛かる。
そのうち、寝そべったままになった。
『どうせまた起きても転ばされるだろう』と、進むのを諦めたのだ。
そのまま文句を言う盗賊達。

「どう言う事だ!」
「まともに動けんぞ!」
「さては罠か!俺達を出し抜く為の!」

「いや、違う!断じて違う!」

必死に弁解するドズ。
しかし一度信用を失うと、回復は難しい。
転んだままの盗賊達は、足元を指差して言う。

「何も無いのに転んだんだぞ!おかしいじゃないか!」
「何をした!いや、何を仕込んだ!」

「いや、だから……!」

こうなると聞く耳を持たないのが、盗賊と言う者。
そしてとうとう、ドズの仲間まで転ぶ様になった。

「おい!仲間じゃないのかい!」
「ひでえじゃねえか!」
「俺達まで裏切ろうと言うのか!」

「いや!いいや!違う!違うんだ!」

どんどん追い込まれていくドズ。
外から中から攻撃され、盗賊の巣は機能不全に陥った。
そこへ。



「そいつはなあ、親父を裏切ってお前達を売ろうとしたんだよ。」



現れたのはリゼ。
後ろにはヘリックとボーンズ、そして縄で腕を縛られたナセル。

「お前は!今更何しに来た!」

リゼを指差し興奮するドズ。

「何って、帰って来ちゃあおかしいのかい?あたい達だって、ここの所属なのに?」

「この位置が分かる筈無いだろう!」

「こいつが居るけど?」

ズイとナセルを前に出す。

「こいつも知らない暗号に変えた!辿り着ける訳が……。」

「でも実際、こうしてここに居る。違うかい?」

「うっ……。」

言葉に詰まるドズ。
そこで畳み掛けるリゼ。

「ほーら。こいつ、あたい達にもおんなじ事をしたんだよお。」

すかさず相槌を打つヘリック。

「そうだ!命からがらここまで来たってのに……!」

ボーンズも続く。

「まるで現れたら都合が悪いみたいじゃないか!」

「当然だ!お前等が来れると言う事は、ここがバレてるって証明に……。」

ドズは、そこで初めてハッとする。
プレート!
これがここに持ち込まれたから……。
再び文面を見ると。



《悪巧みは終わりだ。刺客も全員捕らえたから、取りに来い。》



「……!」

文面が変わっていた。
それを覗き込むリゼ。

「なーんて書いてあるんだーい?」

「こ、これは……!」

「何だって!仲間が捕まってるって!」

オーバーアクションで、わざと大声を張り上げるリゼ。
ドズに詰め寄る。

「あんた、仲間を売り渡したのかい?えーーーっ?」

冷や汗だらだらのドズ。

「ち、違う!」

「だったら、さっさと迎えに行きな!あんたが率先してね!」

「ど、どう言う了見だ……!」

反論するドズに、辺りを見回しながら言うリゼ。

「反逆の疑いが掛かってるって言ってんだよ!そうだよな、お前達!」

すると、転んでいる内外から怒号が上がる。

「そうだ!」
「裏切ったんじゃ無いなら!」
「行動で示せ!」

その中で委縮するドズ。
今まで散々威張り散らしていたので、逆の立場は弱いのだ。
そこでズイイイイーーーッと寄り。
顔が硬直しているドズへ向かって、念を押す様に言うリゼ。

「やるのかい?やらないのかい?」

「やる!分かったから!これ以上は……。」

仕方ない感じで言うドズに、リゼはニヤリ。
そしてその場で宣言した。

「これから盗賊の巣は、あたいが親父の代行だ!その証拠にほら!もう起き上がっても大丈夫さ!」

『ほらほら立ってみな』と、手を下から上へブンブン煽るリゼ。
恐る恐る立ち上がる盗賊達。
そして一歩、また一歩と進む。
今度は転ばなかった。
それでます々ドズを疑い、リゼを信用する盗賊達。
そこで敢えて付け加えるリゼ。

「あたいに従うか否かは自由だよ!本来、盗賊ってそんなもんだろ!」

おーーーっ!
叫び声がこだまする。
リゼに従う者、今は離れるがリゼにちょっかいは出さないと誓う者。
そして、あくまでドズに従う者。
三者に別れた。

「じゃあ行こうか、野郎共!」

勝鬨かちどきを上げるリゼ。
えいえい、おー!
リゼの配下は格段に増えた。

「ヘリック!ボーンズ!ドズが変な動きをしない様、付いて行きな!」

「「分かりました、姉御!」」

2人は元気に返事する。
逆に縮こまったままのドズ。
その背中をドンッと叩くヘリック。

「おら、行くぞ!お前が一番場所を分かってんだろ!早く連れてけ!」

ここぞとばかりに張り切るヘリックへ、『それ位にしとけ』と耳を引っ張るボーンズ。
そのボーンズに『頼んだよ』と囁くリゼ。
コクリと頷くと、ドズ達の後に付いて行く。

「あいつ等なら大丈夫だろ。」

見送りながら、あっさりとしたリゼ。
逆に不安がり、焦るナセル。
ボソボソと、リゼに話し掛ける。

『大丈夫だろうな……バレないだろうな……。』

『それはこいつに聞きな。』

自分の胸をチラ見するリゼ。
そこへ胸ポケットからひょっこり顔を出す、金の小人。
うんうん頷くと、ぴょこっと引っ込む。
盗賊を転ばせたのは、全てこいつの仕業。
グループ内を疑心暗鬼にさせておいて、そこへ安心感を与えて掌握する。
なるほど、あの金ぴかが考えそうな事だねえ。
つくづくそう思うリゼ。
こちらの望み通り、盗賊の巣は盗んだ。
後は知らないよ?
こっちの勝手にさせて貰うからね。
何と無くクライスの居る方向を感じつつ、そちらの方へ石をぶん投げるリゼ。
『全てお前の思い通りには動かないよ』と言う、せめてもの抵抗だった。
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