上 下
309 / 320

第309話 真実を白日の下(もと)に その1

しおりを挟む
人間では無い。
その事実を、自分の口から伝えなくてはならない。
何と悲しい運命か。
そんなクライスをあざける様に、ウェロムが言う。

「凄いわねー。私でもとうとう出来なかった事を、成し遂げるなんて。」

パチパチ手を叩きながら、感心の言葉。
それはウェロムの本心なのだろう。
しかしその言葉の中には、感情がこもっておらず。
研究発表を聞いて感想を漏らす程度の、淡々としたリアクション。
これが、おば様の真の姿……。
泣き疲れたマリーは、一周回って冷静となり。
ウェロムに対して、空恐ろしい感覚を持つと同時に。
転生してまで止めようとするクライスの気持ちが、分かる気がした。
人としておかしい。
思考回路が、常軌を逸している。
クライスの話を聞いて、眉1つ動かさないなんて。
じゃあ、宮殿で私と繰り広げた口喧嘩は何だったの……?
どうやらその一言は、口に出していたらしい。
ウェロムが、その疑問に答える。



「決まってるじゃない。下準備よ。実験の為のね。」



「実験?ふ、ふざけないで!」

「あら。至極真っ当よ、私。」

「それが『ふざけてる』って言ってんのよ!」

同じ口喧嘩なのに。
宮殿の時とは違い、感情が入り混じっているのはマリーだけ。
ウェロムは、降り懸かった火の粉をただ払い除ける様に。
サラリと流すだけ。
それが、よりマリーの怒りを買う。
このままでは切りが無い。
エリーが両腕を目一杯広げ、2人の間に割り込む。

「話が進みません!一旦止めましょう!」

「私はそれで良いんだけど、このがねえ……。」

余裕しゃくしゃくのウェロム。
怒りは収まらないが、エリーの言う事ももっとも。
グッと堪えて、又聞く体制へと戻るマリー。
一連の言い争いで、アンとロッシェの気持ちもクールダウンした様だ。
場が落ち着いた所で、再びクライスの話が始まる。
次は以下の様に、ウェロムとの対話形式で。



「あんただろ?〔妖精を襲った連中の生き残り〕をかくまったのは。」

「それが?」

「実験が途中で途切れる事を『詰まらない』と考えたあんたは、こっそり匿い。ついでに錬金術の禁忌を授けた。違うか?」

「ノーコメント。」

「とある代のヘルメシア帝国皇帝へ、ヘンドリからガティへの遷都を勧めたのも。あんただな?」

「それもノーコメント。」

「じゃあこれはどうだ?魔法使いの描かれたステンドグラスを、妖精と共同で製作した。これは『罪滅ぼし』だったんじゃないのか?」

「それがどうかしたの?」

「その時はまだ、真っ当な人間だったと言う事だよ。何処から狂ったんだろうな。」

「狂ってなんか無いわよ。元からこうよ。」

「違うね。俺とメグには分かる。この500年で、すっかり変わってしまった。それが自覚出来ない奴に、長期間の観察など向いていない。」

「そう言い切れる根拠は?」

「《反転の法》の賞味期限が切れたんだよ。それにも気付いていないんだろ?だから終わりなんだよ。」

「終わり?どうして?まだまだ先は長いのよ。」

「《終わりは始まりにある》。つまり、《【始めが元凶】であり、元凶へ的確に対処した時【全てが終わる】》。それが何を意味するか、分からないあんたじゃ無いだろ。」

「分からないわね、さっぱり。私がしているのは《実験の開始、及び【観測】》よ。私はこの世界の観測者。それは認めるわよね?」

「いいや、違う。真の観測者は《メグ》だ。メグが『この世界とあんた、2つに関する観測を終える』と言ってるんだよ。『終わりは終わり』、それが覆せない事実だ。」

「あいつは、私の実験には関係無いわよ。そもそもこんな事になったのは、あいつのせいなんだから。」



《ん?そろそろボクの出番かな?今そっちへ行くよ。》



天から声が響き。
クライスの後ろの空間が、グニャリと歪んだかと思うと。
直径1メートル程の、虹色の円が空中に浮かび上がり。
そこからニョキッと、左足らしき物が出て来る。
続いて右手、右足。
そして身体全体が、虹色の穴から覗かせる。
ピョンッと地面へ飛び降りる、その姿は。
魔法使いのメグル。
久し振りに、幻の湖が有る空間から出たらしい。
辺りをきょろきょろ見回し、空を見上げて。
『星が綺麗だねー』と、一言漏らす。
そして椅子に座る5人に向かって、『やあ!』と挨拶。
右手をシュタッと上げる。
その軽い態度で、場が和んだのか。
顔が若干緩み、お辞儀で返す4人。
ウェロムだけは、ムッとしている。
流石に感情を押し殺せなかったのか、吐き捨てる様に。
ウェロムがメグに向かって言い放つ。

「随分ご執心しゅうしんな様ね、この子達に。私の事はもう、どうでも良いって事?」

「そんな事無いさ。これでも律義な方でね。君に対する【約束】を、果たしに来たまでさ。」

そう言いながら、クライスの右側に回ると。
ウェロムの方を、ジッと見つめるメグ。
『仕方無いわね』と、パチンと指を鳴らすウェロム。
メグが飛び退くと同時に、立っていた場所から。
またしてもズズッと金属の柱がせり上がって、皆が座っているのと同じ椅子が出来上がる。
そこへ『よいしょっ』と座るメグ。
クライスの保護者の様に。
顔を見合わせる、クライスとメグ。
ここからが本題と言う風に、話し手がメグへと交代。
メグが語り出すその内容は、何ともややこしい物だった。



元々、〔始まりの錬金術師〕と呼ばれる者に。
錬金術の才能は無かった。
渡って来た次元の狭間で、危うく死にかける程だ。
メグが『危険』と判断し、次元の裂け目を安定化させる時。
『自分も手伝う』と、何とかそこへ手を添えたが。
それが、余計な行動だった。
安定化させる為に注いでいた魔力の内。
〔金の精霊〕に関する要素の大部分を。
自身の体力の回復の為、吸収してしまったのだ。
安定化には成功したが、精霊間のバランスが大きく崩れた。
この世界の不安定化を恐れた2人は。
魔境を出て、旅に出る。
この世界に関する情報を、手分けして収拾する為。
途中で2人は分かれた。
その時、妖精の暮らす場所へと行き着いた者は。
金の精霊を身に宿しているも同然だったので。
錬金術に対する適正が非常に高く。
結果、妖精からその技を受け継ぐ事となった。
その時、妖精と共同作業で或る物を作り出す。
それが、〔魔法使いが描かれたステンドグラス〕。
マリー達はその存在を知らないが、現物はユーメントが〔ボーデュ〕の町で確認している。
これにより、地脈の流れを制御し。
精霊間のバランスを取り戻す事に成功する。
ただ、これ1つだけでは不安なので。
妖精達は、もう1つステンドグラスを作ると言う。
償いが済んだと思ったのか、錬金術を習得し終えたと考えたのか。
そのままそこを離れ、妖精達は別の場所でステンドグラスを完成させた。
そこに描かれたのが、〔金色の騎士〕。
かつて何処かの誰かから、妖精達が聞いたと言う。
妖精の救世主。
マリーとエリー、そしてアンは。
作戦の最終盤でシルフェニアを訪れた時。
話した主を、エフィリアから聞いた。
『魔法使いだ』と。
前に記した通り、エフィリアのその証言には。
明らかにおかしい点が有る。
その後の話ではっきりする、おかしい点とは……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:106

外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:119

(R18) 悪役令嬢なんて御免です!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:4,106

吹き抜けるは真紅の風

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:29

神聖国 ―竜の名を冠する者―

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

異世界は黒猫と共に

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:202

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:76

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:238

処理中です...