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第20話 曖昧な世界は気を付けて!【ジャンル:漫画に成り掛けの物】
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シンと姫は、父親に連れられて。
とあるマンションの一室の前に来ていた。
シンの父親には、謎の人脈が有る。
今回も、その1つ。
或る漫画雑誌の編集者が、『執筆現場を見学してみませんか?』と誘って来たので。
『丁度良い』と父親は、2人にも声を掛けたのだ。
3人に同行している編集者が、ピンポーンとドアホンを鳴らす。
すると、『はーい』と中から声がして。
玄関のドアが、ガチャリと開いた。
「あ、お待ちしてました。話は伺っています。どうぞ入って下さい。」
『少々散らかってますけど』と漫画家自ら、わざわざ出迎えてくれた。
『失礼します』と3人は、挨拶をして。
編集者の後に続いて、奥へと進む。
そこには。
雑誌の対談風景か何かで見た事が有る、漫画家の仕事現場が広がっていた。
アシスタント用の机がズラリ。
その奥に、漫画家専用机。
隣の部屋は仮眠室。
壁際には、スクリーントーンなどが入れてある道具入れが有ったり。
オーディオ機器が有ったりした。
更に、客用の別の部屋も在る様だった。
シンと姫は、『場違いな所へ来てしまった』と思っていた。
しかし父親は、仕事の関係で。
そう言う場所には、結構来た事が有るらしく。
漫画家に対する対応などは、手慣れたものだった。
「今回は、設定に付いて話し合おうと思ってたんです。『何か参考になれば』と、人脈が広い蓬さんに来て頂いた次第です。」
編集者が説明する。
なるほど。
父親の経験から、何か良いネタが出て来るかも知れない。
しかし漫画家は、姫のビジュアルが気に入ったみたいで。
『済みません、ちょっとの間で良いんで』と、姫のラフ画を描き始める。
「こんな子を、漫画の中で出したかったんですよねー。」
漫画家は喜んでいるが、姫は迷惑そう。
あちこち2次元を巡って来たので、今更自分がモデルの登場人物なんて見たく無かった。
姫の気持ちを察して、シンが漫画家へ言う。
「申し訳無いのですが。彼女を漫画に登場させるのは、勘弁してくれませんか。こう言った事は苦手らしいのです。」
「それは気付きませんでした。でもせめて、参考資料としてだけでも……。」
漫画家は尚も食い下がるが。
姫のジトーッとした目線で、漸く諦めたらしい。
「これだけの容姿なのに、勿体無いなあ。」
とても残念そうな漫画家。
空気を変えようと、編集者が切り出す。
「それはそうと、打ち合わせに入りませんか?」
「では、あちらの部屋でしましょうか。アシスタントさん、休憩に入って下さい。」
漫画家はそう告げると。
応接間の様な別の部屋に、父親と編集者を案内する。
その直前、編集者が2人に尋ねる。
「あ、そうそう。お2人はどうします?」
「暫く、この部屋を見させて頂きたいのですが。」
シンが答える。
『結構ですよ』と、漫画家が答える。
そして、部屋の奥に消えて行った。
父親がシンに釘を刺す。
「変な事するんじゃないぞ?」
「分かってるよ。」
寧ろそれは、姫にを言えよ。
シンは心の中で、そう思うのだった。
漫画家・編集者・父親は応接間。
アシスタントは皆連れ立って、買い出しに出掛けている。
部屋には、シンと姫だけ。
これから起こる事は、シンには察しが付いた。
姫は、漫画家の机の上に在る紙を見て。
首をかしげる。
「これは何でしょう?かなり大雑把な絵しか、描かれていませんが……。」
「それは〔ネーム〕だよ。予め、コマ割りとか考える為に。大まかな展開を書いてるんだよ。」
「へえ。あらすじの様な物ですか?」
「そうとも言えるな。でも、キャラの動きは読めるだろう?」
「そうですね……。」
姫は、少し考えた後。
シンの予想通りな発言をする。
「入ってみませんか?どうなってるか気になります。」
「えー、またかよ。」
姫の〔気になる〕発言は、これまで何回聞いただろう。
まあ、自分も言っているのだが。
シンは辟易した感じで、姫に言う。
「しょうが無いなあ。少しだけだぞ?」
「はーい。」
右手を挙げて返事をする、姫の表情に。
悪びれた様子は、微塵も無かった。
中に入ってみると。
周りはぼんやりとして、はっきりしない。
その中に存在する人も物も、大雑把な輪郭が描かれているだけで。
強烈な違和感。
ネームの世界は、自分の手も指が無く。
丸っぽい感じだった。
「主人公が、何か言ってますね。」
姫は腕全体で、主人公らしき者を指す。
確かに何か言っているが、シンには分からない。
ネームの段階なので、明確な台詞が決まっていないのだろう。
「危ない!」
その時、変な様子に気付いたシンが。
咄嗟の反応で、姫を抱えて飛ぶ。
すると、何か大きな物が。
上から落ちて来た。
効果音が何も無かったので、反応はギリギリ。
それでも間に合ったのは、シンの勘の良さか。
どうやら主人公は。
『避けろ!』と言ったニュアンスの事を、こちらへ向かって叫んでいた様だ。
ここでシンは、考える。
これは、ネームの段階だ。
台詞も無ければ効果音も無い。
ここでは、何が起こるか予想が付かない。
白紙の状態に近いから、力を行使しても無駄だろう。
この世界がどんな様子か、粗方分かった。
もう、長居は無用だ。
姫を抱えながら、『元の世界に戻るぞ!』とシンは叫ぶ。
そして。
ネームの世界から『シュンッ!』と、2人が消える。
それを見た主人公の頭の上には、《?》の字が浮き出ていた。
「ふう、危なかった。」
シンは、おでこの汗を拭う様な真似をする。
姫もゾッとしたらしい、つくづくと言った感じでこう漏らす。
「中途半端な世界は、入らない方が良いのかも知れませんね。」
「擬音語や効果演出が無いからな。何が起こってるか、俺にも把握出来無いよ。」
そう答えるシンの顔は、真剣だった。
それだけに、姫には受けた様だ。
「何ですか、それ。」
姫はシンの頭を指差して、『ププッ』と笑う。
シンの頭の天辺には。
顔を半分覆う位の、大きな三角形のスクリーントーンが張り付いていた。
どうやら、ネームの上にふわっと乗っかっていた物を。
2次元世界から抜け出る時に、くっ付けて来てしまったらしい。
いつまでもゲラゲラ笑っている姫と、それを窘めるシン。
2人の余りの大声に。
隣の部屋から、扉を少しだけ開けて。
その様子をうかがう影が有った。
「あ!このシーン、使えませんか?」
漫画家が何かを閃いた様だ。
「確かに。これを、主人公とヒロインとのやり取りにすれば……。」
編集者も乗り気らしい。
グッジョブ!
父親は心の中で、そう叫んでいた。
かくして、姿形が違うとは言え。
シンと姫は、めでたく。
その漫画へ出演する事になった。
それも、主演で。
本人達は、気付いていないが。
因みに、この打ち合わせは。
漫画家が今度描く〔特別読切〕の、大まかな登場キャラ作りの為の物で。
検討した結果、内容は異世界ファンタジーに決定。
姫が、その世界観にぴったりのヒロインキャラだったからだが。
それが人気を博し、週刊連載に格上げされ。
長期に亘って人気となる、長寿作品へ化けるとは。
この時は、誰も思っていなかった。
とあるマンションの一室の前に来ていた。
シンの父親には、謎の人脈が有る。
今回も、その1つ。
或る漫画雑誌の編集者が、『執筆現場を見学してみませんか?』と誘って来たので。
『丁度良い』と父親は、2人にも声を掛けたのだ。
3人に同行している編集者が、ピンポーンとドアホンを鳴らす。
すると、『はーい』と中から声がして。
玄関のドアが、ガチャリと開いた。
「あ、お待ちしてました。話は伺っています。どうぞ入って下さい。」
『少々散らかってますけど』と漫画家自ら、わざわざ出迎えてくれた。
『失礼します』と3人は、挨拶をして。
編集者の後に続いて、奥へと進む。
そこには。
雑誌の対談風景か何かで見た事が有る、漫画家の仕事現場が広がっていた。
アシスタント用の机がズラリ。
その奥に、漫画家専用机。
隣の部屋は仮眠室。
壁際には、スクリーントーンなどが入れてある道具入れが有ったり。
オーディオ機器が有ったりした。
更に、客用の別の部屋も在る様だった。
シンと姫は、『場違いな所へ来てしまった』と思っていた。
しかし父親は、仕事の関係で。
そう言う場所には、結構来た事が有るらしく。
漫画家に対する対応などは、手慣れたものだった。
「今回は、設定に付いて話し合おうと思ってたんです。『何か参考になれば』と、人脈が広い蓬さんに来て頂いた次第です。」
編集者が説明する。
なるほど。
父親の経験から、何か良いネタが出て来るかも知れない。
しかし漫画家は、姫のビジュアルが気に入ったみたいで。
『済みません、ちょっとの間で良いんで』と、姫のラフ画を描き始める。
「こんな子を、漫画の中で出したかったんですよねー。」
漫画家は喜んでいるが、姫は迷惑そう。
あちこち2次元を巡って来たので、今更自分がモデルの登場人物なんて見たく無かった。
姫の気持ちを察して、シンが漫画家へ言う。
「申し訳無いのですが。彼女を漫画に登場させるのは、勘弁してくれませんか。こう言った事は苦手らしいのです。」
「それは気付きませんでした。でもせめて、参考資料としてだけでも……。」
漫画家は尚も食い下がるが。
姫のジトーッとした目線で、漸く諦めたらしい。
「これだけの容姿なのに、勿体無いなあ。」
とても残念そうな漫画家。
空気を変えようと、編集者が切り出す。
「それはそうと、打ち合わせに入りませんか?」
「では、あちらの部屋でしましょうか。アシスタントさん、休憩に入って下さい。」
漫画家はそう告げると。
応接間の様な別の部屋に、父親と編集者を案内する。
その直前、編集者が2人に尋ねる。
「あ、そうそう。お2人はどうします?」
「暫く、この部屋を見させて頂きたいのですが。」
シンが答える。
『結構ですよ』と、漫画家が答える。
そして、部屋の奥に消えて行った。
父親がシンに釘を刺す。
「変な事するんじゃないぞ?」
「分かってるよ。」
寧ろそれは、姫にを言えよ。
シンは心の中で、そう思うのだった。
漫画家・編集者・父親は応接間。
アシスタントは皆連れ立って、買い出しに出掛けている。
部屋には、シンと姫だけ。
これから起こる事は、シンには察しが付いた。
姫は、漫画家の机の上に在る紙を見て。
首をかしげる。
「これは何でしょう?かなり大雑把な絵しか、描かれていませんが……。」
「それは〔ネーム〕だよ。予め、コマ割りとか考える為に。大まかな展開を書いてるんだよ。」
「へえ。あらすじの様な物ですか?」
「そうとも言えるな。でも、キャラの動きは読めるだろう?」
「そうですね……。」
姫は、少し考えた後。
シンの予想通りな発言をする。
「入ってみませんか?どうなってるか気になります。」
「えー、またかよ。」
姫の〔気になる〕発言は、これまで何回聞いただろう。
まあ、自分も言っているのだが。
シンは辟易した感じで、姫に言う。
「しょうが無いなあ。少しだけだぞ?」
「はーい。」
右手を挙げて返事をする、姫の表情に。
悪びれた様子は、微塵も無かった。
中に入ってみると。
周りはぼんやりとして、はっきりしない。
その中に存在する人も物も、大雑把な輪郭が描かれているだけで。
強烈な違和感。
ネームの世界は、自分の手も指が無く。
丸っぽい感じだった。
「主人公が、何か言ってますね。」
姫は腕全体で、主人公らしき者を指す。
確かに何か言っているが、シンには分からない。
ネームの段階なので、明確な台詞が決まっていないのだろう。
「危ない!」
その時、変な様子に気付いたシンが。
咄嗟の反応で、姫を抱えて飛ぶ。
すると、何か大きな物が。
上から落ちて来た。
効果音が何も無かったので、反応はギリギリ。
それでも間に合ったのは、シンの勘の良さか。
どうやら主人公は。
『避けろ!』と言ったニュアンスの事を、こちらへ向かって叫んでいた様だ。
ここでシンは、考える。
これは、ネームの段階だ。
台詞も無ければ効果音も無い。
ここでは、何が起こるか予想が付かない。
白紙の状態に近いから、力を行使しても無駄だろう。
この世界がどんな様子か、粗方分かった。
もう、長居は無用だ。
姫を抱えながら、『元の世界に戻るぞ!』とシンは叫ぶ。
そして。
ネームの世界から『シュンッ!』と、2人が消える。
それを見た主人公の頭の上には、《?》の字が浮き出ていた。
「ふう、危なかった。」
シンは、おでこの汗を拭う様な真似をする。
姫もゾッとしたらしい、つくづくと言った感じでこう漏らす。
「中途半端な世界は、入らない方が良いのかも知れませんね。」
「擬音語や効果演出が無いからな。何が起こってるか、俺にも把握出来無いよ。」
そう答えるシンの顔は、真剣だった。
それだけに、姫には受けた様だ。
「何ですか、それ。」
姫はシンの頭を指差して、『ププッ』と笑う。
シンの頭の天辺には。
顔を半分覆う位の、大きな三角形のスクリーントーンが張り付いていた。
どうやら、ネームの上にふわっと乗っかっていた物を。
2次元世界から抜け出る時に、くっ付けて来てしまったらしい。
いつまでもゲラゲラ笑っている姫と、それを窘めるシン。
2人の余りの大声に。
隣の部屋から、扉を少しだけ開けて。
その様子をうかがう影が有った。
「あ!このシーン、使えませんか?」
漫画家が何かを閃いた様だ。
「確かに。これを、主人公とヒロインとのやり取りにすれば……。」
編集者も乗り気らしい。
グッジョブ!
父親は心の中で、そう叫んでいた。
かくして、姿形が違うとは言え。
シンと姫は、めでたく。
その漫画へ出演する事になった。
それも、主演で。
本人達は、気付いていないが。
因みに、この打ち合わせは。
漫画家が今度描く〔特別読切〕の、大まかな登場キャラ作りの為の物で。
検討した結果、内容は異世界ファンタジーに決定。
姫が、その世界観にぴったりのヒロインキャラだったからだが。
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