17 / 17
2章 スミレの花は咲いて
16
しおりを挟む
あれは、15歳になって間もない頃だった。
クリフが私のために、数週間遅れの誕生日祝いをしてくれる。私はそのことに心躍らせていた。
その約束を、誰にも邪魔されたくなかった。だから、私は奮闘した。「思い出に残る素敵な一日」にするために。お祝いの日にシンシアが私達のもとに来ないようにと試みたのだ。
クリフと約束をしたその日のうちに、私はシンシアにおつかいを頼んだ。
「来週末に、隣町で本を買ってきて欲しいの。アンダーソンの短編集で、海老茶色の表紙のものなのだけれど……」
本のタイトルを伝えると、シンシアは怪訝そうに首を傾げた。
「来週末、ですか」
「そうよ。何か予定があった?」
「いいえ。でも、どうしてその日なのでしょう? 明日にでも買いに行けますよ」
彼女は善意で言っただけだった。けれど、あの時の私は、それを疎ましいと感じた。
私は薄暗い気持ちを隠すために、笑顔を作った。
「明日はお友達の家に遊びに行くのでしょう?」
そう言って、優しい姉を演じたのだ。
シンシアは、笑顔の下に隠れた悪意に気がつかなかったらしい。今度は不審がることはなく、穏やかな調子で返事をした。
「ええ。でも、遅くても夕方には解散になるので、その後に行けばいいと思うのです」
「ダメよ。若い女の子が、日が落ちてからも一人歩きするのは危険だわ」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「急ぎで必要なものでもないし、来週末でいいから。ね?」
そう言うと、シンシアは少し不服そうにしながらも頷いた。
上手くいった。そう思ってほっと息を吐いたのも束の間、シンシアは言った。
「そういえば、今度、クリフとお誕生日会をするのですよね」
ドクンと鼓動が耳に響いた。
クリフとの約束を、私は誰にも話すつもりがなかった。彼との約束は、舞い上がる程の喜びを与えた一方で、大切に胸に抱えておきたいと思ったから。
けれど、彼はあっさりとシンシアに話した。彼にとっては、大したことではなかったのだ。
「お姉様?」
気が付けば、シンシアは不思議そうな顔で私を見ていた。
「ああ……。ごめんね。ちょっと頭痛がしたの……」
笑って誤魔化せば、善良な彼女は薬を取ってこようと立ち上がった。
「大丈夫よ。後で少し横になるわ」
「そうですか」
彼女は眉を下げながら、座り直した。そして、ちらちらと私の様子を見たかと思うと、言った。
「あのね、お姉様」
彼女の猫なで声は、あからさまなまでに媚びていた。
「私もクリフと一緒に、お姉様のお誕生日を祝いたいなって思ってまして……」
上目遣いで、どこか甘えるような表情。
胸の内側から湧き出たもやもやは、あっという間に喉元にまで到達し、反吐が出そうになった。
━━クリフもシンシアも、三人で一緒にいることを望んでいる。おかしいのは、きっと私なんだ。
そう頭では、分かっていた。けれど、あの時の私は、目の前にいるシンシアが憎らしくて堪らなかった。
「お祝いなら、もうしてくれたじゃない?」
シンシアは既に私を祝ってくれていた。
誕生日の夜、家族だけのささやかなホームパーティーで、彼女は毛糸で作った手編みのクマのぬいぐるみを私にプレゼントしてくれたのだ。それを私はデスクの上に飾っているというのに、まだ満足できないのかしら?
私はいつの間にか、怖い顔をしていたらしい。シンシアが顔を引き攣らせて俯いたことで、私はそのことにようやく気が付いた。
「ごめんなさい……。そうですよね」
悲しげに言った彼女に、私は何も声をかけなかった。
無言の時が、ただただ流れた。
そうして、しばらくしてからシンシアは立ち上がったかと思うと、笑顔を作った。その場にそぐわない程の明るい表情。きっと、あれは、彼女なりの誤魔化しだったのだと思う。
「庭の花にお水をあげてきます」
彼女はそう言うと、静かに私に背を向けた。
そんなシンシアを見て、私はなおも彼女を憎んだ。西日に照らされた彼女の背が、彼女の気持ちを代弁しているかのように思えて、堪らなく腹立たしかったのをよく覚えている。
ぶりっ子。大嫌い。
彼女が部屋から出る間際、私がそう心の中で罵っていたことを彼女は知らない。そして、私がクリフと二人で一緒にいたいと切実に願っていたことも。
そうして、迎えた約束の日。家にやって来たクリフは酷く不機嫌だった。
庭に用意していた席に案内すると、彼はティーポットからお茶が注がれる前に、紙袋をテーブルの上に置いた。
「誕生日おめでとう」
ふてぶてしく棘のある口調で言われて、私は身が竦んだ。
「ありがとう」
彼が不機嫌な理由は分からなかったけれど、一先ずお礼を言った。
それから、用意したお茶を淹れるべく、ティーポットを手にした。彼のカップに注ごうとポットを近づけると、彼はテーブルの上の紙袋を、わざとらしいくらい、私の前に押し付けた。
プレゼントであるはずのものが、ぞんざいに扱われている。それは、私を祝う気がないと言われているようなものだった。
私は震える手で、ティーポットをテーブルの上に戻すと、紙袋を手に取った。
寂しい気持ちを飲み込んで、笑顔を作った。
これから明るい雰囲気になるようにと願っていたから。そして、「あなたからのプレゼントは特別なのよ」と彼に伝えるために、私は微笑みを向けたのだ。
けれど、そんな行動は無駄だった。
「……開けさせてもらうね」
中身を見て改めてお礼を言おう。そう思いながら袋を開けた。そして、中身を取り出して、私は固まってしまった。
海老茶の表紙の本。そのタイトルには見覚えがあって……。私は静かに本をテーブルに置き、顔を上げた。
私を見るクリフの視線は、ナイフのように鋭く、冷たかった。
その目を見て、私は確信をした。クリフはわざとこれを贈ったのだ。
その本は、私が、シンシアに買ってくるようにと頼んだものだった。彼女をこの場に呼ばないための言い訳に使ったもの。
クリフはシンシアからおつかいの話を聞いたのだろう。そして、彼は小賢しい私のやり口を察し、醜い気持ちに気がついたのだ。
彼は、私をじっと睨みつけながら言った。
「シンシアをわざと除け者にするだなんて、間違ってる!」
彼はそう言うと、立ち上がった。そして、私の制止を振り払って帰っていった。
その日を境に、私とクリフの関係は変わってしまった。
彼とは何とか、友達のままでいられた。あの日のことについて触れることはなく、それ以上、私を非難することもなかった。
けれど、彼はどこかよそよそしく、家に来る機会も目に見えて減っていったのだ。
“クリフが私を嫌っている”
その事実に耐え難くて、私はしつこいくらいに彼を遊びに誘った。勿論、彼は嫌な顔をして、断り続けていたのだけれど。それが逆効果になると分かっていても、やめられなかった━━
クリフが私のために、数週間遅れの誕生日祝いをしてくれる。私はそのことに心躍らせていた。
その約束を、誰にも邪魔されたくなかった。だから、私は奮闘した。「思い出に残る素敵な一日」にするために。お祝いの日にシンシアが私達のもとに来ないようにと試みたのだ。
クリフと約束をしたその日のうちに、私はシンシアにおつかいを頼んだ。
「来週末に、隣町で本を買ってきて欲しいの。アンダーソンの短編集で、海老茶色の表紙のものなのだけれど……」
本のタイトルを伝えると、シンシアは怪訝そうに首を傾げた。
「来週末、ですか」
「そうよ。何か予定があった?」
「いいえ。でも、どうしてその日なのでしょう? 明日にでも買いに行けますよ」
彼女は善意で言っただけだった。けれど、あの時の私は、それを疎ましいと感じた。
私は薄暗い気持ちを隠すために、笑顔を作った。
「明日はお友達の家に遊びに行くのでしょう?」
そう言って、優しい姉を演じたのだ。
シンシアは、笑顔の下に隠れた悪意に気がつかなかったらしい。今度は不審がることはなく、穏やかな調子で返事をした。
「ええ。でも、遅くても夕方には解散になるので、その後に行けばいいと思うのです」
「ダメよ。若い女の子が、日が落ちてからも一人歩きするのは危険だわ」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「急ぎで必要なものでもないし、来週末でいいから。ね?」
そう言うと、シンシアは少し不服そうにしながらも頷いた。
上手くいった。そう思ってほっと息を吐いたのも束の間、シンシアは言った。
「そういえば、今度、クリフとお誕生日会をするのですよね」
ドクンと鼓動が耳に響いた。
クリフとの約束を、私は誰にも話すつもりがなかった。彼との約束は、舞い上がる程の喜びを与えた一方で、大切に胸に抱えておきたいと思ったから。
けれど、彼はあっさりとシンシアに話した。彼にとっては、大したことではなかったのだ。
「お姉様?」
気が付けば、シンシアは不思議そうな顔で私を見ていた。
「ああ……。ごめんね。ちょっと頭痛がしたの……」
笑って誤魔化せば、善良な彼女は薬を取ってこようと立ち上がった。
「大丈夫よ。後で少し横になるわ」
「そうですか」
彼女は眉を下げながら、座り直した。そして、ちらちらと私の様子を見たかと思うと、言った。
「あのね、お姉様」
彼女の猫なで声は、あからさまなまでに媚びていた。
「私もクリフと一緒に、お姉様のお誕生日を祝いたいなって思ってまして……」
上目遣いで、どこか甘えるような表情。
胸の内側から湧き出たもやもやは、あっという間に喉元にまで到達し、反吐が出そうになった。
━━クリフもシンシアも、三人で一緒にいることを望んでいる。おかしいのは、きっと私なんだ。
そう頭では、分かっていた。けれど、あの時の私は、目の前にいるシンシアが憎らしくて堪らなかった。
「お祝いなら、もうしてくれたじゃない?」
シンシアは既に私を祝ってくれていた。
誕生日の夜、家族だけのささやかなホームパーティーで、彼女は毛糸で作った手編みのクマのぬいぐるみを私にプレゼントしてくれたのだ。それを私はデスクの上に飾っているというのに、まだ満足できないのかしら?
私はいつの間にか、怖い顔をしていたらしい。シンシアが顔を引き攣らせて俯いたことで、私はそのことにようやく気が付いた。
「ごめんなさい……。そうですよね」
悲しげに言った彼女に、私は何も声をかけなかった。
無言の時が、ただただ流れた。
そうして、しばらくしてからシンシアは立ち上がったかと思うと、笑顔を作った。その場にそぐわない程の明るい表情。きっと、あれは、彼女なりの誤魔化しだったのだと思う。
「庭の花にお水をあげてきます」
彼女はそう言うと、静かに私に背を向けた。
そんなシンシアを見て、私はなおも彼女を憎んだ。西日に照らされた彼女の背が、彼女の気持ちを代弁しているかのように思えて、堪らなく腹立たしかったのをよく覚えている。
ぶりっ子。大嫌い。
彼女が部屋から出る間際、私がそう心の中で罵っていたことを彼女は知らない。そして、私がクリフと二人で一緒にいたいと切実に願っていたことも。
そうして、迎えた約束の日。家にやって来たクリフは酷く不機嫌だった。
庭に用意していた席に案内すると、彼はティーポットからお茶が注がれる前に、紙袋をテーブルの上に置いた。
「誕生日おめでとう」
ふてぶてしく棘のある口調で言われて、私は身が竦んだ。
「ありがとう」
彼が不機嫌な理由は分からなかったけれど、一先ずお礼を言った。
それから、用意したお茶を淹れるべく、ティーポットを手にした。彼のカップに注ごうとポットを近づけると、彼はテーブルの上の紙袋を、わざとらしいくらい、私の前に押し付けた。
プレゼントであるはずのものが、ぞんざいに扱われている。それは、私を祝う気がないと言われているようなものだった。
私は震える手で、ティーポットをテーブルの上に戻すと、紙袋を手に取った。
寂しい気持ちを飲み込んで、笑顔を作った。
これから明るい雰囲気になるようにと願っていたから。そして、「あなたからのプレゼントは特別なのよ」と彼に伝えるために、私は微笑みを向けたのだ。
けれど、そんな行動は無駄だった。
「……開けさせてもらうね」
中身を見て改めてお礼を言おう。そう思いながら袋を開けた。そして、中身を取り出して、私は固まってしまった。
海老茶の表紙の本。そのタイトルには見覚えがあって……。私は静かに本をテーブルに置き、顔を上げた。
私を見るクリフの視線は、ナイフのように鋭く、冷たかった。
その目を見て、私は確信をした。クリフはわざとこれを贈ったのだ。
その本は、私が、シンシアに買ってくるようにと頼んだものだった。彼女をこの場に呼ばないための言い訳に使ったもの。
クリフはシンシアからおつかいの話を聞いたのだろう。そして、彼は小賢しい私のやり口を察し、醜い気持ちに気がついたのだ。
彼は、私をじっと睨みつけながら言った。
「シンシアをわざと除け者にするだなんて、間違ってる!」
彼はそう言うと、立ち上がった。そして、私の制止を振り払って帰っていった。
その日を境に、私とクリフの関係は変わってしまった。
彼とは何とか、友達のままでいられた。あの日のことについて触れることはなく、それ以上、私を非難することもなかった。
けれど、彼はどこかよそよそしく、家に来る機会も目に見えて減っていったのだ。
“クリフが私を嫌っている”
その事実に耐え難くて、私はしつこいくらいに彼を遊びに誘った。勿論、彼は嫌な顔をして、断り続けていたのだけれど。それが逆効果になると分かっていても、やめられなかった━━
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
お望み通り、消えてさしあげますわ
梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。
王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。
国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの“役立たずの聖女”だと噂されるほどだったから。
彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。
この国はより豊かになる、皆はそう確信した。
だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?
四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!
政略結婚した夫に殺される夢を見た翌日、裏庭に深い穴が掘られていました
伊織
恋愛
夫に殺される夢を見た。
冷え切った青い瞳で見下ろされ、血に染まった寝室で命を奪われる――あまりにも生々しい悪夢。
夢から覚めたセレナは、政略結婚した騎士団長の夫・ルシアンとの冷えた関係を改めて実感する。
彼は宝石ばかり買う妻を快く思っておらず、セレナもまた、愛のない結婚に期待などしていなかった。
だがその日、夢の中で自分が埋められていたはずの屋敷の裏庭で、
「深い穴を掘るために用意されたようなスコップ」を目にしてしまう。
これは、ただの悪夢なのか。
それとも――現実に起こる未来の予兆なのか。
闇魔法を受け継ぐ公爵令嬢と、彼女を疎む騎士団長。
不穏な夢から始まる、夫婦の物語。
男女の恋愛小説に挑戦しています。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる