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本編1
5 小さな尋ね人
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重い空気の中、私達は馬車に揺られていた。
日が暮れ始めると、馬車は森の中で止まった。どうやら、今夜は森の中で野営をするようだ。
アンドリュー卿は馬車を降りると、部下の人達と共に野営の準備を始めた。私も手伝おうとしたけれど、「お姫様にやれることなんてないぞ」とからかわれ、馬車に戻るように促された。
それから、1時間も経たないうちに、アンドリュー卿は、スープを持って来てくれた。部下の人が作ってくれたものらしい。
城で出されるものに比べたら、見た目は良くないけれど、それでも味は良かった。
「まだあるが、どうだ?」
アンドリュー卿は空になった私の器を見て言った。
「いえ。もうお腹がいっぱいです」
「そうか」
彼は器を回収すると、片付けに行った。
そして、彼はすぐに戻って来たのかと思うと、毛布を渡してきた。
「馬車で寝ればいいのですか」
私の問いに彼は面倒くさそうに「そうだ」と答えた。
「お姫様には不満かもしれないが我慢してくれ。雨風をしっかりと凌げる馬車で寝られるんだからな」
窓の外を見れば、アンドリュー卿の部下達は簡易的なテントを張っている。
馬に乗って移動していた彼らが外で寝るというのに、私が文句を言えるはずがないのに━━
アンドリュー卿はそれだけ言うと馬車を出て、部下の人達のいるテントへと向かった。私と同じ空間で眠りたくないらしい。露骨な拒絶反応に、苛立ちを覚えながら、私は毛布を被った。
まだ眠くはないけれど寝るしかない。外は暗く焚き火以外の明かりはない上、馬車に積んであるランタンも燃料の関係で無闇に使うなと言われている。
馬車の外から漏れる部下達のくぐもった声に耳を傾けているうちに、私はいつの間にか眠っていた。
※
━━寒い。
足先の冷える感覚で目が覚めた。
身体を起こして足を擦る。指先からくるぶしにかけて冷たくなっていた。温かいお湯に足を浸けたい。
でも、水が貴重な今、それができないことは私にも分かる。
せめてもう一枚毛布をもらえれば少しはマシになるのだろう。けれど、お願いをしに行ったらアンドリュー卿が面倒くさそうにする様が見て取れる。
━━我慢して寝よう。
そう思って寝転がり、再び目を閉じても、足の冷たさが気になってなかなか眠れない。私は寝転がったまま、足を再び擦った。
そうこうしていると、コンコンと窓ガラスを叩く音がした。目でそちらを見ても誰もいない。風が当たったのだろう。そう思って私が目を離すと再びコンコンと音が鳴った。
私は身体を起こして窓を見た。じっと目を凝らして外を見ても誰もいない。首を傾げたら、窓枠の下から直径3センチにも満たない小さな顔が出てきた。
「きゃっ!」
私は声を挙げて後ずさった。その拍子に馬車の扉に身体をぶつけてしまい、扉が開いた。幸いそのまま転げ落ちるなんてことはなかったけれど、20センチほどの羽の生えた人型の生き物が入ってきた。
彼女が入り込むとドアはパタリと閉じた。
「こんばんは。かわいい人」
小さな彼女は可愛らしい声で私に挨拶をしてくる。得体の知れないそれは、とても美しかった。真っ白な肌にやや緑がかった金色の長い髪、アメジストのようにきらきらと輝く紫の瞳、青い蝶の羽。着ているドレスは光沢があり、彼女の美しさに見合う優美なデザインだ。
━━まるで物語に出てくる妖精のようだわ。
小さな彼女に見惚れていたら、彼女は困ったように首を傾げた。
「どうしてお話をしてくれないの? あなたには私が見えているでしょうに」
彼女は私が黙っていることが不満らしい。私は「ごめんなさい」と言って彼女の問いかけに答えたくなるのを我慢した。
━━とても美しい生き物だけれど、油断はできないわ。
昔、本で読んだことがあった。モンスターの中には一見、小さくて可愛らしい外見をしているものがいると。彼らは無害に見せかけて人を油断させる。そして、人を食べてしまうのだそうだ。
「分かったわ! 妖精のことを忘れてしまったのね。それで警戒してるんだわ」
彼女はそう言うと羽をはばたかせてくるくると回った。すると、彼女の羽からきらきらと輝く鱗粉が舞い散った。
「私の名前はフェイ。あなたの素敵な煌めきに引き寄せられてやって来たのよ」
「素敵な煌めきを放っているのはあなたの方よ」
そう言って私は自分の口を押さえた。フェイの舞い踊る姿があまりにも美しかったからつい思っていることを口にしてしまったのだ。
「まあ! お褒めの言葉をありがとう」
フェイは慌てた様子の私を気にすることなくにこりと笑った。そして、彼女は私の頬に抱きつくと「大好きよ、シア」と囁いた。
「私のことを知っているの?」
「勿論よ。あなたが忘れても私は大切な友達のことを忘れたりしないわ」
こんな可愛らしい妖精に出会ったことがあるのなら、忘れることなんてできそうもないのに。彼女を改めてまじまじと見つめても、やはり何も思い出せなかった。
「本当に、会ったことがあるの?」
「ええ。そうよ」
「いつ、どこで?」
フェイはくすくすと笑った。
「私もあなたとたくさんお話をしたいのだけれど、眠らないといけないんじゃない?」
フェイの言う通りだ。昼間にうとうとしていたら、アンドリュー卿に嫌な顔をされそうだ。自分達よりもいい環境を与えたのに眠れなかったのかと嫌味を言われるかもしれない。
「眠れないのなら私が魔法で眠らせてあげる」
フェイはにこりと笑うと私の返事も待たずに呪文を唱え始めた。そして、腕を挙げて人差し指を立てると宙でくるくると回してから、私を指差した。
フェイの指先から温かな光が溢れてくるのを感じる。それが私の下に集まってきて、私はいつの間にか眠っていた。
日が暮れ始めると、馬車は森の中で止まった。どうやら、今夜は森の中で野営をするようだ。
アンドリュー卿は馬車を降りると、部下の人達と共に野営の準備を始めた。私も手伝おうとしたけれど、「お姫様にやれることなんてないぞ」とからかわれ、馬車に戻るように促された。
それから、1時間も経たないうちに、アンドリュー卿は、スープを持って来てくれた。部下の人が作ってくれたものらしい。
城で出されるものに比べたら、見た目は良くないけれど、それでも味は良かった。
「まだあるが、どうだ?」
アンドリュー卿は空になった私の器を見て言った。
「いえ。もうお腹がいっぱいです」
「そうか」
彼は器を回収すると、片付けに行った。
そして、彼はすぐに戻って来たのかと思うと、毛布を渡してきた。
「馬車で寝ればいいのですか」
私の問いに彼は面倒くさそうに「そうだ」と答えた。
「お姫様には不満かもしれないが我慢してくれ。雨風をしっかりと凌げる馬車で寝られるんだからな」
窓の外を見れば、アンドリュー卿の部下達は簡易的なテントを張っている。
馬に乗って移動していた彼らが外で寝るというのに、私が文句を言えるはずがないのに━━
アンドリュー卿はそれだけ言うと馬車を出て、部下の人達のいるテントへと向かった。私と同じ空間で眠りたくないらしい。露骨な拒絶反応に、苛立ちを覚えながら、私は毛布を被った。
まだ眠くはないけれど寝るしかない。外は暗く焚き火以外の明かりはない上、馬車に積んであるランタンも燃料の関係で無闇に使うなと言われている。
馬車の外から漏れる部下達のくぐもった声に耳を傾けているうちに、私はいつの間にか眠っていた。
※
━━寒い。
足先の冷える感覚で目が覚めた。
身体を起こして足を擦る。指先からくるぶしにかけて冷たくなっていた。温かいお湯に足を浸けたい。
でも、水が貴重な今、それができないことは私にも分かる。
せめてもう一枚毛布をもらえれば少しはマシになるのだろう。けれど、お願いをしに行ったらアンドリュー卿が面倒くさそうにする様が見て取れる。
━━我慢して寝よう。
そう思って寝転がり、再び目を閉じても、足の冷たさが気になってなかなか眠れない。私は寝転がったまま、足を再び擦った。
そうこうしていると、コンコンと窓ガラスを叩く音がした。目でそちらを見ても誰もいない。風が当たったのだろう。そう思って私が目を離すと再びコンコンと音が鳴った。
私は身体を起こして窓を見た。じっと目を凝らして外を見ても誰もいない。首を傾げたら、窓枠の下から直径3センチにも満たない小さな顔が出てきた。
「きゃっ!」
私は声を挙げて後ずさった。その拍子に馬車の扉に身体をぶつけてしまい、扉が開いた。幸いそのまま転げ落ちるなんてことはなかったけれど、20センチほどの羽の生えた人型の生き物が入ってきた。
彼女が入り込むとドアはパタリと閉じた。
「こんばんは。かわいい人」
小さな彼女は可愛らしい声で私に挨拶をしてくる。得体の知れないそれは、とても美しかった。真っ白な肌にやや緑がかった金色の長い髪、アメジストのようにきらきらと輝く紫の瞳、青い蝶の羽。着ているドレスは光沢があり、彼女の美しさに見合う優美なデザインだ。
━━まるで物語に出てくる妖精のようだわ。
小さな彼女に見惚れていたら、彼女は困ったように首を傾げた。
「どうしてお話をしてくれないの? あなたには私が見えているでしょうに」
彼女は私が黙っていることが不満らしい。私は「ごめんなさい」と言って彼女の問いかけに答えたくなるのを我慢した。
━━とても美しい生き物だけれど、油断はできないわ。
昔、本で読んだことがあった。モンスターの中には一見、小さくて可愛らしい外見をしているものがいると。彼らは無害に見せかけて人を油断させる。そして、人を食べてしまうのだそうだ。
「分かったわ! 妖精のことを忘れてしまったのね。それで警戒してるんだわ」
彼女はそう言うと羽をはばたかせてくるくると回った。すると、彼女の羽からきらきらと輝く鱗粉が舞い散った。
「私の名前はフェイ。あなたの素敵な煌めきに引き寄せられてやって来たのよ」
「素敵な煌めきを放っているのはあなたの方よ」
そう言って私は自分の口を押さえた。フェイの舞い踊る姿があまりにも美しかったからつい思っていることを口にしてしまったのだ。
「まあ! お褒めの言葉をありがとう」
フェイは慌てた様子の私を気にすることなくにこりと笑った。そして、彼女は私の頬に抱きつくと「大好きよ、シア」と囁いた。
「私のことを知っているの?」
「勿論よ。あなたが忘れても私は大切な友達のことを忘れたりしないわ」
こんな可愛らしい妖精に出会ったことがあるのなら、忘れることなんてできそうもないのに。彼女を改めてまじまじと見つめても、やはり何も思い出せなかった。
「本当に、会ったことがあるの?」
「ええ。そうよ」
「いつ、どこで?」
フェイはくすくすと笑った。
「私もあなたとたくさんお話をしたいのだけれど、眠らないといけないんじゃない?」
フェイの言う通りだ。昼間にうとうとしていたら、アンドリュー卿に嫌な顔をされそうだ。自分達よりもいい環境を与えたのに眠れなかったのかと嫌味を言われるかもしれない。
「眠れないのなら私が魔法で眠らせてあげる」
フェイはにこりと笑うと私の返事も待たずに呪文を唱え始めた。そして、腕を挙げて人差し指を立てると宙でくるくると回してから、私を指差した。
フェイの指先から温かな光が溢れてくるのを感じる。それが私の下に集まってきて、私はいつの間にか眠っていた。
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