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本編1
9-2 夫婦の義務
アンドリュー卿は軽く息を整えると早々に服を着て部屋から出て行った。
━━用が済んだから別の部屋で眠るのね。
初めてを経験した身体は熱っぽいのに、心はどんどん冷えていく。
私は重い身体を起こしてベッドの脇に脱ぎ捨てられた服を回収した。
下着を履こうと足首にパンツを通していると、扉がノックもなしに開いた。
「やっ!」
私は叫び声を上げて背を向ける。
「おい、さっきまでしてたのにその態度はないだろう」
アンドリュー卿は不機嫌に言いながら部屋に入ってきた。
「別の部屋で寝るんじゃないの?」
「馬鹿を言うな」
彼はベッドまで水の入った器を持って来た。
それをベッドの脇に置くと水にタオルを浸けて絞る。
「ほら、こっち向いて」
彼は私を引き寄せるとあろうことか太ももを開かせた。
「いやっ!」
「拭くだけだ。まさかそのまま寝るつもりなのか?」
確かに私の股や太ももはどちらのものとも分からない体液に塗れている。べちゃべちゃして気持ち悪いから拭いた方がいいのは間違いない。
「自分で、できるから」
私はアンドリュー卿の手からタオルをひったくると彼に背を向ける。そして、汚れた部分を丁寧に拭いた。
なるべく素早く服を着て振り返ると、彼はいつの間にか着替えを終えていた。
タオルと水を片付けに行こうとすると、「もう夜も遅いから明日でいい」と言われた。
私は、アンドリュー卿に言われるがまま、ベッドに入った。そして、彼も、当然のように私の隣りに寝転んだ。
※
目が覚めて、まず視界に入ったのはアンドリュー卿の顔だった。ぎょっとして咄嗟に離れようとした時になって、彼の腕の中にいることに気が付いた。
━━そうだ。昨日の夜、私達……。
昨夜のことを思い出して思わず顔が熱くなる。はしたない声を沢山あげてしまった。「初めての行為は痛くて辛いものだから我慢が必要だ」と聞いていたのに、全然そんなことはなかった。むしろとても気持ちが良くて━━
思い返すうちに、恥ずかしさで消えたくなった。
━━これからアンドリュー卿とどんな風に接すればいいのかしら。
私が羞恥と不安に苛まれている中、アンドリュー卿は穏やかに眠っていた。彼に抱きしめられて身動が取れないから、私は必然的に彼の顔を見つめることになる。
それで、彼のまつ毛が長いことを今更ながら知った。
私はアンドリュー卿のことを何も知らない。知る努力すらしていなかった。彼の顔をまともに見たのだって、こうして本当の夫婦になってからだ。
━━私、酷い女なのかも。アンドリュー卿を騙して結婚して、役立たずで、夫のことを何も知らないし知ろうともしないなんて……。
私が罪悪感に苛まれる中、彼の眉間に皺が寄った。そして、アンドリュー卿のまぶたがゆっくりと開いて私を見た。私は気まずくて彼から目を逸らす。
「もう起きたのか」
「は、はい」
アンドリュー卿は私を強く抱きしめてきた。
━━苦しい。
私は胸を押して彼の腕から逃れた。そして、上体を起こした。
「もう朝だから。そろそろ起きないと」
「もう少しくらい、ゆっくり寝てもいいだろう」
彼は不満気な声をあげながら、それでも起き上がった。そのまま支度を始めるかと思ったら、彼は私を背後から抱きしめてきた。
「アンドリュー卿?」
彼の手が胸に触れる。
「ちょっと!」
私は慌ててそれを払い除けた。
「……させてくれ」
アンドリュー卿は耳元で囁いた。
「だめ!」
私は身を捩って彼から離れようとしたけれどびくともしない。
「なぜそんなに嫌がる? あんなに気持ちよさそうにしていたのに」
アンドリュー卿には昨夜の私はどんな風に見えていたんだろう。恥ずかしくて顔から火が出そうになった。
「朝からあんなはしたない真似をしたくないの」
もう日が昇っていて部屋の中は明るい。今、服を脱いだら裸を見られてしまう。それに、ことの最中に顔を見られるのだって、嫌だ。
「はしたないって……。あれは夫婦の義務みたいなものだから、そんな風に言わないでくれ」
“夫婦の義務”
そう言われた瞬間、気持ちがスーッと冷めていった。
━━ああ、そうだった。
私はどうして思い違いをしていたのだろう。
あの行為は私にとって必要不可欠なものだった。そして、幸いなことに、アンドリュー卿も“義務”と感じて私を相手にしてくれたのだ。あれは私達が夫婦として必要な行為に過ぎない。
私は服に手をかけた。恥ずかしさを押し殺して勢いに任せて脱いでいく。
「シア? どうしたんだ、急に」
したいと言った当の本人は、戸惑いを見せた。
「“夫婦の義務”というのなら、仕方ないことだから……。早く済ませましょう」
そう言った途端、アンドリュー卿は顔を強張らせた。
「……いい」
彼は脱ぎ捨てた服を拾い上げると、私に押し付けた。
「アンドリュー卿?」
「もういい! さっさと支度をしてくれ」
彼は怒鳴ると、拳を震わせた。殴られるかと思って身構えたけれど、彼は私に背を向けて着替え始めた。
━━また怒らせた。
「ごめんなさい」
何に気が障ったのかも分からないけれど、謝罪した。けれど、彼は返事をすることなく、黙々と着替えていった。
━━用が済んだから別の部屋で眠るのね。
初めてを経験した身体は熱っぽいのに、心はどんどん冷えていく。
私は重い身体を起こしてベッドの脇に脱ぎ捨てられた服を回収した。
下着を履こうと足首にパンツを通していると、扉がノックもなしに開いた。
「やっ!」
私は叫び声を上げて背を向ける。
「おい、さっきまでしてたのにその態度はないだろう」
アンドリュー卿は不機嫌に言いながら部屋に入ってきた。
「別の部屋で寝るんじゃないの?」
「馬鹿を言うな」
彼はベッドまで水の入った器を持って来た。
それをベッドの脇に置くと水にタオルを浸けて絞る。
「ほら、こっち向いて」
彼は私を引き寄せるとあろうことか太ももを開かせた。
「いやっ!」
「拭くだけだ。まさかそのまま寝るつもりなのか?」
確かに私の股や太ももはどちらのものとも分からない体液に塗れている。べちゃべちゃして気持ち悪いから拭いた方がいいのは間違いない。
「自分で、できるから」
私はアンドリュー卿の手からタオルをひったくると彼に背を向ける。そして、汚れた部分を丁寧に拭いた。
なるべく素早く服を着て振り返ると、彼はいつの間にか着替えを終えていた。
タオルと水を片付けに行こうとすると、「もう夜も遅いから明日でいい」と言われた。
私は、アンドリュー卿に言われるがまま、ベッドに入った。そして、彼も、当然のように私の隣りに寝転んだ。
※
目が覚めて、まず視界に入ったのはアンドリュー卿の顔だった。ぎょっとして咄嗟に離れようとした時になって、彼の腕の中にいることに気が付いた。
━━そうだ。昨日の夜、私達……。
昨夜のことを思い出して思わず顔が熱くなる。はしたない声を沢山あげてしまった。「初めての行為は痛くて辛いものだから我慢が必要だ」と聞いていたのに、全然そんなことはなかった。むしろとても気持ちが良くて━━
思い返すうちに、恥ずかしさで消えたくなった。
━━これからアンドリュー卿とどんな風に接すればいいのかしら。
私が羞恥と不安に苛まれている中、アンドリュー卿は穏やかに眠っていた。彼に抱きしめられて身動が取れないから、私は必然的に彼の顔を見つめることになる。
それで、彼のまつ毛が長いことを今更ながら知った。
私はアンドリュー卿のことを何も知らない。知る努力すらしていなかった。彼の顔をまともに見たのだって、こうして本当の夫婦になってからだ。
━━私、酷い女なのかも。アンドリュー卿を騙して結婚して、役立たずで、夫のことを何も知らないし知ろうともしないなんて……。
私が罪悪感に苛まれる中、彼の眉間に皺が寄った。そして、アンドリュー卿のまぶたがゆっくりと開いて私を見た。私は気まずくて彼から目を逸らす。
「もう起きたのか」
「は、はい」
アンドリュー卿は私を強く抱きしめてきた。
━━苦しい。
私は胸を押して彼の腕から逃れた。そして、上体を起こした。
「もう朝だから。そろそろ起きないと」
「もう少しくらい、ゆっくり寝てもいいだろう」
彼は不満気な声をあげながら、それでも起き上がった。そのまま支度を始めるかと思ったら、彼は私を背後から抱きしめてきた。
「アンドリュー卿?」
彼の手が胸に触れる。
「ちょっと!」
私は慌ててそれを払い除けた。
「……させてくれ」
アンドリュー卿は耳元で囁いた。
「だめ!」
私は身を捩って彼から離れようとしたけれどびくともしない。
「なぜそんなに嫌がる? あんなに気持ちよさそうにしていたのに」
アンドリュー卿には昨夜の私はどんな風に見えていたんだろう。恥ずかしくて顔から火が出そうになった。
「朝からあんなはしたない真似をしたくないの」
もう日が昇っていて部屋の中は明るい。今、服を脱いだら裸を見られてしまう。それに、ことの最中に顔を見られるのだって、嫌だ。
「はしたないって……。あれは夫婦の義務みたいなものだから、そんな風に言わないでくれ」
“夫婦の義務”
そう言われた瞬間、気持ちがスーッと冷めていった。
━━ああ、そうだった。
私はどうして思い違いをしていたのだろう。
あの行為は私にとって必要不可欠なものだった。そして、幸いなことに、アンドリュー卿も“義務”と感じて私を相手にしてくれたのだ。あれは私達が夫婦として必要な行為に過ぎない。
私は服に手をかけた。恥ずかしさを押し殺して勢いに任せて脱いでいく。
「シア? どうしたんだ、急に」
したいと言った当の本人は、戸惑いを見せた。
「“夫婦の義務”というのなら、仕方ないことだから……。早く済ませましょう」
そう言った途端、アンドリュー卿は顔を強張らせた。
「……いい」
彼は脱ぎ捨てた服を拾い上げると、私に押し付けた。
「アンドリュー卿?」
「もういい! さっさと支度をしてくれ」
彼は怒鳴ると、拳を震わせた。殴られるかと思って身構えたけれど、彼は私に背を向けて着替え始めた。
━━また怒らせた。
「ごめんなさい」
何に気が障ったのかも分からないけれど、謝罪した。けれど、彼は返事をすることなく、黙々と着替えていった。
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