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本編1
10 面倒な女
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※
それから3日間、私達はまともに口を利かなかった。
アンドリュー卿は私と一緒にいるのも不愉快に思っているらしく、あれ以降、一緒に寝ることはおろか馬車に乗ることさえしなかった。
そんな状態だから、私達が本当の夫婦になったことを教会へ報告に行かなかった。教会の前を通っても、アンドリュー卿は見向きもしない。
きっとアンドリュー卿は私と関係を持ったことを後悔しているのだろう。だから、報告をせずにいつでも離婚できるようにしているに違いない。
━━どうしたら許してくれるのかしら。
あれから何度か謝罪をしようとしたけれど、アンドリュー卿は話を聞いてくれない。話しかけても鬱陶しそうにして、適当なところで立ち去っていくのだ。そんな状態がずっと続いているから、もう離婚は避けられないのかもしれない。
はあと溜め息を吐いた時、馬車が止まった。馬から降りたアンドリュー卿は、馬車の扉を開けた。
「休憩だ」
「はい」
その一言で会話はおしまいだった。アンドリュー卿はそそくさと部下達の所に行ってしまう。
私は馬車から降りて軽く歩いた。本当は出歩きたい気分ではないけれど、ずっと座りっぱなしだとお尻が痛くなる。
人と関わり合うのが面倒だったから、隠れるように物陰に隠れていると、アンドリュー卿の部下達の声が聞こえた。
「アンドリューのやつ、ジョルネスの娘とずっと喧嘩してるぞ」
私のことを噂されている。息を殺して耳を傾けた。
「だな。もう何日も、まともに喋ってないだろ」
「……もう愛想が尽きたのかよ」
「あの調子だとすぐにでも離婚しそうだ」
呆れたと言わんばかりの口調だった。
━━やっぱり、他の人から見てもそう思うのよね。
落ち込んでいる私をよそに彼らの話は続いていく。
「勘弁して欲しいよな。わざわざ遠路はるばる迎えに来たっていうのにすぐに離婚だなんて。損した気分になるよ」
「損って……、お前なあ」
「でも、俺はこいつの気持ち分かるぜ? 2ヶ月の旅程を彼女に合わせて3ヶ月のもたもたしたペースで行ってるんだ。それなのに離婚なんかされちまったらさ」
━━私に合わせている?
一日の大半を移動で費やしているからそんなことを思ってもみなかった。
でも、よくよく考えたら彼らの言う通りなのかもしれない。馬に乗り慣れた彼らとアンドリュー卿だけならもっと速く移動できても不思議ではない。それに馬車を通るために道を迂回しているのだとしたら……。
アンドリュー卿が面倒くさそうに私の相手をしていた理由がようやく分かった。
私を連れての旅が思ったよりも面倒で苦痛に感じているのだろう。
これ以上、迷惑をかけたくない。出発時間に遅れないようにするために、私は馬車へと向かった。
俯きながら、半ば駆け足で戻っていると、「シア」と声をかけられた。立ち止まって顔をあげると、アンドリュー卿が花を片手にやって来た。
彼は、その花を私の前に差し出した。
「これは……?」
「すぐそこで、咲いていたんだ。アイネ山にも似たようなのがあったと思ってな」
私はその花を受け取ってまじまじと見た。ピンク色の愛らしい野花。それに親しみを覚えてしまうのは、どうしてだろう━━
「どうして、これを私に?」
「それは、……。お前が、喜ぶかと思って」
彼は照れているのか、言葉尻がすぼんでいた。
私は戸惑った。ずっと、怒っていたはずの彼が、私を思って花を摘んできたのだ。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、彼ははにかんだ。
彼の中でどういう心境の変化があったのかは分からないけれど、和解ができそうで、一先ず良かった。
私はもらった花をそっと指で撫でた。
「……休めたか」
「はい。おかげさまで」
「それじゃあ、そろそろ出発だな」
「あ、そのことなんだけど……」
「何だ?」
「私は休憩の時間をもっと減らしてもらっても大丈夫だから」
アンドリュー卿は怪訝そうな顔で私を見た。
「何でだ?」
「そうした方が領地に早く着くでしょう?」
「なぜそんなことを気にする?」
アンドリュー卿の声が低くなった。
「早く到着した方が皆さんに不便をかけずに済むから」
「……詳しくは、馬車の中で聞かせてくれ」
彼はそう言うと、歩き出した。私は慌てて彼の後を追った。
折角、仲直りできそうだったのに。私の提案がまた彼を不快にさせたのかと思うと、また気分が沈んだ。
それから3日間、私達はまともに口を利かなかった。
アンドリュー卿は私と一緒にいるのも不愉快に思っているらしく、あれ以降、一緒に寝ることはおろか馬車に乗ることさえしなかった。
そんな状態だから、私達が本当の夫婦になったことを教会へ報告に行かなかった。教会の前を通っても、アンドリュー卿は見向きもしない。
きっとアンドリュー卿は私と関係を持ったことを後悔しているのだろう。だから、報告をせずにいつでも離婚できるようにしているに違いない。
━━どうしたら許してくれるのかしら。
あれから何度か謝罪をしようとしたけれど、アンドリュー卿は話を聞いてくれない。話しかけても鬱陶しそうにして、適当なところで立ち去っていくのだ。そんな状態がずっと続いているから、もう離婚は避けられないのかもしれない。
はあと溜め息を吐いた時、馬車が止まった。馬から降りたアンドリュー卿は、馬車の扉を開けた。
「休憩だ」
「はい」
その一言で会話はおしまいだった。アンドリュー卿はそそくさと部下達の所に行ってしまう。
私は馬車から降りて軽く歩いた。本当は出歩きたい気分ではないけれど、ずっと座りっぱなしだとお尻が痛くなる。
人と関わり合うのが面倒だったから、隠れるように物陰に隠れていると、アンドリュー卿の部下達の声が聞こえた。
「アンドリューのやつ、ジョルネスの娘とずっと喧嘩してるぞ」
私のことを噂されている。息を殺して耳を傾けた。
「だな。もう何日も、まともに喋ってないだろ」
「……もう愛想が尽きたのかよ」
「あの調子だとすぐにでも離婚しそうだ」
呆れたと言わんばかりの口調だった。
━━やっぱり、他の人から見てもそう思うのよね。
落ち込んでいる私をよそに彼らの話は続いていく。
「勘弁して欲しいよな。わざわざ遠路はるばる迎えに来たっていうのにすぐに離婚だなんて。損した気分になるよ」
「損って……、お前なあ」
「でも、俺はこいつの気持ち分かるぜ? 2ヶ月の旅程を彼女に合わせて3ヶ月のもたもたしたペースで行ってるんだ。それなのに離婚なんかされちまったらさ」
━━私に合わせている?
一日の大半を移動で費やしているからそんなことを思ってもみなかった。
でも、よくよく考えたら彼らの言う通りなのかもしれない。馬に乗り慣れた彼らとアンドリュー卿だけならもっと速く移動できても不思議ではない。それに馬車を通るために道を迂回しているのだとしたら……。
アンドリュー卿が面倒くさそうに私の相手をしていた理由がようやく分かった。
私を連れての旅が思ったよりも面倒で苦痛に感じているのだろう。
これ以上、迷惑をかけたくない。出発時間に遅れないようにするために、私は馬車へと向かった。
俯きながら、半ば駆け足で戻っていると、「シア」と声をかけられた。立ち止まって顔をあげると、アンドリュー卿が花を片手にやって来た。
彼は、その花を私の前に差し出した。
「これは……?」
「すぐそこで、咲いていたんだ。アイネ山にも似たようなのがあったと思ってな」
私はその花を受け取ってまじまじと見た。ピンク色の愛らしい野花。それに親しみを覚えてしまうのは、どうしてだろう━━
「どうして、これを私に?」
「それは、……。お前が、喜ぶかと思って」
彼は照れているのか、言葉尻がすぼんでいた。
私は戸惑った。ずっと、怒っていたはずの彼が、私を思って花を摘んできたのだ。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、彼ははにかんだ。
彼の中でどういう心境の変化があったのかは分からないけれど、和解ができそうで、一先ず良かった。
私はもらった花をそっと指で撫でた。
「……休めたか」
「はい。おかげさまで」
「それじゃあ、そろそろ出発だな」
「あ、そのことなんだけど……」
「何だ?」
「私は休憩の時間をもっと減らしてもらっても大丈夫だから」
アンドリュー卿は怪訝そうな顔で私を見た。
「何でだ?」
「そうした方が領地に早く着くでしょう?」
「なぜそんなことを気にする?」
アンドリュー卿の声が低くなった。
「早く到着した方が皆さんに不便をかけずに済むから」
「……詳しくは、馬車の中で聞かせてくれ」
彼はそう言うと、歩き出した。私は慌てて彼の後を追った。
折角、仲直りできそうだったのに。私の提案がまた彼を不快にさせたのかと思うと、また気分が沈んだ。
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