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番外編1,2
番外編1-1 私のお姉様
※
私のお姉様は笑顔のかわいい、優しくて素敵な人だった。濃いブラウンの髪に緑の瞳は穏やかなお姉様にぴったりで、大地を思わせる色合いだ。日に焼けていない白い肌と小柄なことも相まって、お姉様はおとぎ話に出てくる儚い妖精のようだった。
昔、とても小さな頃に、「お姉様は妖精の生まれ変わりなの?」と聞いたことがあった。そうすると、お姉様は顔をくしゃくしゃにしてお腹を抱えて笑い出した。「私は真面目に聞いているのに」と怒っているとお姉様は「妖精はもっと美しいわ」と教えてくれた。
お姉様のあの笑顔が今でも忘れられない。またあんな風に笑って欲しいけれど、お姉様は、今ではほとんど笑わない。
笑顔がなくなっただけじゃない。いつも暗い顔で周囲を気にしておどおどするようになった。そして、無口で常に何かを考え込んでいるように見える。昔はもっとおしゃべりで明るい性格だったのに、お姉様が口を開くことはほとんどなくなったのだ。
お姉様がこうなったのは、お父様のせいだ。
私はお父様が嫌いだ。この19年生きてきた中でお父様より欲深く、見栄っ張りで良心のない人は見たことがない。彼は自分は大して働きもしないくせに他人から物を搾取することを厭わない最低な人間だ。
領民達から高い税をもらっておきながら、彼らに還元することは一切ない。それに対して領民が少しの慈悲を願えばお父様は嘘の罪をでっちあげてその人達を処罰した。彼らがどんなに苦しんでいても、耳を貸さないどころか、排除する。
つまるところ、お父様は自分がよければ全てどうでもいいのだ。
そして、それは、私達姉妹に対しても同じだった。
聖女としての力が表に出ないお姉様に対して、お父様は辛くあたっていた。
“役立たず”
“無能”
“一族の恥さらし”
“生きる価値がない”
お父様はお姉様に向かってそんな酷い言葉の数々を平気で投げかける。私から言わせればお父様こそがその言葉に当てはまるのだけれど、本人はそんなことは一ミリも思っていないのだろう。
そんな酷い言葉を毎回のように言われたら、誰だって自信を失くしてしまう。お父様の言葉の暴力のせいで、お姉様は歳を重ねるごとにとても卑屈で弱気になっていった。
そして、お父様はお姉様の身体にまで暴力を振るうようになっていた。
それがいつから始まっていたのかははっきりとしない。流石のお父様も表立ってお姉様を殴ることはなかったし、お姉様はお姉様で暴力を振るわれていることをひた隠しにしていた。
私が気が付いた時には、お姉様の身体は見えないところが痣だらけだった。私が小一時間問い詰めてやっと、お姉様はお父様がやったと認めてくれた。お父様に抗議しに行ったら殴る回数は減ったようだけれど、それでもお姉様の身体は定期的に傷付けられていた。
「ジェシカが羨ましいわ」
ある日、聖女としての巡業を終えて城に帰ると、出迎えてくれたお姉様がそうつぶやいた。
「急にどうしたんです?」
「私も聖女としての力があったらよかったのに……」
俯くお姉様の手を私は握った。
「大丈夫。お姉様も聖女ですよ?」
それは慰めの言葉ではなく、真実だった。
聖女は他の聖女の力を見抜くことができる。お姉様の身体の奥底からは、きらきらと輝く美しい光が漏れていた。あれは聖女の神聖力に間違いないと断言できる。
なぜ表にはっきりと出ないのかは分からない。しかし、神聖力はあるのだからいつかお姉様は聖女としての力を身につけることとなるだろう。
「いつか聖女として一緒に巡業に行きましょう?」
これは慰めや社交辞令の言葉ではなく、私の夢だった。
いつかお姉様とともに奉仕活動をしてまわりたい。たくさんの人の役に立って感謝の言葉を貰い、お姉様には自信を取り戻してもらいたい。そして、いつかまた昔のように笑って欲しい。
私は切実にそう願っていた。
私のお姉様は笑顔のかわいい、優しくて素敵な人だった。濃いブラウンの髪に緑の瞳は穏やかなお姉様にぴったりで、大地を思わせる色合いだ。日に焼けていない白い肌と小柄なことも相まって、お姉様はおとぎ話に出てくる儚い妖精のようだった。
昔、とても小さな頃に、「お姉様は妖精の生まれ変わりなの?」と聞いたことがあった。そうすると、お姉様は顔をくしゃくしゃにしてお腹を抱えて笑い出した。「私は真面目に聞いているのに」と怒っているとお姉様は「妖精はもっと美しいわ」と教えてくれた。
お姉様のあの笑顔が今でも忘れられない。またあんな風に笑って欲しいけれど、お姉様は、今ではほとんど笑わない。
笑顔がなくなっただけじゃない。いつも暗い顔で周囲を気にしておどおどするようになった。そして、無口で常に何かを考え込んでいるように見える。昔はもっとおしゃべりで明るい性格だったのに、お姉様が口を開くことはほとんどなくなったのだ。
お姉様がこうなったのは、お父様のせいだ。
私はお父様が嫌いだ。この19年生きてきた中でお父様より欲深く、見栄っ張りで良心のない人は見たことがない。彼は自分は大して働きもしないくせに他人から物を搾取することを厭わない最低な人間だ。
領民達から高い税をもらっておきながら、彼らに還元することは一切ない。それに対して領民が少しの慈悲を願えばお父様は嘘の罪をでっちあげてその人達を処罰した。彼らがどんなに苦しんでいても、耳を貸さないどころか、排除する。
つまるところ、お父様は自分がよければ全てどうでもいいのだ。
そして、それは、私達姉妹に対しても同じだった。
聖女としての力が表に出ないお姉様に対して、お父様は辛くあたっていた。
“役立たず”
“無能”
“一族の恥さらし”
“生きる価値がない”
お父様はお姉様に向かってそんな酷い言葉の数々を平気で投げかける。私から言わせればお父様こそがその言葉に当てはまるのだけれど、本人はそんなことは一ミリも思っていないのだろう。
そんな酷い言葉を毎回のように言われたら、誰だって自信を失くしてしまう。お父様の言葉の暴力のせいで、お姉様は歳を重ねるごとにとても卑屈で弱気になっていった。
そして、お父様はお姉様の身体にまで暴力を振るうようになっていた。
それがいつから始まっていたのかははっきりとしない。流石のお父様も表立ってお姉様を殴ることはなかったし、お姉様はお姉様で暴力を振るわれていることをひた隠しにしていた。
私が気が付いた時には、お姉様の身体は見えないところが痣だらけだった。私が小一時間問い詰めてやっと、お姉様はお父様がやったと認めてくれた。お父様に抗議しに行ったら殴る回数は減ったようだけれど、それでもお姉様の身体は定期的に傷付けられていた。
「ジェシカが羨ましいわ」
ある日、聖女としての巡業を終えて城に帰ると、出迎えてくれたお姉様がそうつぶやいた。
「急にどうしたんです?」
「私も聖女としての力があったらよかったのに……」
俯くお姉様の手を私は握った。
「大丈夫。お姉様も聖女ですよ?」
それは慰めの言葉ではなく、真実だった。
聖女は他の聖女の力を見抜くことができる。お姉様の身体の奥底からは、きらきらと輝く美しい光が漏れていた。あれは聖女の神聖力に間違いないと断言できる。
なぜ表にはっきりと出ないのかは分からない。しかし、神聖力はあるのだからいつかお姉様は聖女としての力を身につけることとなるだろう。
「いつか聖女として一緒に巡業に行きましょう?」
これは慰めや社交辞令の言葉ではなく、私の夢だった。
いつかお姉様とともに奉仕活動をしてまわりたい。たくさんの人の役に立って感謝の言葉を貰い、お姉様には自信を取り戻してもらいたい。そして、いつかまた昔のように笑って欲しい。
私は切実にそう願っていた。
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