【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

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本編2

21-1 聖女の正体

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 馬車の中で一人でいると、胸の中に疑念が広がっていく。それとともに、気分が沈んでいってしまって、私は何度も溜め息を吐いた。
 そうしていると、支払いを終えたアンドリュー卿が戻ってきた。

「シア、もう疲れたのか」
 彼は馬車に乗るなり言った。
「いいえ。そんなことはないわ」
「そうか? 少し顔色が悪く見える」
 アンドリュー卿は私の顔をじっと見て言った。
「今日はもう宿に戻ろう」
 出歩きたい気分ではなかったから、素直に頷いた。

 宿までの移動の最中も、私の胸のもやもやは収まらなかった。
 アンドリュー卿とは、いわば政略結婚のようなもので、彼に恋人がいても何ともないと思っているはずだった。それなのに、どうしてこんなにも嫌な気分になっているのかしら。

 ━━きっと、優しくされたから。自分でも気が付かないうちに舞い上がっていたのね。

 そう思うと自然と自嘲していた。
 私は虚しい思いを抱えたまま、宿に戻った。

「疲れがまだ取れていないみたいだから、今日も昼寝をしよう」
 アンドリュー卿は部屋に入るなり言った。促されるままベッドに入ると、彼は昨日と同様、私の隣に寝転んだ。
「でも、夜までには起きてくれよ」
 アンドリュー卿は微笑を浮かべて言った。私は頷くとアンドリュー卿に背を向けて目を閉じた。

 ━━眠れない。

 昨日は沢山寝た上、疲れているわけでもないから当然だ。
 目を閉じていると、また悶々と考え込んでしまう。そう思ったから目を開けたのに、例の指輪の入ったケースが目に入ってしまった。
 私は寝返りをうってそれから視線を外した。すると、アンドリュー卿が私を抱き寄せてきた。

「シア」
 私は無視して寝たふりを決め込んだ。
「好きだ」
 優しい彼の囁きが、今は嘘にしか思えなかった。
 彼は大きな手で私の身体を撫で始めた。

 ━━触らないで。

 今は私に触れて欲しくなかった。だから私は反応せずに目を閉じたままでいた。このまま寝たふりでやり過ごそうと思っていたのに、アンドリュー卿は起き上がってキスをしてきた。
「っ!」
 驚いて目を開けたらアンドリュー卿は私の手の平にキスをした。
「やっぱり寝たふりだ」
 彼はにこりと笑う。そして、愛おしむかのように私の頭を撫でてきた。上機嫌に笑う彼とは対照的に私の気分はひどく落ち込んでいった。

 でも、そのことにアンドリュー卿は気づいていないのか、そのまま行為に持ち込もうとした。私の胸を服の上から撫で上げて額にキスを落とす。

 ━━やめて。

 胸の奥がざらつくような、吐き気にも似た違和感が込み上げてくる。初めての夜の時の恐怖心とも、恥ずかしい姿を見られる羞恥心とも違う。この気持ちは一体━━

 その時、まるで天の助けのようなタイミングで、扉を叩く音がした。
「カルベーラ卿、お客様がいらっしゃいました」
 宿の人が扉の向こうから来客があったことを伝えてきた。けれど、アンドリュー卿はそれを無視して私の上に覆い被さったままだった。

「お客様よ」
「放っておけ」
 彼はそう言って私の首筋にキスをした。
「そういうわけにはいかないわ。早く、応対してちょうだい」
 私はそう言って彼の胸を押して、離れるように促した。アンドリュー卿は顔を歪ませるとベッドから降りた。

「何だ」
 そう言いながら扉を開ける。
「良かった、いらっしゃったんですね。第二王子殿下の使いの方がいらして……」
 私が聞き取れたのはそこまでだった。アンドリュー卿が部屋から出て、扉を閉めたのだ。
 扉の向こうで少し話をする二人の声が遠ざかっていく。きっと、第二王子殿下の使いに会いに行ったのだろう。

 それから少しして、アンドリュー卿は帰ってきた。
「悪い、第二王子から夕食に誘われた。これから行ってくる」
 彼はそう言うと私の返事を聞くこともなく、そそくさと部屋を出ていった。

 ━━第二王子殿下と知り合いなの?

 彼はいつだって説明をしてくれない。今日だって、知り合いをまともに紹介してくれなかった。

 ━━私は軽んじられている?

 そう思ってしまったら、また溜め息が漏れた。その途端、耳元から可愛らしい声が聞こえた。

「こら! 溜め息はダメだって言ってるでしょう!」

 顔を上げてみると、思った通り、フェイがいた。彼女の身体から溢れる光は、暗い気持ちを照らすかのように明るかった。
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