【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

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番外編3

番外編3-4 何があっても離婚しない

 俺達が席に着いたのを見計らって、使用人はテーブルに料理を並べていく。
 俺は、いつもとは違ってお行儀よく食事を摂った。

「教えられたことがちゃんと身についている。偉いよ」
 上から物を言われて癪に障るが、言い返しはしない。

「夫人は褒めてくれたかい?」
「いいや」
 そもそも、シアとはまだお行儀よく料理を食べるような場所に行っていない。
「それは残念だね。野生児の君が夫人に恥を掻かせないように、必死になってマナーを教えたっていうのにさ」
 ギロリと睨みつけると、第二王子はヘラヘラした笑みを浮かべた。

 そういえば、折角、王都に来たというのに、まだレストランに行っていない。貴族が好んで行くレストランにシアを連れて行ったら、彼女の口に合うものは見つかるだろうか。
「何を考えてるの?」
「別に……」
 本当のことを言えば馬鹿にしてくるのは目に見えている。こういう時は、適当に返事をするのが一番だ。素っ気ない反応をすれば、彼の関心は別の所に移るのだから。

「そういえば」
 思った通り、第二王子は話題を変えた。
「君と俺は兄弟になるかもよ」
 思ってもみない言葉に、ステーキを切る俺の手が止まった。
「何を馬鹿げたことを……」
「いや、これが本当なんだって! 実は、カーライルがジョルネス令嬢に懸想しているみたいでね」
「シアの妹に?」
「そうなんだよ。それで、水面下で彼女との結婚に向けて準備を進めているらしいんだ」
 第二王子は心底愉快そうに言うと、グラスに注がれたワインを飲んだ。

「だから俺達はジョルネスの娘を通して義兄弟になる」
「義兄弟ではないだろう。せいぜい遠戚だ」
 それでも嫌だと思ったが言葉にはしなかった。
「むきになって否定して……。そんなに俺と親戚になるのが嫌?」
「さあ?」
 適当に流したが、第二王子は怒ることはなかった。

「ま、冗談はさておき、君はこれから色々と気をつけた方が良い」
「気をつけるって、何をだ?」
「夫人のことだよ。折角、結婚できたっていうのに、離婚させられたら大変だろう?」
 “離婚”という言葉に反応して、俺のこめかみに青筋が浮かんだ。

 ━━どうしてどいつもこいつも俺とシアを離婚させたがるんだ!

「誰に何と言われようとも、俺は離婚しない!」
「そう言うなら、少なくとも夫人からの誤解を解くことだね」
「誤解? なんのことだ?」
「それは自分で考えないと」
 諭すように第二王子は言うと、彼はワインを飲み干した。側仕えの侍女が空になったグラスにワインを注ぐ。

「夫人との結婚に、俺が一肌脱いでやったことは忘れてないよね?」
 第二王子はそう言って、俺を見据えた。
「忘れたくても、忘れられないよ」
 答えると、彼はふっと笑った。
 俺は憎たらしい顔を見つめながら、あの日のことを思い出した━━

 あの頃の俺は、ブラックドラゴンを倒した褒賞として、「シアとの結婚を望む」と国王に言うつもりでいた。
 だが、それは、第二王子によって阻まれた。彼は、俺がシアとの結婚を望んでいることをどこかで聞きつけたらしい。そして、「それは悪手だ」と忠告してきたのだ。

「君がシアリーズ・ジョルネス嬢との婚姻を望んでいることについては反対しない。ただ、彼女の父親はとても欲深くて、下の人間に容赦ない男だ。このままいけば、とんでもない金を要求されるよ?」
「かまわない。金で解決するならいくらでも払う」

 俺がそう答えると、第二王子は呆れたと言わんばかりに首を振った。
「君って本当に馬鹿だね。ちゃんと現実を見なよ」
 反論しようとすると、第二王子はそれを制止した。

「いいかい? 結婚式を挙げるにも、結婚生活を営んでいくにも、それなりの金がかかるものだ。ジョルネス公爵に金を毟り取られたら、シアリーズ嬢との結婚式はみすぼらしいものになるかもしれないんだよ。君はそれでいいの?」
 結婚式なんて形式的なものは、正直、やろうがやるまいがどうでもよかった。

 だが、大貴族の娘であるシアにとってはそうではないだろう。みすぼらしい結婚式を挙げようものなら、彼女に恥を掻かすことになる。
 それに、シアは女の子らしい物が大好きでお姫様に憧れていた。そんな彼女に対して、自分が主役になる晴れ舞台を安く済ませるなんて仕打ちは死んだってできない。

「結婚した後のことも考えないと。貴族は平民とは違って、君が想像する何十倍もの金が必要になるんだから」
 第二王子はそう言って、1年の支出が書かれた紙を俺に見せつけた。
 食費から衣服、装飾品に至るまで、平民では考えられない額が並んでいた。今ある財産を失えば、シアに満足な生活を与えられないのは明らかだった。

「妻になってくれた人に、貧しい生活を強いたりはしないよね? それとも、傭兵稼業を今のペースで続けて、彼女のいる家に全く帰らないつもりでいるのかな?」
 嫌味ったらしく言う第二王子に、俺は「そんなわけないだろう」とはっきりと答えた。
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