【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

文字の大きさ
49 / 63
本編3

25-1 解ける誤解

しおりを挟む
「夢って、もう叶ったでしょう? アンドリューは騎士となって、シアを悪い父親から救い出したんですもの。……まさか、彼の功績が足りないだなんて言わないわよね?」
 私は首を振った。
 私のために、危険を顧みず大きな武勲を立ててくれたアンディに対して、そんな我儘を言えるはずがなかった。

「アンディと交わした約束は果たされたわ。でも、フェイと語り合った夢はまだ叶ってないの」
 そう言って、フェイは眉を顰めてしばらく考え込み、「ああ……」と声を漏らした。
「“シアの母親のためにも、あなた自身が幸せになって、周りの人間達も幸せにする”って話だったかしら?」
 私は頷いた。

「私は幸せになって、みんなも幸せにするって言ったのに……。でも、今の私は、みんなに気を遣われて私の幸せを願われるばかりだった」

 幼い頃にした約束を守って、迎えに来てくれたアンディ。
 彼は不器用ながらも私に愛を表現しようとしていた。それなのに、私は自分の保身ばかり考えて、彼の愛を疑い、行動を勘繰っていたのだ。

 そんな考えだったから、私は気づかないうちに自分で自分を不幸に追い込んでいたのだろう。
 ジェシカが心配するのも無理はない。

 ━━私は逃げるように城を飛び出して、ジェシカの事を忘れかけていたというのに。……本当に、姉想いの優しい子なんだから。

 私は今までの自分の愚かさを反省するとともに、ジェシカの身の安全が気になった。

「ジェシカを、……お父様から切り離さないと」
「そうね。あの碌でもない父親のもとには置いておけないわ」
 フェイが同調した。

 ジェシカはカーライル殿下の力を借りてお父様の罪を白日の下に晒すつもりでいる。けれど、失敗すれば、お父様がどんな報復をするか分からない。計画に抜かりがないかもう一度確認しよう。
 それをフェイに話すと、彼女は「それは良いことだわ」と言った。

「妹の穏やかな暮らしを確保したら、他にはしたいことはあるの?」
 フェイは静かに問いかけてきた。
「フェイは今、幸せ?」
 逆に質問をすると、フェイはあごに手を当てて「それなりに」と答えた。

「悪くはないんだけどね。でも、シアとまた森の中で遊べたら毎日がもっと楽しくなるわ」
 そう言うとフェイはいたずらっぽく笑った。そんな彼女を見ていると、また涙が流れてくる。

 ━━また、フェイとアンディと一緒にあの場所で暮らしたい。

 そう思った瞬間、部屋の扉が開いた。

 部屋に入って来たのはアンディだった。彼は私を見ると顔を歪めて、乱暴に扉を閉めた。
「フェイ!」
 怒鳴るように大声で呼びかけるものだから、フェイは当然気を悪くした。
「何よ?」
 むすっとした顔で返事をすると、彼女は腕を組んだ。
「お前も余計なことを言ったんだな!」

 ━━お前も? 余計なこと?

 戸惑う私を他所に、二人は言い争いを始めた。
「アンドリューじゃあるまいし、私がそんなことをするはずないでしょ?」
「じゃあ、どうしてシアが泣いてるんだ!?」
 突然私のことに触れられて、ドキッとした。
「そういうことは本人に直接聞きなさいよ!」

 フェイがそう言うとアンディは私を見た。彼はさっきまで怖い顔でフェイに言葉を投げかけていた。それなのに私を見ると、怒っているというより、困ったとでも言いたげな顔をしてきた。
 第二王子殿下との食事に行く前は、こんなに機嫌が悪くはなかったのに。一体、彼に何があったのかしら?

 私が心配していることを知ってか知らずか、アンディは私に向き直った。
「シア」
 彼は力強い目で私を見てこう宣言した。

「俺は、絶対に離婚しないからな!」

 そう宣言した彼の気迫に押されて、私の涙はぴたりと止まった。
「う、うん……」
 何と返事をしたら良いのか分からなくて、私はその一言で終わらせてしまった。
 今までの彼ならそれで会話が終わっていただろう。けれど、今回は違った。

「俺は誰に何を言われようと、シアを手放す気はないし、信じてくれないかもしれないが俺はお前を……愛してるんだ」
 最後の方は声が小さくなっていたけれど、彼は「愛してる」と確かに言っていた。
 その言葉に、胸の鼓動が早くなっていくのを感じた。

「『愛してる』の一言にどれくらい時間をかけたのかしら……」
 フェイは嫌味っぽく言ったにも関わらず、その顔はとても嬉しそうだった。そんなフェイをアンディは睨みつけると、彼女はわざとらしく舌を出して挑発した。
 二人のやり取りを懐かしく思える。まだ全てを思い出せてはいないけれど、きっと、二人はこういうことを日頃からよくしていたのだろう。

 私の口から笑い声が溢れると、アンディが私を見た。その顔はとても驚いているようだったから、私は彼に尋ねた。

「どうしたの、アンディ?」

 私の問いに答えることはなく、彼は私を強く抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

眠れる森の美女になりかけた王女は、辺境でスローライフを始めます。すでに結婚していますので、今さら王子さまからプロポーズされても困るのですが。

石河 翠
恋愛
義妹の代わりに呪いを受けた王女。ようやく目覚めたと思ったら、目の前にいたのは魔法使い。なんとここに来るはずの幼なじみの婚約者は義妹が横取りしてしまい、自分との婚約はすでに破棄されてしまったのだという。 しかも王女がいたのは辺境の小さな村。義妹が泣き叫んで手がつけられないからという理由で王城から追い出されたらしい。それならばこの土地でスローライフを始めると開き直る王女。 アフターフォローを申し出た魔法使いと一緒に田舎暮らしを始めることに。そこへ辺境の地の噂を聞きつけた王子さまがやってきて……。 仕事から離れて憧れの田舎暮らしを楽しむ図太いヒロインと、ヒロインをずっと追いかけてきたヒーロー、それを見守る義妹の恋物語。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:5047928)をお借りしています。

【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい
恋愛
結婚十年、子どもも授かり、日々執務と子育ての毎日。 穏やかで平凡な日々を過ごしていたある日、夫が大切な人を離れに住まわせると言った。 偶然助けた私に一目惚れしたと言い、結婚し、可愛い子ども達まで授けてくれた夫を恨むことも憎むこともしなかった私。 初恋すら知らず、家族愛を与えてくれた夫だから。 でも、夫の大切な人が離れに移り住んで、私の生き方に変化が生まれた。 2025.11.30 完結しました。 スピンオフ『嫌われ悪女は俺の最愛〜グレイシアとサイファの恋物語〜』は不定期更新中です。 【2025.12.27追記】 エミリオンと先に出逢っていたら もしもの世界編は、諸事情により以下に移動しました 『今度は初恋から始めよう〜エミリオンとヴェリティのもう一つの恋物語〜』 よろしければ、ご訪問くださいませ いつもありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡

引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾
恋愛
内容紹介 聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。 人と話すことができず、部屋から出ることもできず、 彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。 「西の街道でがけ崩れが起きます」 「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」 祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。 その存在は次第に「役立たず」と見なされ、 王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。 ──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。 天候不順、嵐、洪水、冷害。 新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。 誰もが気づかぬまま、 「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。 扉の向こうで静かに生きる少女と、 毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。 失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。 これは、 祈らない聖女が選んだ、 誰にも支配されない静かな結末の物語。 『引きこもり聖女は祈らない』 ざまぁは声高でなく、 救いは奇跡ではなく、 その扉の向こうに、確かにあった。

ここに聖女はいない

こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。 勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。 どうしてこんな奴がここにいる? かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...