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本編3
26-2 幸せにしたい
穏やかな雰囲気が漂う中、ウエイターが食べ終えたサラダのお皿を下げにやって来た。そして、代わりにステーキを置いていく。
しっかりと焼かれた分厚いステーキに、肉の焼ける音。香ばしい匂いが食欲をそそる。
「美味しそうね」
「だな」
私達はナイフとフォークを手に取るとすぐにそれを口にした。
お肉は柔らかくて口の中で溶けていく。
━━もしかしたら、私の何十倍も良い扱いを受けていたジェシカでさえ、こんな美味しいステーキを食べたことがないかもしれない。
その味わいに感激している中、目の前にいるアンディを見ると、彼は優雅な所作でステーキを食べていた。
「本当に美味いな」
目が合うと彼は言った。
「ええ。こんな美味しいステーキは初めてよ」
「そうか。来て良かったよ」
彼は僅かに微笑むと、またステーキを食べる。その所作は相変わらず美しくて、やっぱりいつもの彼らしくない。
「アンディ、どうしちゃったの?」
私は思い切って尋ねてみた。
「ん?」
「いつもの食べ方と違うから」
「ああ……」
彼は、ナイフとフォークを正しい場所に置いた。
「貴族の食事の作法というやつを学んだんだ。お前に恥を掻かせたくなくて」
照れ笑いを浮かべる彼を抱きしめたい衝動に駆られる。
私のためにここまでしてくれるなんて。いつか私も、彼のために何かをしよう。
決意を胸に、私は彼を褒めた。
「凄いわ」
「ありがとう。苦労して覚えた甲斐があったよ」
アンディは誇らしげに言った。きっと本当に苦労をしたんだろう。
「ところで、誰に教えてもらったの?」
質問をした途端、アンディの顔が元の仏頂面に戻った。
「ごめん、まずいことを聞いたかしら?」
「いや。……ただ、あいつのことを話さないといけないのかと思ったらテンションが下がっただけだ」
「あいつって?」
「第二王子。……グレアム殿下が俺に貴族の暮らしや作法を教えてくれた」
「第二王子殿下から直々に?」
アンディは頷くとナイフとフォークを取ってまたステーキを食べ始めた。
傭兵をしていたアンディが一体どこで第二王子殿下と知り合い、作法を教えてくれるまでの仲になったのだろう。
「聞きたいのか? あいつのことを」
「あいつって……。失礼よ」
アンディは「そうだな」と仏頂面で答えた。
「ただ、どういうわけか俺は第二王子から気に入られている。そうやって呼んでも咎められないくらいにな」
そう言って、アンディは第二王子殿下について話し始めた。
第二王子殿下とは、傭兵を始めて間もない頃に知り合ったらしい。アンディいわく、「腐れ縁」で、持ちつ持たれつの関係にあるらしい。
そして、第二王子殿下は、私達の結婚の段取りを裏で組んでくれた人でもあると教えてくれた。
「正直に言って、第二王子がいなければ、俺達の結婚は上手くいっていなかっただろうな」
「そんな方だったなんて……。一度きちんと会ってご挨拶をさせてもらいたいわ」
そう言うとアンディの顔が曇った。
「どうしたの?」
「いや……。あんなやつに、会わせたくないなと……」
「どうして」
言いかけた所で、ウエイターがデザートを持って入ってきた。彼がお皿を入れ替えるまで、私達の話は中断した。
━━もしかして、私に会わせたくない理由があるの?
私は信用されていないのかもしれないとか、第二王子殿下に会わせるには恥ずかしいと思われているかもしれないとか。
もやもやとした気持ちが胸の中にじわじわと広がっていく。
ウエイターの丁寧な動作が今は憎らしく感じる。早く部屋から出て行って欲しい。
そう思っている中、アンディは口を開いた。
「あいつは、基本的には良いやつなんだが、問題もあるんだ」
「え……?」
思ってもみない発言に、私は目を丸くした。
ウエイターが部屋から出たのを確認すると、アンディは続きを話し始めた。
「あいつは、とにかく、女に手を出すのが早いんだよ。しかも、守備範囲が広い上、見境がない」
「そうなんだ……」
“役立たずのシアリーズ”としての生活が長かったせいか、疑い癖がついている。早く直さないと━━
そんなことを頭の片隅で考えながら、私はお茶を飲んだ。
「だから、第二王子と会うのはダメだ」
私はふっと笑う。
「それは賛成できないわ。お世話になったのだから、お礼を言いたいもの」
途端にアンディは渋い顔になった。
「私が信用できない?」
「そういうわけじゃないが……。あいつに何かされたらと思うとな」
「大丈夫よ。もし何かをされそうになったら、もみの木に変えるから」
そう言うとアンディは飲んでいたお茶を吹き出した。
まさか、そこまでびっくりされるとは思わなくて、私は声を出して笑ってしまった。
「冗談よ。あんな恐ろしい魔法は、二度と使いたくないもの」
「ああ……。そうか」
「どうしても不安なら、フェイに付き添いを頼みましょう?」
彼女は危機察知能力が高いし、変なことをされそうになったら、いたずらの魔法で懲らしめてくれるだろう。
そう思って提案すると、アンディは渋々といった様子で頷いた。
しっかりと焼かれた分厚いステーキに、肉の焼ける音。香ばしい匂いが食欲をそそる。
「美味しそうね」
「だな」
私達はナイフとフォークを手に取るとすぐにそれを口にした。
お肉は柔らかくて口の中で溶けていく。
━━もしかしたら、私の何十倍も良い扱いを受けていたジェシカでさえ、こんな美味しいステーキを食べたことがないかもしれない。
その味わいに感激している中、目の前にいるアンディを見ると、彼は優雅な所作でステーキを食べていた。
「本当に美味いな」
目が合うと彼は言った。
「ええ。こんな美味しいステーキは初めてよ」
「そうか。来て良かったよ」
彼は僅かに微笑むと、またステーキを食べる。その所作は相変わらず美しくて、やっぱりいつもの彼らしくない。
「アンディ、どうしちゃったの?」
私は思い切って尋ねてみた。
「ん?」
「いつもの食べ方と違うから」
「ああ……」
彼は、ナイフとフォークを正しい場所に置いた。
「貴族の食事の作法というやつを学んだんだ。お前に恥を掻かせたくなくて」
照れ笑いを浮かべる彼を抱きしめたい衝動に駆られる。
私のためにここまでしてくれるなんて。いつか私も、彼のために何かをしよう。
決意を胸に、私は彼を褒めた。
「凄いわ」
「ありがとう。苦労して覚えた甲斐があったよ」
アンディは誇らしげに言った。きっと本当に苦労をしたんだろう。
「ところで、誰に教えてもらったの?」
質問をした途端、アンディの顔が元の仏頂面に戻った。
「ごめん、まずいことを聞いたかしら?」
「いや。……ただ、あいつのことを話さないといけないのかと思ったらテンションが下がっただけだ」
「あいつって?」
「第二王子。……グレアム殿下が俺に貴族の暮らしや作法を教えてくれた」
「第二王子殿下から直々に?」
アンディは頷くとナイフとフォークを取ってまたステーキを食べ始めた。
傭兵をしていたアンディが一体どこで第二王子殿下と知り合い、作法を教えてくれるまでの仲になったのだろう。
「聞きたいのか? あいつのことを」
「あいつって……。失礼よ」
アンディは「そうだな」と仏頂面で答えた。
「ただ、どういうわけか俺は第二王子から気に入られている。そうやって呼んでも咎められないくらいにな」
そう言って、アンディは第二王子殿下について話し始めた。
第二王子殿下とは、傭兵を始めて間もない頃に知り合ったらしい。アンディいわく、「腐れ縁」で、持ちつ持たれつの関係にあるらしい。
そして、第二王子殿下は、私達の結婚の段取りを裏で組んでくれた人でもあると教えてくれた。
「正直に言って、第二王子がいなければ、俺達の結婚は上手くいっていなかっただろうな」
「そんな方だったなんて……。一度きちんと会ってご挨拶をさせてもらいたいわ」
そう言うとアンディの顔が曇った。
「どうしたの?」
「いや……。あんなやつに、会わせたくないなと……」
「どうして」
言いかけた所で、ウエイターがデザートを持って入ってきた。彼がお皿を入れ替えるまで、私達の話は中断した。
━━もしかして、私に会わせたくない理由があるの?
私は信用されていないのかもしれないとか、第二王子殿下に会わせるには恥ずかしいと思われているかもしれないとか。
もやもやとした気持ちが胸の中にじわじわと広がっていく。
ウエイターの丁寧な動作が今は憎らしく感じる。早く部屋から出て行って欲しい。
そう思っている中、アンディは口を開いた。
「あいつは、基本的には良いやつなんだが、問題もあるんだ」
「え……?」
思ってもみない発言に、私は目を丸くした。
ウエイターが部屋から出たのを確認すると、アンディは続きを話し始めた。
「あいつは、とにかく、女に手を出すのが早いんだよ。しかも、守備範囲が広い上、見境がない」
「そうなんだ……」
“役立たずのシアリーズ”としての生活が長かったせいか、疑い癖がついている。早く直さないと━━
そんなことを頭の片隅で考えながら、私はお茶を飲んだ。
「だから、第二王子と会うのはダメだ」
私はふっと笑う。
「それは賛成できないわ。お世話になったのだから、お礼を言いたいもの」
途端にアンディは渋い顔になった。
「私が信用できない?」
「そういうわけじゃないが……。あいつに何かされたらと思うとな」
「大丈夫よ。もし何かをされそうになったら、もみの木に変えるから」
そう言うとアンディは飲んでいたお茶を吹き出した。
まさか、そこまでびっくりされるとは思わなくて、私は声を出して笑ってしまった。
「冗談よ。あんな恐ろしい魔法は、二度と使いたくないもの」
「ああ……。そうか」
「どうしても不安なら、フェイに付き添いを頼みましょう?」
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