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本編3
26-3 幸せにしたい
そうして私達は、デザートのケーキを口にした。チョコレートクリームが甘くてお茶と良く合う。
「どうせ顔を合わせるなら、ジェシカ達よりも前に第二王子と会っておくか」
ぽつりとアンディがつぶやいた。
「あら? どうして?」
「言っただろう? あいつとは持ちつ持たれつの腐れ縁だって。切れる頭で俺達を助けてくれるかもしれない」
「そうしてもらえるなら、とても助かるわね」
そう言うと彼はケーキを平らげた。そして、お皿の上にフォークを置くと、私を見た。
「明日にでも会いに行こうか」
「え? それは、先方にご迷惑ではないの?」
「向こうがやたらシアに会いたがっているんだ。『明日の予定も空いている』ってわざわざ言ってきたんだから、訪ねても大丈夫だろう」
「本当に?」
「大丈夫だ。そんなに器の小さいやつじゃないから。少しの無礼なら目を瞑ってくれるはずだ」
彼はそう言ってお茶を飲み干した。
私は残りのケーキを食べながら、お土産は何を持っていけばいいのかと考えた。
すると、私の心の声が漏れたかのように、「お土産はどうするの?」と宙から声が聞こえた。私はびっくりして手に持ったフォークを落としそうになった。
「あら? シアは随分とビビり屋さんに育ったのね」
そう言いながら、フェイは姿を現した。
「もう……。驚かせないで」
「ごめんごめん」
彼女は軽快に笑い飛ばすとアンディを見た。
「いつからいたんだ?」
「第二王子との思い出話を始めたあたりかしら」
「それは随分と盗み聞きをしていたんだな」
咎めた彼に対しても、フェイはどこ吹く風だった。
「凄腕の騎士なのだから、潜む私の気配にも気付けるようにならないと」
フェイがにこにこと笑って言えば、アンディは顔を顰めた。
「グレアムと会うのなら、いつもみたく、人間に化けるわ。あの人は勘が鋭いから、いつも通り、謎の治癒士の姿にしておくわね」
「ああ」
「謎の治癒士って?」
私が尋ねると、フェイは指を鳴らした。
それに呼応して、光が花びらのように舞い落ちて、彼女の輪郭が揺らめいていく。そして、徐々に大きくなっていき、私と大差ない身長の人間の女性に変化した。
フェイはこうやって人間のふりをしていたのかと感心する。どこをどう見ても、ただの美しい人間だ。
けれど、一つ気になることがあった。それは、変身した彼女の色合い。顔の造形はフェイそのものだったけれど、金の髪はありふれた茶色に。瞳の色は緑に変化している。
「これが、アンドリューとともに旅をした謎の治癒士であり、噂の恋人よ」
誇らしげに言ったフェイが憎らしく思えた。
「ずるいわ。私と同じ色をして、美人だなんて……」
第二王子殿下が私達を見比べた時、彼は何を思うだろう。比べられる未来を想像しただけで、胸がきゅっと締めつけられる。恥ずかしさと不安が胸の中で入り混じって、私は思わず俯いてしまった。
そんな私の肩をフェイが触れた。
「シアは自分で自分に悪い魔法をかけてる」
彼女はそう囁くと、アンディに向かって言った。
「ねえ、私とシア、どっちが美人?」
「シア」
アンディは食い気味に言った。
気を使ってくれているのだけれど、下手なお世辞だ。そう思いながら顔をあげると、彼は頬を赤くして、目を泳がせていた。
━━もしかして、本気で言ってくれたの?
恥ずかしがる彼を見ると、私の頬も熱くなっていく。
私がフェイよりも美しいだなんて、あり得ない。けれど、あんな風に本気で断言されてしまったら、勘違いしそうになる。
フェイは赤くなった私の頬を指でそっと撫でた。
「かっこいい騎士様が、お姫様にかけられた悪い魔法を解いてくれたから、分かったでしょう? シアは私と並んでも引けを取らない美しさがあるの。だから、自分を卑下するのはやめて」
フェイの優しい笑顔に心の奥が温かくなる。
「分かった。私は私を貶めないから」
フェイと並べるくらい美しいとは、まだ思えない。けれど、自分が凡庸で恥ずかしい存在なのだと思うのはやめると誓った。
━━それに、もし、美人じゃなかったとしても、それはそれでいいわ。
アンディが、私を美しいと言ってくれたから。世界の大多数の人の価値観よりも、彼の言葉の方が、私にとっては大切なのだ。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
「どうせ顔を合わせるなら、ジェシカ達よりも前に第二王子と会っておくか」
ぽつりとアンディがつぶやいた。
「あら? どうして?」
「言っただろう? あいつとは持ちつ持たれつの腐れ縁だって。切れる頭で俺達を助けてくれるかもしれない」
「そうしてもらえるなら、とても助かるわね」
そう言うと彼はケーキを平らげた。そして、お皿の上にフォークを置くと、私を見た。
「明日にでも会いに行こうか」
「え? それは、先方にご迷惑ではないの?」
「向こうがやたらシアに会いたがっているんだ。『明日の予定も空いている』ってわざわざ言ってきたんだから、訪ねても大丈夫だろう」
「本当に?」
「大丈夫だ。そんなに器の小さいやつじゃないから。少しの無礼なら目を瞑ってくれるはずだ」
彼はそう言ってお茶を飲み干した。
私は残りのケーキを食べながら、お土産は何を持っていけばいいのかと考えた。
すると、私の心の声が漏れたかのように、「お土産はどうするの?」と宙から声が聞こえた。私はびっくりして手に持ったフォークを落としそうになった。
「あら? シアは随分とビビり屋さんに育ったのね」
そう言いながら、フェイは姿を現した。
「もう……。驚かせないで」
「ごめんごめん」
彼女は軽快に笑い飛ばすとアンディを見た。
「いつからいたんだ?」
「第二王子との思い出話を始めたあたりかしら」
「それは随分と盗み聞きをしていたんだな」
咎めた彼に対しても、フェイはどこ吹く風だった。
「凄腕の騎士なのだから、潜む私の気配にも気付けるようにならないと」
フェイがにこにこと笑って言えば、アンディは顔を顰めた。
「グレアムと会うのなら、いつもみたく、人間に化けるわ。あの人は勘が鋭いから、いつも通り、謎の治癒士の姿にしておくわね」
「ああ」
「謎の治癒士って?」
私が尋ねると、フェイは指を鳴らした。
それに呼応して、光が花びらのように舞い落ちて、彼女の輪郭が揺らめいていく。そして、徐々に大きくなっていき、私と大差ない身長の人間の女性に変化した。
フェイはこうやって人間のふりをしていたのかと感心する。どこをどう見ても、ただの美しい人間だ。
けれど、一つ気になることがあった。それは、変身した彼女の色合い。顔の造形はフェイそのものだったけれど、金の髪はありふれた茶色に。瞳の色は緑に変化している。
「これが、アンドリューとともに旅をした謎の治癒士であり、噂の恋人よ」
誇らしげに言ったフェイが憎らしく思えた。
「ずるいわ。私と同じ色をして、美人だなんて……」
第二王子殿下が私達を見比べた時、彼は何を思うだろう。比べられる未来を想像しただけで、胸がきゅっと締めつけられる。恥ずかしさと不安が胸の中で入り混じって、私は思わず俯いてしまった。
そんな私の肩をフェイが触れた。
「シアは自分で自分に悪い魔法をかけてる」
彼女はそう囁くと、アンディに向かって言った。
「ねえ、私とシア、どっちが美人?」
「シア」
アンディは食い気味に言った。
気を使ってくれているのだけれど、下手なお世辞だ。そう思いながら顔をあげると、彼は頬を赤くして、目を泳がせていた。
━━もしかして、本気で言ってくれたの?
恥ずかしがる彼を見ると、私の頬も熱くなっていく。
私がフェイよりも美しいだなんて、あり得ない。けれど、あんな風に本気で断言されてしまったら、勘違いしそうになる。
フェイは赤くなった私の頬を指でそっと撫でた。
「かっこいい騎士様が、お姫様にかけられた悪い魔法を解いてくれたから、分かったでしょう? シアは私と並んでも引けを取らない美しさがあるの。だから、自分を卑下するのはやめて」
フェイの優しい笑顔に心の奥が温かくなる。
「分かった。私は私を貶めないから」
フェイと並べるくらい美しいとは、まだ思えない。けれど、自分が凡庸で恥ずかしい存在なのだと思うのはやめると誓った。
━━それに、もし、美人じゃなかったとしても、それはそれでいいわ。
アンディが、私を美しいと言ってくれたから。世界の大多数の人の価値観よりも、彼の言葉の方が、私にとっては大切なのだ。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
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