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本編3
27-1 第二王子殿下のもとへ
※
次の日の朝、私達は第二王子殿下のいるという宮殿に向かうべく準備を進める。
突如として現れたフェイを、アンディの部下達はあっさりと受け入れてしまった。治癒士としてのフェイは、神出鬼没な人と思われているそうで、急に現れて行動を共にすることにも彼らは慣れてしまっているそうだ。
フェイは昨日の夜に買ったフルーツの盛り合わせを腕に抱くと、私達の馬車にいの一番に乗った。
それを見た彼らは、流石に面を食らっていた。
「夫人がいるのに同乗するってマジか……」
私が馬車に乗り込む間際に、そんなつぶやきが聞こえてきた。彼らにまで、フェイがアンディの恋人と誤解されていると知って、胸がチクリと痛んだ。
━━どうにかして、誤解を解きたいわ。
夫と友達が恋仲だと思われている現状は、やっぱり落ち着かない。
そう思いながら、アンディの隣りに座ると、フェイが腕を組んだ。
「シアの隣りは私だって、いつも決まってたのに」
それを聞いたアンディは私の肩に腕を回した。
「悪いな。俺達は夫婦だから」
わざわざそう言ってアピールされて、私は気恥ずかしさとともに、ほんの少しの喜びを感じた。
「シアも嬉しそうなのが、腹が立つわ。昨日まで不仲だったくせに」
フェイは空中にでこピンを決めた。
それを見て、でこピンはフェイのお仕置きだったと思い出した。
━━懐かしい。
こうやって、三人でふざけ合うのが、私達にとっての当たり前の日常だった。
この幸せがずっと続くようにと願いながら、私は彼らと笑い合う。
「あら、もう着くんじゃない?」
窓の外を見たフェイが言った。
「そうだな。もうすでにあいつの宮の敷地に入っている」
「え!?」
私は窓に手をついて外を見た。
舗装された道路は、均等に配置された街路樹や街灯、ベンチがあって、公道にしか見えない。
「衛兵はいないの?」
「もう少し先だな。あそこの門の前にいる」
アンディの言う通り、門の前には衛兵がいて、馬車は一度止められた。
衛兵はアンディの顔を見ると、すぐに中へと通してくれた。
王族の住む宮殿に入るのだから、厳正に荷物のチェックをされるのだと思っていたけれど、拍子抜けだった。
それから、馬車は10分程走ってから、止まった。
「着いたぞ」
アンディは馬車から降りると、私とフェイをエスコートして降ろした。
「これが、人間の住処の最上級なのよね?」
フェイはキョロキョロと辺りを見回しながら言った。
「うん、そうだね」
私は返事をしつつ、辺りを観察する。
白い大理石の床に、レッドカーペット。庭の花々はしっかりと整えられている上に、噴水や彫像が嫌味なく置かれている。
いかにも、王族の城って感じだ。
辺りを見渡しながら、そんなことを考えていると、宮殿の奥から、背が高く、浅黒い肌をした黒髪の男性が出てきた。
━━アンディ?
遠目で見た時は、一瞬アンディと見紛う程のそっくりさんだと思ったけれど、近くで見てみればそうでもなかった。
彼は、アンディとは違って筋肉質ではないし、何より立ち姿からして気品に溢れている。
そして、第三王子殿下と会った時には感じられなかった、威厳があったのだ。
そんな彼を前にして、背筋がすっと伸びると同時に、手のひらにじっとり汗が滲んでくる。
私に目を向けた彼の瞳は、アンディと同じ黒色だったけれど、底しれない深さがあるように思えた。それは、まるで、全てを見透かしているような━━
そんな風に感じてすっかり緊張してしまった私に、彼は優しく微笑みかけてくれた。
「はじめまして。グレアム・デュランデムです」
第二王子殿下が挨拶をしてくれて、私も慌てて名乗る。
「はじめまして。シアリーズ・カルベーラです。突然の訪問にも関わらず、お時間を作っていただき、ありがとうございます」
そう言って私はフェイに目をやった。
察しの良い彼女はすぐに理解をしてくれて、第二王子殿下にフルーツの入った籠を差し出す。
「美味しそうだね。後で一緒に食べよう」
彼は笑うと、従者に籠を渡した。
「それにしても、まさか、昨日の今日で夫人を連れてきてくれるなんて、思ってもみなかった。それもナナシちゃんと一緒にね」
第二王子殿下はアンディに向けてニヤリとした笑みを向けた。途端にアンディは顔を顰める。
「ナナシちゃんって、もしかして?」
私が小さな声でフェイに尋ねると彼女は頷いた。どうやら、フェイのあだ名らしい。
「シアが、お前に挨拶をしたいと言うから」
アンディが殿下に向かって言った。
「そうか尻に敷かれているのか。それは、良いことだ」
殿下は、あははと声に出して笑うと、最初に感じた彼の威厳はどこかへと消え去った。
「具体的な話は部屋で聞かせてもらうよ」
彼はそう言うと、私達を応接室へと案内した。
部屋に入ると、アンディはすぐにソファーに陣取った。よりにもよって、家主である第二王子殿下が座る前に。
「ちょっと、アンディ。失礼よ」
小声で彼を諭していると、第二王子殿下は笑った。
「いいんだよ。そこはアンドリューのお気に入りの定位置なんだから。夫人も彼の隣りに座るといい」
私は勧められるがまま、彼の隣りに座った。
第二王子殿下は、私達の対面のソファーに腰を掛けると、侍従に飲み物を持って来るようにと伝えた。
その間、最後に残されたフェイはどこに座るべきかと悩んでいるようだった。選択肢は、一人掛けの椅子か、私の隣りになるのだけれど、彼女は私の隣りを選んだ。
その様子を見つめていた殿下の瞳は、研ぎ澄まされているように感じて、気を抜けない人だと思った。
次の日の朝、私達は第二王子殿下のいるという宮殿に向かうべく準備を進める。
突如として現れたフェイを、アンディの部下達はあっさりと受け入れてしまった。治癒士としてのフェイは、神出鬼没な人と思われているそうで、急に現れて行動を共にすることにも彼らは慣れてしまっているそうだ。
フェイは昨日の夜に買ったフルーツの盛り合わせを腕に抱くと、私達の馬車にいの一番に乗った。
それを見た彼らは、流石に面を食らっていた。
「夫人がいるのに同乗するってマジか……」
私が馬車に乗り込む間際に、そんなつぶやきが聞こえてきた。彼らにまで、フェイがアンディの恋人と誤解されていると知って、胸がチクリと痛んだ。
━━どうにかして、誤解を解きたいわ。
夫と友達が恋仲だと思われている現状は、やっぱり落ち着かない。
そう思いながら、アンディの隣りに座ると、フェイが腕を組んだ。
「シアの隣りは私だって、いつも決まってたのに」
それを聞いたアンディは私の肩に腕を回した。
「悪いな。俺達は夫婦だから」
わざわざそう言ってアピールされて、私は気恥ずかしさとともに、ほんの少しの喜びを感じた。
「シアも嬉しそうなのが、腹が立つわ。昨日まで不仲だったくせに」
フェイは空中にでこピンを決めた。
それを見て、でこピンはフェイのお仕置きだったと思い出した。
━━懐かしい。
こうやって、三人でふざけ合うのが、私達にとっての当たり前の日常だった。
この幸せがずっと続くようにと願いながら、私は彼らと笑い合う。
「あら、もう着くんじゃない?」
窓の外を見たフェイが言った。
「そうだな。もうすでにあいつの宮の敷地に入っている」
「え!?」
私は窓に手をついて外を見た。
舗装された道路は、均等に配置された街路樹や街灯、ベンチがあって、公道にしか見えない。
「衛兵はいないの?」
「もう少し先だな。あそこの門の前にいる」
アンディの言う通り、門の前には衛兵がいて、馬車は一度止められた。
衛兵はアンディの顔を見ると、すぐに中へと通してくれた。
王族の住む宮殿に入るのだから、厳正に荷物のチェックをされるのだと思っていたけれど、拍子抜けだった。
それから、馬車は10分程走ってから、止まった。
「着いたぞ」
アンディは馬車から降りると、私とフェイをエスコートして降ろした。
「これが、人間の住処の最上級なのよね?」
フェイはキョロキョロと辺りを見回しながら言った。
「うん、そうだね」
私は返事をしつつ、辺りを観察する。
白い大理石の床に、レッドカーペット。庭の花々はしっかりと整えられている上に、噴水や彫像が嫌味なく置かれている。
いかにも、王族の城って感じだ。
辺りを見渡しながら、そんなことを考えていると、宮殿の奥から、背が高く、浅黒い肌をした黒髪の男性が出てきた。
━━アンディ?
遠目で見た時は、一瞬アンディと見紛う程のそっくりさんだと思ったけれど、近くで見てみればそうでもなかった。
彼は、アンディとは違って筋肉質ではないし、何より立ち姿からして気品に溢れている。
そして、第三王子殿下と会った時には感じられなかった、威厳があったのだ。
そんな彼を前にして、背筋がすっと伸びると同時に、手のひらにじっとり汗が滲んでくる。
私に目を向けた彼の瞳は、アンディと同じ黒色だったけれど、底しれない深さがあるように思えた。それは、まるで、全てを見透かしているような━━
そんな風に感じてすっかり緊張してしまった私に、彼は優しく微笑みかけてくれた。
「はじめまして。グレアム・デュランデムです」
第二王子殿下が挨拶をしてくれて、私も慌てて名乗る。
「はじめまして。シアリーズ・カルベーラです。突然の訪問にも関わらず、お時間を作っていただき、ありがとうございます」
そう言って私はフェイに目をやった。
察しの良い彼女はすぐに理解をしてくれて、第二王子殿下にフルーツの入った籠を差し出す。
「美味しそうだね。後で一緒に食べよう」
彼は笑うと、従者に籠を渡した。
「それにしても、まさか、昨日の今日で夫人を連れてきてくれるなんて、思ってもみなかった。それもナナシちゃんと一緒にね」
第二王子殿下はアンディに向けてニヤリとした笑みを向けた。途端にアンディは顔を顰める。
「ナナシちゃんって、もしかして?」
私が小さな声でフェイに尋ねると彼女は頷いた。どうやら、フェイのあだ名らしい。
「シアが、お前に挨拶をしたいと言うから」
アンディが殿下に向かって言った。
「そうか尻に敷かれているのか。それは、良いことだ」
殿下は、あははと声に出して笑うと、最初に感じた彼の威厳はどこかへと消え去った。
「具体的な話は部屋で聞かせてもらうよ」
彼はそう言うと、私達を応接室へと案内した。
部屋に入ると、アンディはすぐにソファーに陣取った。よりにもよって、家主である第二王子殿下が座る前に。
「ちょっと、アンディ。失礼よ」
小声で彼を諭していると、第二王子殿下は笑った。
「いいんだよ。そこはアンドリューのお気に入りの定位置なんだから。夫人も彼の隣りに座るといい」
私は勧められるがまま、彼の隣りに座った。
第二王子殿下は、私達の対面のソファーに腰を掛けると、侍従に飲み物を持って来るようにと伝えた。
その間、最後に残されたフェイはどこに座るべきかと悩んでいるようだった。選択肢は、一人掛けの椅子か、私の隣りになるのだけれど、彼女は私の隣りを選んだ。
その様子を見つめていた殿下の瞳は、研ぎ澄まされているように感じて、気を抜けない人だと思った。
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