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本編3
32 聖女の結婚
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「おめでとう。ジェシカ」
声をかけると、ジェシカは照れ笑いを浮かべた。
「ありがとうございます。お姉様」
「早くあなたの花嫁姿が見たいわ」
「私も早く式を挙げたいんですけどね」
お父様が処罰を受けたこともあって、ジェシカとカーライル殿下の結婚は今すぐにというわけにはいかなかった。
二人の結婚を認めてくれた両陛下は、「3年間待つこと」という条件を付けたそうだ。
「でも、3年なんてきっとあっという間よ?」
「そうですね。これから忙しくなりそうですから」
ジェシカは爵位を剥奪されたお父様に代わって、公爵の爵位と領地を授かった。
これからジョルネス公爵領の統括と経営をしないといけないことを考えると、むしろ結婚を後ろ倒しにできて良かったのではないかと思う。
「そうだ、お姉様。返さなきゃいけない物がありました」
ジェシカは使用人から宝石箱を受け取ると、それを開けて中身を見せてきた。
「お姉様のダイヤのネックレスとイヤリング。今までバタバタしていて返せなくてごめんなさい」
そう言って私に手渡そうとしたけれど、私はそれを受け取らなかった。
「もう少し、あなたが持っていてくれない?」
「え?」
私の提案にジェシカは戸惑っていた。彼女は私とアンディの顔を交互に見つめる。
「あなたさえ良ければ、結婚式でこのネックレスとイヤリングをつけて欲しいと思うの」
お父様があんなことになった今、ジョルネス公爵家は多方面に賠償金を支払わなければならず、家計は火の車だった。そんな中で、結婚式のために新たに装飾品を買うことは難しいだろう。
私は妹に不憫な思いをしてしまうような形で結婚式に臨んで欲しくなかった。不安を抱えたまま結婚すると、一時の私達のように夫婦関係がギクシャクしてしまうような気がする。
遠慮がちに私を見るジェシカにカーライル殿下は優しく声をかけた。
「受け取ろう。お姉さんからの愛情だよ」
その一言で彼女の表情が変わった。晴れやかに笑うと、静かに頷いた。
「ありがとうございます。お姉様。このお礼は何をすればいいのでしょう?」
「いいのよ。ジェシカに使ってもらえたら、ジュエリーに良い思い出が付くから。それで充分」
そう言うと、ジェシカの表情が変わった。真剣な顔で、アンディに視線を向ける。
「お義兄様」
「ん?」
話を振られるとは思っていなかったアンディは、少し驚きつつも、飲んでいたワインをテーブルに置いた。
「お義兄様はどうして、お姉様にこのダイヤのジュエリーを贈ったのですか」
アンディは困ったように笑った。
「どうしてって……。ダイヤは結婚式の定番の宝石だから」
「でも、もっとお安い物でも良かったはずですよ? それに、二つもプレゼントされるだなんて……」
アンディは怪訝そうな顔で首を傾げた。
「愛する人の晴れ舞台に、少しでも良い物を身に付けさせたいと思うのは当然なんじゃないか」
「じゃあ、お義兄様は、やっぱりお姉様のことを想って贈ったのですね」
「……当然だ」
彼は照れてしまって、視線が左右に揺れている。
それがおかしくて、私は笑ってしまった。
アンディは私を睨み付けた。そんな表情も今は愛おしい。
「ありがとう」
私の言葉に彼は反応しない。むすっとして、遠くを見つめるだけだ。
代わりに応えてくれたのはジェシカだった。
「私も幸せになって、このジュエリー達に箔をつけますから」
「まあ! ネックレスとイヤリングは、幸福のジュエリーだって、子孫に代々語り継ぐつもりだったから、とても助かるわ」
半分茶化して言うと、私とジェシカは笑い合った。
その様子を見ていたグレアム殿下は、カーライル殿下に向けてにっと笑った。
「あの装飾品に負けないようなドレスとティアラを探すのは大変だろうな」
冷やかすグレアム殿下に対して、カーライル殿下は冷静だった。もしかしたら、彼は既に準備をしているのかもしれない。何となくそんな気がする。
何を準備しているのかと尋ねようかと思ったけれど、やめた。それは、結婚式の当日の楽しみに取っておくことにしたのだ。
そんなこんなで、私達は穏やかなパーティーの時間を過ごした。楽しい時間はあっという間で、気が付けば、別れの時間になっていた。
私とアンディは、明日王都を発ち、領地に向かうから、しばらく三人に会えなくなる。そう思うと、寂しさが込み上げてきた。
「皆さん、どうかお元気で」
私の言葉に、アンディも続いてお礼を述べる。
「今日は楽しい時間を過ごせて嬉しかった。次に会う、結婚式の時を夫婦共々楽しみにしているよ」
彼にしては気の利いたセリフ。それに感心をしながら、私も頷いた。
そして、ジェシカと別れのハグをすると、私と彼は、馬車に乗った。
道中、寂しさを堪えながら、窓の外を見ていると、隣りに座ったアンディが手を握ってきた。
「なあ、シア」
柔らかな口調に反して、彼の瞳には力が籠もっているように思えた。
「なぁに?」
アンディは一度視線を外したかと思うと、再び私の目をじっと見た。
「俺達も、もう一度、結婚式を挙げないか」
「え?」
思ってもみない提案。
その意図が分からず戸惑うと、彼は困ったように笑った。
「俺達の結婚式でシアは幸せな気持ちを感じられなかっただろう?」
「それは……」
あの頃は、アンディが私を迎えに来たとも知らず、彼を騙さないといけないという後ろめたい気持ちを抱えていた。それがアンディの目にどういう風に見えていたのかなんて、考えたこともなかった。
「シア」
彼に呼ばれてはっとする。
「あの頃のお前を責めたいわけじゃない。俺は今日、ジェシカ嬢とカーライル殿下の様子を見て、うらやましいと思ったんだ」
「アンディ……」
「また、貴族のお偉い方を呼んで盛大に、とは言わない。大切な人達の前で、俺達の未来を誓い合いたいんだ」
私は頷いた。
「それなら、ジェシカの結婚式が終わった後にしましょう。領民やあなたの部下達に慕われる領主の妻となった時に……」
「その後は、フェイ達妖精の前で、式を挙げようか」
彼の提案に、私は笑顔で承諾した。
遠くない未来の、その日を思って、私は彼とぎゅっと抱き合った。
『偽りの聖女の身代わり結婚』了
声をかけると、ジェシカは照れ笑いを浮かべた。
「ありがとうございます。お姉様」
「早くあなたの花嫁姿が見たいわ」
「私も早く式を挙げたいんですけどね」
お父様が処罰を受けたこともあって、ジェシカとカーライル殿下の結婚は今すぐにというわけにはいかなかった。
二人の結婚を認めてくれた両陛下は、「3年間待つこと」という条件を付けたそうだ。
「でも、3年なんてきっとあっという間よ?」
「そうですね。これから忙しくなりそうですから」
ジェシカは爵位を剥奪されたお父様に代わって、公爵の爵位と領地を授かった。
これからジョルネス公爵領の統括と経営をしないといけないことを考えると、むしろ結婚を後ろ倒しにできて良かったのではないかと思う。
「そうだ、お姉様。返さなきゃいけない物がありました」
ジェシカは使用人から宝石箱を受け取ると、それを開けて中身を見せてきた。
「お姉様のダイヤのネックレスとイヤリング。今までバタバタしていて返せなくてごめんなさい」
そう言って私に手渡そうとしたけれど、私はそれを受け取らなかった。
「もう少し、あなたが持っていてくれない?」
「え?」
私の提案にジェシカは戸惑っていた。彼女は私とアンディの顔を交互に見つめる。
「あなたさえ良ければ、結婚式でこのネックレスとイヤリングをつけて欲しいと思うの」
お父様があんなことになった今、ジョルネス公爵家は多方面に賠償金を支払わなければならず、家計は火の車だった。そんな中で、結婚式のために新たに装飾品を買うことは難しいだろう。
私は妹に不憫な思いをしてしまうような形で結婚式に臨んで欲しくなかった。不安を抱えたまま結婚すると、一時の私達のように夫婦関係がギクシャクしてしまうような気がする。
遠慮がちに私を見るジェシカにカーライル殿下は優しく声をかけた。
「受け取ろう。お姉さんからの愛情だよ」
その一言で彼女の表情が変わった。晴れやかに笑うと、静かに頷いた。
「ありがとうございます。お姉様。このお礼は何をすればいいのでしょう?」
「いいのよ。ジェシカに使ってもらえたら、ジュエリーに良い思い出が付くから。それで充分」
そう言うと、ジェシカの表情が変わった。真剣な顔で、アンディに視線を向ける。
「お義兄様」
「ん?」
話を振られるとは思っていなかったアンディは、少し驚きつつも、飲んでいたワインをテーブルに置いた。
「お義兄様はどうして、お姉様にこのダイヤのジュエリーを贈ったのですか」
アンディは困ったように笑った。
「どうしてって……。ダイヤは結婚式の定番の宝石だから」
「でも、もっとお安い物でも良かったはずですよ? それに、二つもプレゼントされるだなんて……」
アンディは怪訝そうな顔で首を傾げた。
「愛する人の晴れ舞台に、少しでも良い物を身に付けさせたいと思うのは当然なんじゃないか」
「じゃあ、お義兄様は、やっぱりお姉様のことを想って贈ったのですね」
「……当然だ」
彼は照れてしまって、視線が左右に揺れている。
それがおかしくて、私は笑ってしまった。
アンディは私を睨み付けた。そんな表情も今は愛おしい。
「ありがとう」
私の言葉に彼は反応しない。むすっとして、遠くを見つめるだけだ。
代わりに応えてくれたのはジェシカだった。
「私も幸せになって、このジュエリー達に箔をつけますから」
「まあ! ネックレスとイヤリングは、幸福のジュエリーだって、子孫に代々語り継ぐつもりだったから、とても助かるわ」
半分茶化して言うと、私とジェシカは笑い合った。
その様子を見ていたグレアム殿下は、カーライル殿下に向けてにっと笑った。
「あの装飾品に負けないようなドレスとティアラを探すのは大変だろうな」
冷やかすグレアム殿下に対して、カーライル殿下は冷静だった。もしかしたら、彼は既に準備をしているのかもしれない。何となくそんな気がする。
何を準備しているのかと尋ねようかと思ったけれど、やめた。それは、結婚式の当日の楽しみに取っておくことにしたのだ。
そんなこんなで、私達は穏やかなパーティーの時間を過ごした。楽しい時間はあっという間で、気が付けば、別れの時間になっていた。
私とアンディは、明日王都を発ち、領地に向かうから、しばらく三人に会えなくなる。そう思うと、寂しさが込み上げてきた。
「皆さん、どうかお元気で」
私の言葉に、アンディも続いてお礼を述べる。
「今日は楽しい時間を過ごせて嬉しかった。次に会う、結婚式の時を夫婦共々楽しみにしているよ」
彼にしては気の利いたセリフ。それに感心をしながら、私も頷いた。
そして、ジェシカと別れのハグをすると、私と彼は、馬車に乗った。
道中、寂しさを堪えながら、窓の外を見ていると、隣りに座ったアンディが手を握ってきた。
「なあ、シア」
柔らかな口調に反して、彼の瞳には力が籠もっているように思えた。
「なぁに?」
アンディは一度視線を外したかと思うと、再び私の目をじっと見た。
「俺達も、もう一度、結婚式を挙げないか」
「え?」
思ってもみない提案。
その意図が分からず戸惑うと、彼は困ったように笑った。
「俺達の結婚式でシアは幸せな気持ちを感じられなかっただろう?」
「それは……」
あの頃は、アンディが私を迎えに来たとも知らず、彼を騙さないといけないという後ろめたい気持ちを抱えていた。それがアンディの目にどういう風に見えていたのかなんて、考えたこともなかった。
「シア」
彼に呼ばれてはっとする。
「あの頃のお前を責めたいわけじゃない。俺は今日、ジェシカ嬢とカーライル殿下の様子を見て、うらやましいと思ったんだ」
「アンディ……」
「また、貴族のお偉い方を呼んで盛大に、とは言わない。大切な人達の前で、俺達の未来を誓い合いたいんだ」
私は頷いた。
「それなら、ジェシカの結婚式が終わった後にしましょう。領民やあなたの部下達に慕われる領主の妻となった時に……」
「その後は、フェイ達妖精の前で、式を挙げようか」
彼の提案に、私は笑顔で承諾した。
遠くない未来の、その日を思って、私は彼とぎゅっと抱き合った。
『偽りの聖女の身代わり結婚』了
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