大東亜戦争小噺

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南雲さん

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岩本一行は米軍の攻撃がはじまる前に瑞鶴に着艦していた。
原司令は無事帰還した一行を笑顔で迎えた。
 「よく無事に帰ってきてくれた うんうん」
索敵の3人の肩をがっしりと掴んで労っていた。
 「岩本一飛曹 よくやってくれた賞賛に値する」
 「ありがとうございます」
岩本は敬礼した。
 「うむ」
原司令は答礼した。
そこへ艦橋から通信参謀大谷少佐が2航が米軍機の攻撃を受けている
ことを大声で甲板上の原司令に報告した。
前方をみれば彼方の空に高角砲の弾幕が見える。
 「解散!! 対空対潜警戒を厳にせよ」
原司令は駆け足で艦橋へのラッタルを駆け上っていった。
原司令の一声でその場にいた隊員達はこれも駆け足で配置についていった。
解散する時八重樫、姫石、水野の3名は岩本に対して敬礼し
 「「「岩本一飛曹 ありがとうございました」」」
岩本は微笑みながら答礼して整備班長のもとへ駆け足で去っていった。
 「班長 すぐ飛べる機体はあるかい」
 「ありますよ 予備機ですが」
 「おお 出してくれ」
岩本が飛行甲板にあがると下田飛行長が近寄り
 「岩本 お前 上空警戒にあたってくれ ねずみが飛び込んで
  くるかもしれんからな」
 「はっ 岩本一飛曹 上空警戒にあたります」

 「もっと弾幕をはれジャップを近づけるな」
"ドン ドン ドン” ”ドドドドドド”
5インチ砲の砲撃の合間に28mm4連装機銃がアイスキャンディーを放つ。
 「提督 左右から雷撃機が迫ってきています」
 「くっ 兎に角撃ち落とせ 最大船速で躱せ」
”ガリ ガリッ バン バンッ”機体のどこかが被弾した。
何気に顔を右に向けると主翼に柘榴のような穴が2つ空いていた。
笠島飛行兵曹は薄笑いを浮かべた。 死ぬという恐怖はない。
ただ任務を全うするのみそれしか頭の中に思い浮かばなかった。
 「死んでたまるかよ」
奥歯を噛みしめた。 エンタープライズとの距離800mm。回避まで10秒もない・・・
 「てっー」
”チャポン” 魚雷が海面に投下された音がした。
”グワーーン”
軽くなった機体が一気に上昇する。
”ズズズー-ン”
エンタープライズの両舷から水柱が立ち上がったと同時に一瞬船体が持ち上がった。
 「被害状況は?」
 「右舷中央と艦尾に1発づづ 左舷艦尾に一発に命中です」
 「左舷 スクリューをやられたようです」
 「くっ これじゃ逃げきれんな」
上空で戦況を観察していた江草少佐は自慢のカイゼル髭をひと撫で。
 「雷撃隊 やりおったな」
 「でわ 我々も続こうかい」
バンクを振る”突入せよ”
江草隊はさながら一本の紐のようにエンタープライズ目掛けて急行下する。
高度400mm・・・・
 「投弾 てっー」
投弾索を引いた。 4発の50番が放たれた。
”ザザザザッー” 
”ドーン ドーン ドーン ザザーン”
消化作業中の兵員の真上に50番が落ちさらに船底付近で爆発キールがへし折れ
エンタープライズは瞬く間に海上から消え去った。
 「ビル~ ああ なんてことだ エンタープライズが撃沈された」
重巡ノーザンプトンの艦橋でスプルーアンスは呆然としていた。

 「南雲司令 2航と5航がエンタープライズを撃沈」
 「ほう やったか さすが多門とコングだなw」
 「我々も負けていられない レキシントンを叩きましょう」
源田が鼻の穴を広げていった。
(レキシントンの位置は我々から1000海里以上の洋上にいたはず・・・)
 「艦長 C点の方向へ進んでくれ」
 「はっ」
 「ケツに火が付く前にここから離れる」
 「司令 真珠湾の基地は我々の攻撃で機能不全の状態でわありませんか
  何を恐れているのですか」
 「米国本国から真珠湾に向かっている艦艇や航空機
  潜水艦とBー17だな」
 「潜水艦はともかく爆撃機など戦闘機で撃ち落とせはいいだけでしょ」
 「源田 搭乗員は単発の航空機の戦闘には慣れているが双発や4発の
  航空機の戦闘は未経験だ 射程距離を見誤って無駄弾を撃つだけだ」
 (こいつは戦闘経験は皆無なのに航空機の第一人者を気取っていやがる
  から始末におえん 源田 お前はいらない子なんだよ)
 「対潜対空警戒しつつC点へ」
 「よーそろ~」
 「しかし 司令・・・」
いいかけた源田を淵田が”まぁまぁ”と間に入って源田をなだめた。

”ガー ゴー ドンドン ガガガー チュドーン ザバーンッ”
蒼龍と飛龍の周りは敵味方の殺意が交差した修羅場と化していた。
 「おとせー 近づけさせるな 2時方向 3千 撃てー」
蒼龍右舷高角砲指揮官長友少尉はあらん限りの声で叫んだ。
 「弾薬を 弾がきれるぞー はやく持ってこい」
怒号と罵声が飛び交っていた。
エンタープライズから発艦した攻撃隊・・・ F4Fは戦闘初期早々と零式に落とされていった。
残るTBDとSBDはどうにか連携をしようと蒼龍と飛龍に襲い掛かるも気持ちははやって
有効な攻撃ができず次々に撃ち落とされていった。
 「対空砲火がちっともあたっておらんな」
山口少将がぼやいた。
 「演習でも数発しか打てませんし駆逐艦のほとんどは対空装備がないか貧弱ですから」
航空参謀の橋口少佐がポツリといった。
 「トンボ釣りは所詮トンボ釣りか・・・」
 「そのかわり零式が頑張っております」
 「うむ そうだな」
その時 対空監視員から悲鳴に似た叫び声がした。
 「敵機 直上 」
艦橋内の全員が見えもしないのに顔を上にあげた。
”グワー ドーン”
蒼龍は一瞬震えた・・・ SBD一機が自爆した。
 「被害状況は?」
 「エレベーターが破壊されました 昇降不能です」
甲板上では。
 「消化急げ 艦を守れ 急げ」
アメリカ海軍のようにダメコンを持たないため消火活動がもたついていた。
それを見ていた山口は顔をしかめて。
 「さつさと火を消さんか なにやっているんだ」
 「司令 わが海軍は将棋でいえば香車です攻めることを重視しすぎ
  守りを軽視しているからでしょう 守りが下手なんです」
山口は俺に対する嫌味かと思ったが橋口の真摯な表情をみて思い直した。
 「こりゃ 長官に一言いわんといかんな 橋口よ」
 「はい そう思います」
蒼龍と飛龍の周りはいつの間にか戦闘は終息していた。

 「蒼龍が被弾しただと 被害は?」
 「エレベーターが損傷とのことです」
 「人的被害は軽微だとのことです」
 「そうか 山口少将は無事か うんうん」
原少将は安堵した。
岩本は蒼龍に自爆したSBDを視界の隅で見ていた。
搭乗員の勇敢な行動を認めつつも賛成はできない思いだった。
命は一つたった一回の戦で失うのは愚かな行為だと・・・
南雲司令が言っていた”宗滴”にならねばいけないと改めて肝にめいじた。
 「ん?!」
瑞鶴の左舷方向に灰色の物体が1機迫っていたにを視認した。
 「なんだ あれは 敵のTBDか!」
 「まずい 瑞鶴対空要員は気づいていない」
岩本は操縦桿を倒し急降下で迎撃にむかう。

 「しめしめ ジャプの野郎 気づいていないな 一発喰らわしてやるぜ」
 「ファック」
TBDから魚雷が投下された。
 「左舷 敵機 雷撃機です」
見張り要員がようやく気付いて叫ぶ。
 「取舵 急げ」
 「くっ 間に合わなかったか」
 「ははは あばよ ジャップ」
瑞鶴はその巨体を左に捻るように進む・・・。
瑞鶴から魚雷めがけて銃撃するが魚雷は瑞鶴に迫ってくる。
 「当たるぞ 衝撃に備えろー」
”ゴンッ”
魚雷は瑞鶴に命中したが・・・ 不発だった MK魚雷は信管に直角に衝撃が
加わらないと爆発しない初期不良があった。
瑞鶴はその欠陥に救われたかたちになった。
 「不発だー 助かった ワァー」
 「おお 瑞鶴は好運艦だ~」
 「シット 不発だと くそくそ」
”ドドド ドドド”
20mmがTBDを撃ち抜く。
”バンバン バリバリ”
TBDは空中分解して搭乗員もろとも海面に落ちていった。
 「ふ~ 不発でたすかったぜ」
岩本は安堵してまた周囲を警戒しつつ瑞鶴の上空を飛ぶ。



 


 
  


 




 








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