【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

文字の大きさ
26 / 70

第12話 ②

しおりを挟む
「……む。これはすごいな」

「うわぁ……。店の裏にこんな大きな温室があるなんて思わなかったよ」

 ガラスの天井から降り注ぐ光が花畑を照らし、鮮やかな色の花々が咲き誇る光景は幻想的だ。この光景が好きだから、私はこの場所から離れたくなかったのだ。

「アンさん、色々見せて貰っても構わないかな?」

 好奇心が刺激されたのだろう、ヘルムフリートさんが興奮気味に聞いてきた。

「はい、どうぞ自由にご覧ください。私はお茶を用意してきますね」

「む。手伝おう」

「いえいえ! 良ければジルさんもゆっくり見て行って下さい。あ、あちら側に鉢植えも置いていますよ」

 ジルさんからの申し出をやんわりと断った私は、お茶の用意をしにキッチンへと向かう。
 お湯を沸かしている間に買い物の荷物を片付けて、お茶菓子のプレッツヒェンを用意する。

 トレーにカップを載せ、温室へ向かおうとした私のもとへ、ヘルムフリートさんが慌てて駆け込んできた。

「ちょ、ちょっとアンさん!! あの花は一体どうしたの?!」

「え? え??」

 何のことかわからない私に、ヘルムフリートさんが「取り敢えずこっちに来てくれる?」と、私の手を取って温室へと急ぐ。

 私が連れて行かれたのは鉢物が置いてある区画で、そこにはジルさんがいた。
 ジルさんはこちらに顔を向けると、私達を見て顔をしかめる。

(あれ? 何かジルさん怒ってる……?)

 ジルさんが立っていた場所は、マイグレックヒェンの鉢の前だった。

「アンさん、この花ってマイグレックヒェンだよね?」

「あ、はい、そうですけど」

「どうして蕾の色が違うの? この花は本来紫色だったはずだよね?」

「えっと、私もそう思っていたんですけど、何故か白い花が咲いてしまって……」

「え、白……?!」

 ヘルムフリートさんがものすごく驚いている。っていうか、ヘルムフリートさんもマイグレックヒェンを知っていたことに私も驚いた。

(北の方の花だし、この国では知っている人は少ないのに)

「アンさんお願いがあるんだ!! この花を僕に譲ってくれないかな?! 言い値を払うよ!!」

「えっ!? 言い値って……! あ、でも、この花には毒がありますよ?!」

 マイグレックヒェンには花にも葉にも茎にも全てに毒があるから、そのまま渡しても良いかどうか迷ってしまう。

「それがね、どうやらこの白いマイグレックヒェンには毒がないみたいなんだ」

「えっ?!」

 私がキッチンに行った後、花畑の方を見ていたヘルムフリートさんが、何かを見ているジルさんに気付き近寄ってみると、白いマイグレックヒェンが置いていてすごく驚いたのだそうだ。

「思わず手で直に触ってしまったんだけど、身体防御の術式が発動しなかったんだよ」

 魔術師団長であるヘルムフリートさんは、自己防衛のために常時いくつかの術式で自分の体を守っているのだと教えてくれた。
 その術式の中には危険なものに触れると自動で発動するものもあるらしい。

「それが発動しなかったってことは、この花には毒がないということになるんだ」

 更にヘルムフリートさんは「食事中に突然術式が発動する時があって驚くけどね」、と恐ろしいことをサラリと笑顔で言った。

 ……どうやら陰謀渦巻くドロドロの愛憎劇が王宮で繰り広げられているらしい。

「毒がないのなら、お譲りするのは構いませんけど」

「本当?! 有難う!! 色々説明したいところなんだけど、急いで戻らなきゃいけないんだ!! 僕はこれで失礼するよ! あ、ジギスヴァルト! 悪いけど馬車を借りるね!」

 余程急いでいたのだろう、ヘルムフリートさんは言うだけ言うと、マイグレックヒェンの鉢を抱えて温室から出ていってしまった。

「…………」

「…………」

 あっという間の出来事に、思わずポカーンとするけれど、私は残されて困惑しているであろうジルさんに問い掛ける。

「……あの、よければお茶を如何ですか?」

「いただこう」

 誘いに乗ってくれたジルさんにほっとしつつ、私は気を取り直してお茶の準備をするのだった。
 


* * * * * *


❀名前解説❀
プレッツヒェン→クッキー
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。

専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに

櫛田こころ
ファンタジー
『箱庭』に幽閉されている第六王女のエルディーヌ。彼女の国には魔法の根源に『贄姫』が必要とされているため、何代かおきに魔力の高い姫を捧げる習わしがある。 かなり幼い頃から生活していたため、衣食住も自分ですることにも文句を言わない彼女の庭に変化が。 国が他国に攻め入ったということで王族は皆捕らえられ、エルディーヌの箱庭も壊されてしまう。あとは死ぬだけ……のところに、騎士らしき男性に保護される。 『贄姫か?』の問いに頷くと、『ここから出してあげる』と連れ出されてしまう。 外を知らないエルディーヌを連れ出したのは、シュディス帝国の騎士団長のジェイク。贄姫だったエルディーヌを利用し、魔法を我が物にしようと思ったのだがそうではなかった。 『箱庭』は美しいところに見せかけて、地底では世界を脅かす『呪い』そのものになっていたのだと。 その呪いから解放を目指すだけでなく、ひとりの人間としての扱いをしてくれるやさしさに……心の枷がほどけ、惹かれてしまうのも無理ないが。呪われている自分へ負い目を感じ、なかなか素直にはなれないでいた。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

処理中です...