愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏

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第十三話「日緋色」

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 スターク様と過ごす時間が甘美であればあるほど、ヴィーンゴールドの家で過ごしていた時間が、罵られ、憎まれ、蔑まれ続けていた記憶が、その証である赤銅の髪の存在がわたしを苛むのだ。
 ぎゅっ、と頭巾の裾を握りしめて、小さく俯く。
 わたしがわたしでいる限り、この呪いは解けることはない。ピースレイヤー領が抱えている事情が事情だから社交の場には出なくて済んでいるけれど、一度貴族たちの前にわたしが姿を現せば、物笑いの種になってしまう。

 それがとても悔しかった。悲しかった。
 スターク様はとても素敵なお方なのに、わたしの存在が、忌み子という事実が、傷をつけてしまう。

「……思えば、一目惚れだった」

 スターク様はカップを置くと、厳かにそう呟く。

「……一目惚れ、ですか?」
「そうだ。君の美しい髪に……俺は心を奪われたのだ、リリアーヌ」
「……冗談はおよしください、わたしの髪は……赤銅の髪は、貴族の間では物笑いの種になる醜いものです。忌み子の、証です……」

 だから、頭巾を脱ぐことができないでいる。
 ピースレイヤー家の使用人たちは、この城塞に駐留している騎士たちは、わたしのことを陰で嘲笑ったりはしていないけれど、それでも一度頭巾を脱いで髪を露わにすれば、嫌悪を示されるかもしれない。
 それが怖かった。幸せを知った今だからこそ、余計に。

「リリアーヌ。君は『日緋色』という言葉を知っているか」
「……いえ、存じ上げません」
「だろうな。俺もそれを見るまでは知らなかった」

 日緋色。ヒヒイロ。
 頭の中で、スターク様の言葉をなぞる。
 まるで知らない言葉だったけど、なんだか不思議な響きを持っていると、そう感じた。

「東洋の言葉だ。明けの明星と宵の明星が輝く空に似た、そこに浮かぶ太陽に似た色を指す言葉だと、そして決して朽ちることなく太陽のように輝き続ける金属の名だと、かつて聞いたことがある」
「東洋の……」
「……俺は、日が昇る空も、日が沈む空も、同様に美しいと思う。燃えるように広がる朝焼けと夕焼けが空の青を塗り潰すのが、赤く……日緋色に染まった空こそが、最も美しい空だと、そう信じてやまない」

 スターク様はまだ青々と晴れ渡っている空を、そこに浮かぶ太陽を一瞥して、そう語った。
 朝焼けと夕焼けが美しいとはわたしも思う。
 そして、その色をこそ日緋色と呼ぶのだというのは初めて知ったことで、とても素敵な言葉だと思ったけれど、それと、わたしの髪がどう関係あるのだろう。

「リリアーヌ、君は自らの髪を赤銅と蔑んでいるが……それは間違いだ」
「えっ……?」
「……美しき日緋色。夜明けを告げる色にして、決して褪せることのない普遍の美しさを持つその言葉こそが、君の髪を……俺が一目で惚れたその美しさを飾るのに相応しい」

 赤銅などとは比べ物にならない、日緋色金。
 ブロンドの純金を遥かに超え、太陽のような輝きを放つ美しさを誇るのがわたしの髪なのだと、スターク様は静かながらも熱く、語って聞かせてくださった。
 日緋色。赤銅の、赤の呪いではなく、太陽の祝福。それがもし本当なのだとしたら、スターク様のお言葉を信じるのなら。

 わたしが最も忌み嫌っていたこの髪こそが、幸せを招いてくれたことになる。

「……あ……ぁ……スターク、様……」
「……そうだ。君の日緋色の髪は、誰がなんと言おうとも、世界で一番美しい。この俺が、スターク・フォン・ピースレイヤーがそれを保証しよう」
「……わたし、は……」

 はらり、と、被っていた頭巾が解ける。
 スターク様の優しい両手が、戒めを解くように、呪いを祓うように、わたしの頭を覆っていた頭巾を取り去ったのだ。
 着替え以外で髪を人前で露わにしたのは、いったいいつ以来だろう。それすら思い出せないほどに長い時間、わたしは。

「……やはり、美しいな」
「……醜くは、ないのですか……?」
「君の髪を赤銅に例える者は見る目がない。それほどまでに美しい。そうだな……そんな美しい髪を持つ妻を娶れたことを、誇りにさえ思うほどに」

 じわり、と、また一つ心に分厚く張っていた氷が、スターク様という光に照らされて溶け出していく。
 美しい。ただの一度もそう呼ばれたことがなかったこの髪を、スターク様は誇りだとさえ言ってくれた。
 それだけじゃない。わたしを見染めたきっかけこそこの髪だったとしても、本当にわたしに心奪われた理由は、生きているこの在り方なのだとさえ言ってくれたのだ。
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