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第十四話「頭巾の行方」
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ならば、わたしは。
わたしがその恩に、生まれて初めて向けてくれた嬉しさと幸せに報いる方法があるのなら。
解けた頭巾が風に煽られ、飛ばされていくのを見向きもせず、涙が溢れそうになるのを堪えて、真っ直ぐにスターク様の瞳を見つめる。
わたしのことを美しいと慈しんでくれたように、スターク様の瞳もまた、見つめ合うだけでお腹の底がきゅん、と甘く締め付けられるように優しく、そして凛々しい。
今からこの髪は、呪いの赤銅ではなく、祝福の日緋色だ。
そう意気込んだって、今まで嫌いで嫌いで仕方のなかったものをいきなり好きになるのは難しいけれど。
「……わたしもです。スターク様のようなお方と結ばれたことを、心の底より誇りに思います」
「光栄だ。そうだ……その目だ。書庫を見つけたときのように、錬金術で新しい道具を作ってきたときのように輝くその目こそ、そして人を慮ることができる優しさこそ、俺が愛するリリアーヌだ」
「……ぁ、愛……っ……!?」
すらすらとスターク様の口から飛び出してきた、あまりにスケールの大きな言葉に、頬が急激に紅潮していく。
そんな。愛してる、だなんて。
いけません、スターク様。わたしはまだ、愛のその前にある感情すら掴めずにいるのに、愛だなんて。
「ふっ……まだ、少しばかり刺激が強かったか」
「……も、もう! お戯れを!」
「戯れなどではない。だが……そうだな。少し急きすぎたのは確かだ。まず今するべきことは、君の誕生日を祝うことだからな」
スターク様がぱちん、と指を鳴らして給仕を呼びつけると、銀の盃を二つと、葡萄酒が詰められた瓶をトレイに乗せたエスティさんが無言で現れて、瓶の中身を盃に注いでから静かに去っていく。
「君ももう十六だ。ウェスタリアの法に則るのなら、一角の大人と言ってもいい」
「はい……」
「では、乾杯しよう。我が妻、リリアーヌ・エル・ピースレイヤーの素晴らしき誕生日と、この出会いをもたらしてくれた至高神と、その末裔たる神皇陛下に」
──乾杯。
この日初めて飲んだ葡萄酒の味は、なんだかとっても複雑だった。
まろやかなのにぴりりと辛いような、焼けた豆を飲み込んでしまったかのような喉を通る感触と、その余韻として舌先に香り、鼻に突き抜けていく濃厚な葡萄の匂い。これは、まるで。
甘酸っぱくて仄辛く、そして一度味わえば忘れがたい、恋の味だった。
「リリアーヌ、君に贈るものがある」
「……わたしに、ですか?」
「ああ。少しばかり地味なものかもしれないが……受け取ってほしい」
スターク様は懐からなにかを取り出すと、わたしの手にそれを握らせる。
掌の中に収まったそれは、ぼんやりと淡い光を放つ不思議な、魔力の鼓動を感じる青色の石だった。
「魂魄石、といってな。『暗闇の森』の奥地でしか産出されない、魔力の源になる石だ。宝石と比べれば見劣りしてしまうかもしれないが……君の錬金術に役立ててほしい」
穏やかな光を帯びたそれからは、微かにスターク様の体温が感じられた。
その事実にどぎまぎして心臓が早鐘を打つと、鼓動に相槌を打つかのように、魂魄石が静かに明滅する。
宝石と比べると地味だ、とスターク様は仰っていたけれど、とんでもない。
「ありがとうございます、スターク様。最高の贈り物です」
「それはなによりだ、では今一度」
『乾杯』
贈り物を受け取って、わたしは掲げた盃の縁と縁を軽くぶつけ合う。
さながら、ベーゼを交わすように。
優しく頬を撫でた春風が、祝福を囁くかのように吹き去っていく。頭巾の行方は、もう知る術もなかった。
わたしがその恩に、生まれて初めて向けてくれた嬉しさと幸せに報いる方法があるのなら。
解けた頭巾が風に煽られ、飛ばされていくのを見向きもせず、涙が溢れそうになるのを堪えて、真っ直ぐにスターク様の瞳を見つめる。
わたしのことを美しいと慈しんでくれたように、スターク様の瞳もまた、見つめ合うだけでお腹の底がきゅん、と甘く締め付けられるように優しく、そして凛々しい。
今からこの髪は、呪いの赤銅ではなく、祝福の日緋色だ。
そう意気込んだって、今まで嫌いで嫌いで仕方のなかったものをいきなり好きになるのは難しいけれど。
「……わたしもです。スターク様のようなお方と結ばれたことを、心の底より誇りに思います」
「光栄だ。そうだ……その目だ。書庫を見つけたときのように、錬金術で新しい道具を作ってきたときのように輝くその目こそ、そして人を慮ることができる優しさこそ、俺が愛するリリアーヌだ」
「……ぁ、愛……っ……!?」
すらすらとスターク様の口から飛び出してきた、あまりにスケールの大きな言葉に、頬が急激に紅潮していく。
そんな。愛してる、だなんて。
いけません、スターク様。わたしはまだ、愛のその前にある感情すら掴めずにいるのに、愛だなんて。
「ふっ……まだ、少しばかり刺激が強かったか」
「……も、もう! お戯れを!」
「戯れなどではない。だが……そうだな。少し急きすぎたのは確かだ。まず今するべきことは、君の誕生日を祝うことだからな」
スターク様がぱちん、と指を鳴らして給仕を呼びつけると、銀の盃を二つと、葡萄酒が詰められた瓶をトレイに乗せたエスティさんが無言で現れて、瓶の中身を盃に注いでから静かに去っていく。
「君ももう十六だ。ウェスタリアの法に則るのなら、一角の大人と言ってもいい」
「はい……」
「では、乾杯しよう。我が妻、リリアーヌ・エル・ピースレイヤーの素晴らしき誕生日と、この出会いをもたらしてくれた至高神と、その末裔たる神皇陛下に」
──乾杯。
この日初めて飲んだ葡萄酒の味は、なんだかとっても複雑だった。
まろやかなのにぴりりと辛いような、焼けた豆を飲み込んでしまったかのような喉を通る感触と、その余韻として舌先に香り、鼻に突き抜けていく濃厚な葡萄の匂い。これは、まるで。
甘酸っぱくて仄辛く、そして一度味わえば忘れがたい、恋の味だった。
「リリアーヌ、君に贈るものがある」
「……わたしに、ですか?」
「ああ。少しばかり地味なものかもしれないが……受け取ってほしい」
スターク様は懐からなにかを取り出すと、わたしの手にそれを握らせる。
掌の中に収まったそれは、ぼんやりと淡い光を放つ不思議な、魔力の鼓動を感じる青色の石だった。
「魂魄石、といってな。『暗闇の森』の奥地でしか産出されない、魔力の源になる石だ。宝石と比べれば見劣りしてしまうかもしれないが……君の錬金術に役立ててほしい」
穏やかな光を帯びたそれからは、微かにスターク様の体温が感じられた。
その事実にどぎまぎして心臓が早鐘を打つと、鼓動に相槌を打つかのように、魂魄石が静かに明滅する。
宝石と比べると地味だ、とスターク様は仰っていたけれど、とんでもない。
「ありがとうございます、スターク様。最高の贈り物です」
「それはなによりだ、では今一度」
『乾杯』
贈り物を受け取って、わたしは掲げた盃の縁と縁を軽くぶつけ合う。
さながら、ベーゼを交わすように。
優しく頬を撫でた春風が、祝福を囁くかのように吹き去っていく。頭巾の行方は、もう知る術もなかった。
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