ネコ耳ばすた~ず 1

七海玲也

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第一章 女王の婚約者

王城への旅立ち

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「レイヴぅ、帰ってきたにゃぁ」

 一仕事終え、泊まっている宿から外を眺めていると待ち人がようやく戻ってきた。

「ミィ!
 無事だったか!
 心配したぞっ!」

 オレが宿に戻ってくると置き手紙があり、無人島に行ってくると書いていた。
 人捜しの依頼をさせたのだが、どうやら大事になっていたらしい。
 椅子を蹴飛ばし抱き寄せると耳元で何度も良かったと繰り返した。

「ごめんにゃ、けどけど頑張って解決できたんだよ」

 人猫ワーキャットのミィが人間界に来て日も浅く、冒険に出るというのは心配でならなかった。

「こ、こ、これから……どうするにゃ?」

 何故だか固まった様子のミィがオレを引き離すと今後の行方を尋ねる。
 数日この海沿いのアヴァンに留まったいた為、そろそろ次の街に行くのもいいだろう。

「そうだな。
 この街でもオレ達のことはだいぶ広まったし。
 そろそろ、他のところにでも行ってみるか」

「そ、そう、そうだね。
 うん、そうしよう」

 俯き加減でしどろもどろになっているのを不思議に思ったが、理由を聞こうとするのを遮るように続けられた。

「そ、それじゃあわたし、シャワーでも浴びてこようかにゃ」 

「疲れただろうから、それがいい。
 オレは下で飯でも注文しておくよ」

 普段と様子が変わっていたのは、シャワーも浴びていない状態で抱きしめてしまった為だろう。
 納得し部屋を出ようとしたところで、ドアがノックされた。
 咄嗟に手を引きミィを見るが、困惑した表情で頷いたので開けてみる。

「失礼。
 あなた方が『ネコ耳バスターズ』で宜しいですか?」

 身なりの整った若い男が立っていた。
 成人したばかりであろう男を観察すると、腰には剣、胸の辺りに何やら紋章が刺繍されている。

 違わない旨を述べると男は勝手に部屋に入り紙を突き出して言い放った。

「マグノリア王国、メイル女王の命によりお迎えに参りました。
 私と共に王城までご同行願いたい」

 マグノリア王国、ここから歩いて数日行ったところにあり、美しい女王が治めていることで有名な国なのだが、そんなところまで噂が広まっているのならここを出ても良いと思う。
 しかし、まさか女王からの呼び出しとは。

「と、とにかく、わたしシャワーを浴びるから出て行って欲しいにゃ!」

 早く浴びたかったのか、シャワー室のドアを勢いよく閉めた為、王国兵と顔を見合わるしかなかった。

「まぁ、何だ。
 依頼を片付けたばかりなので、少し多目に見てくれ」

 とにかく部屋から出ようと、王国兵を伴い一階にある酒場で少し待つことにする。

「申し訳ないのだが出来る限り急いで頂きたい。
 街の外で待っておりますので」

 食事をしながら話でも聞こうと思ったのだが、言いたいことだけ話した兵士は顔も合わさずそそくさと出て行ってしまった。
 そんなに急ぎとはどんな用なのか気になるところではあった。

「待ったかにゃ?
 ご飯は?」

 色々考えていると、先程とは変わっていつもの様子でミィが降りてきた。
 これにはオレも気にすることなく普段と変わらず接しなければならない。

「どうにも急ぎらしく食べてる暇はないようだ。
 変わりに携帯出来るものを貰ってくるよ、ちょっと待ってな」

「はぅ、ここのご飯美味しかったのににゃ」

 海沿いの街だけあって漁が盛んで魚が好きなミィはえらく気に入っていた。
 さすがは猫といったところか。

「さぁ行こうか。
 街の外で待ってるらしいぞ」

 荷物をまとめ食事を受け取り外へ出ると待っていた王国兵と合流した。

「こちらにお乗り下さい。
 私が手綱を握りますので」

 促された馬車は二頭の馬に繋がれていた。

「わたし、こっちに乗りたいにゃ。
 可愛いにゃぁ」

 馬車に乗ったことはあるが、亜人界にいた頃は馬に乗ったことがないのか。

「向こうには人馬ケンタウルスとか居たんじゃないのか?」

「そりゃあ居たにゃ。
 けど、乗せてなんてくれないにゃ」

 確かに半分は人だから乗せてはくれないか。

「すまないが、この子を馬の方に乗せてはくれないか?」

「まぁ、いいでしょう。
 馬もなついているみたいですので」

 王国兵は快くとはいかないものの承諾してくれた。
 女王の客人に怪我でもさせたらとの思いもあったのだろう。
 ただ動物同士だろうか、馬もミィに頭を擦り付け気に入っているみたいだ。

「ミィ、大人しく乗っているんだぞ」

「やった!
 ありがとうにゃ」

 依頼事をこなしたばかりで気が張り詰めていたのだ、気晴らしにでも良いかと思いつつ荷車の方に乗り込むと、ゆっくりと景色が流れ始めた。

 外からミィの声も聞こえているがそこまではしゃいでいる訳でもなさそうなので、別段気にせず少し眠ろうかとしていた所で馬車が止まった。

「どうした?
 何かあったのか?」

 王国兵に尋ねるがミィが答えた。

「レイヴ!
 あれ見て!」

 指の示す方を見ると街道の先に女の子が二人、こちらに向かって歩いていた。
 あれは、多分……だが何故。

「本当にそうなのか?」

 視力の良い人猫に確認するが、どうやらそのようだった。
 ならばと大声で呼びかけてみると、合わせてミィも手を振っている。
 それに気付いた女の子達は走り出し一直線に向かってきた。

「レイヴ、ミィ!
 会いたかったよぉ」

「どうしたんだ!
 アル達と一緒じゃなかったのか?」

「そうなんだけど……リズがミィと一緒がいいって泣き出しちゃって。
 それでアル達を説得して引き返してきたの」

 言われてリズを見ると早速ミィに抱きついていた。

「そうか、なら一緒に行くか。
 いいだろ?
 兵士さん」

「そうですね、どうやらお知り合いみたいですし、問題はないかと」

「よし。
 それじゃあ、みんなこれに乗ってくれ」

 一人で乗っていた時とは変わって少し狭さも感じられたが、女の子三人なのが圧迫感を削いでいた。
 再び馬車が動き出すと、隣のミィにあれやこれやと姉妹が笑顔で話しかけていた。
 よほど嬉しいのが見てとれる。

 再会の喜びが少し落ち着つくと姉のルニが問いかけてきた。

「あれからミィ達はお母さんに逢えたの?
 亜人界に帰っちゃうのか心配だったの」

 姉妹と初めて会った頃、オレ達はミィの母親を助ける為に動いていた。
 しかし、間に合わず息を引き取るのを看取るしかなかった。
 この話題には極力触れずにいたのだが、事情を知っている姉妹には話す他ないだろう。

「逢えるには逢えたが……」

 言葉に詰まりミィを見ると俯いていたが、笑顔で自ら語りだした。

「逢えたよ、やっと逢えた。
 けど、死んじゃったにゃ……。
 でもね、わたしのこと好きだって、幸せになって欲しいって。
 わたし達が行くまでに色々あったたみたいだけど、ちゃんと天に向かったにゃ。
 だからもう大丈夫、泣いてたら心配して天国から戻って来ちゃうにゃ」

 うっすらと涙を浮かべているが、笑顔のままで姉妹を見ている。あのときの凄惨な光景を思い出すと、間に合わなかった事も圧し掛かり胸が締め付けられる。

「そっか……ごめんね……」

 泣きながら謝るルニを抱き寄せ、大丈夫だからと何度も繰り返していた。
 その光景を見ていると、感情を押し殺していた頃の姉妹と出会った日を思い出した。
 ミィを追っていたルザ・オルド商会を探しに、夜の街フェアリアに行った時のことだ。
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