ネコ耳ばすた~ず 1

七海玲也

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第一章 女王の婚約者

死への秒読み

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 通路の先に鉄格子が見えると凄まじい歓声に混ざりアナウンスが聞こえる。

「続きましては、メイル女王陛下と婚約が決まりましたレイヴ殿の登場になります!
 是非、勝ち進み正式に王となって頂きたいものです!
 そして、対戦相手は……」

 そこまで言うこともないだろうと思ったが、祭を盛り上げる余興も必要なのだろう。
 衛兵が鉄格子の鍵を開けると視線が合った。

「レイヴ殿、期待していますよ!
 我らが王に相応しい闘いぶりをお見せ下さいませ。
 しっかり目に焼き付けておきます」

「おいおい、そんなにプレッシャーを与えないでくれ。
 元々、負けるつもりは一切ないんだから」

「流石は女王陛下のお選びになった方。
 では、御武運を」

 鉄格子を潜り階段を上ると一面が砂で覆われた円形の闘技場になっていた。
 見渡す限り客で埋め尽くされ、オレに向けて大歓声を挙げている。
 ここは応えるべきだろうと軽く手を挙げると更に歓声が増す。
 そして、向かい側からは大柄の男が現れた。

「両者揃いましたので、これより開始致します。
 両者中央にて剣先を合わせて始まりとなります」

 アナウンスに合わせ中央まで行くと鋭い眼差しで男が迫って来る。
 一礼を済ますと、剣を抜き男が口を開いた。

「レイヴ殿には申し訳ないが、この試合何が何でも勝たせて頂く」

「そんなに婚約が気に要らないか?」

 鞘から剣を引き抜き剣先を男へ向ける。

「いや。
 陛下との婚約は素晴らしいが、オレは騎士にならねばならない!
 家族を養う為に、幸せを守る為になっ!」

 相手が剣先を合わせると間合いも取らず力任せに押してきた。

 教わった内の二パターン。
 間合いを取るか、速攻を仕掛けるか。

 前者を選択したが、どうやら正解だったようだ。
 おかげで押し切られることもなく、素早く後退りし距離を開ける。

「騎士にならなければ養えないこともないだろう、それだけの力があれば」 

「オレは隣国のアヴァロンから来た。
 あそこの現状を知っているならそんなことも言えんだろう!」

 突進してくる相手を避けるが、間髪入れず次から次へと打ってくる。
 力では負けるのが目に見えているので、かわして反撃の機会を伺うしかない。

「亡命者か。
 だからと言って騎士になる以外でもやれることはあるだろう!」

「アヴァロンから来たと知ると手のひらを返し、白い目で見られるというのにか!」

 語気と同様に激しさを増し、仕方なしに受け止めるしかなくなった。

「くっ!
 それなら騎士になってどうするつもりだ。
 家族を養えれば騎士でなくても良いのじゃないのか!?」

「アヴァロン出身者の肩身の狭い思いを、これ以上家族にも味あわせたくないだけだ!」

「騎士になり、国民の上に立つつもりでいる訳ではないんだな。
 それならっ!」

 受け止めた剣の力を抜くと同時に体をひるがえし、相手の胴に剣を当てる。

 アルバートから教わった力任せの相手用のテクニックだ。
 こうも上手くいくとは思っても見なかったが。

 試合終了とのアナウンスを聞き鞘に戻すと、うなだれた相手に声をかけた。

「騎士にというのは国と人を守る為であって、決して人の上に立つわけではないと分かっているなら、あんたの気持ちは女王に伝えておく。
 騎士でも兵士にでもなれるよう取り計らうよ」

「レイヴと言ったか。
 君のような者こそ王たる資格があるのかも知れないな。
 自分の力で騎士になる資格は失ったが……君が王になれることを願っているよ。
 君の下ならば力になりたいと思う」

 剣を大地に差し、差し伸べる手をしっかりと握り返す。
 王になることはない後ろめたさを抱きつつ闘技場を後にした。

 大広間に戻ると早くも第二試合の開始が告げられているが、残った人達のオレを見る目が明らかに変わっていた。
 王になりたい者が多数出場している中で大々的に発表するからこういうことになる。
 大人しくしているのが懸命だろうと壁に持たれ出番を待っていると、傷ついた出場者が明らかに増えていき、ようやくオレの名前が呼ばれた。

 闘技場へと足を踏み入れると自分の目を疑った。

「あれは……さっきの少年か!?」

 独り言が出る程の驚きで、すかさず中央へ駆け寄り確かめた。

「やあ、お兄さん。
 闘うにことになったね。
 よろしく」

「君!
 まさか、前の試合勝ったのか!?」

「うん!
 半殺しにしてね。
 失格になったらお兄さんを殺せないから」

 含み笑いを伴いながら物騒なことを言う。

「それだと失格になってしまうぞ!
 いいのか!?」

「関係ないよ、そんなこと。
 お兄さんを殺すのが目的だから。
 この場しかチャンスがないからね」

「だったら何故、大広間で狙わなかった!?」

「そんなことした犯人探しが始まって僕の身も危険だもん」

「ここなら致命傷を与えても失格になるだけだからか!!」

「そういうこと。
 さぁさぁ、始めようよ。
 もうアナウンスも終わったよ」

 終始笑顔のまま小剣ショートソードを差し出して待っている。
 やるしかないのかと覚悟を決め、剣先を合わせると同時に今度は力で押す態勢に入る。

「ムダムダ。
 お兄さんの方が体格で有利なのは百も承知。
 だからね――もう一本持ってるんだ」

 空いた手で腰からもう一本の小剣がを取り出しオレの腕を斬る。

 すかさず離れるが気づくのが遅かった。

「くっっ!
 近いところが君の得意な場所ってことか」

「ふふふふ。
 だって僕より大人しか相手が居ないんだもん」

 それはそうだ。
 合理的でなんとも賢い子供だが、殺めることに何も感じないよう育てられているなんて。

「何故君はオレを狙う?
 誰かに頼まれたのか?」

「そうだよ。
 でもって止めてくれないかな?
 僕には双剣スティレットスって名前があるんだよ。
 聞いたことないかな?
 結構有名なんだけど」

 その話ならオレの育った腐街スラムで、双剣という名の天才暗殺者がまだ子供だとの噂が流れていた。

「聞いたことはあるが、君が双剣だったのか」

「そういうこと。
 僕のこと知ったんだから、お兄さんにはこの世界から退場してもらうよ。
 一応、暗殺者だからねっ!」

 走り出したと思った瞬間、飛びかかってきた。
 受け止めるが、もう一方の刃が頬をかすめる。
 盾がないと防ぎようのない攻め方をしてくるのはまさに暗殺向きだと感じた。

「くそっ!
 他人を傷つけることに何も感じないのか!?」

「痛いと思うよ。
 だから、殺られる前に殺るんだよ」

「誰も君を――殺そうとはしないさ!
 だからそんな考えは止めるんだ!」

「大人ってさぁ、子供をいじめるくせに不利に感じると説得しようとする。
 だったらそんな大人達は消えちゃえばいいんだ。
 その為に強くならなきゃならないんだ。
 子供を道具扱いする大人を、この世界から消すために」

 その考えはオレにとっても他人事ではなく理解も出来たが、この子には一体どんな過去があったというのか。
 それは自身を、未来を、大切なモノをも滅ぼすというのに。

「それは十分分かる。
 しかし、それはダメだ!」

「何がダメだっていうんだ!?
 僕が守るんだ!!」

 冷静だった双剣が荒い口調のまま突っ込んでくるが、頭に血が昇っているのか、剣撃も粗くなっていた。
 動揺させるつもりは無かったがここが正念場になるだろう。

 受けてはかわしを繰り返すうちに双剣の息が切れ始め、とうとう左手の小剣を捨て両手持ちに切り替えた。

「剣一本でオレの力には及ばないだろ。
 負けを認めてもう止めろ」

「無理だよ。
 お兄さんを殺さなきゃ。
 僕がやらなきゃ……僕がやらなきゃ!」

 横から薙払らわれる小剣を受け、力任せに倒そうとする――刹那、双剣の袖からナイフが飛び出すと太腿ふとももに激痛が走る。
 それにも構わず双剣を押し倒し馬乗りになると、ようやく試合終了のアナウンスが聞こえてきた。

「終わりだ。
 誰かを殺すなんて、もう止めろ。
 君の未来を君が壊すな」

 太腿に突き刺さったナイフを引き抜き投げ捨てるが、目の前がぼやけてくる……。

「そのナイフ。
 毒が塗ってあるんだ。
 僕は使命を果たした。
 もう大丈夫、みんな助かるんだ。
 もう大丈夫なんだ」

「毒……だって?
 誰が……助かるって……」

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