ネコ耳ばすた~ず 1

七海玲也

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第三章 偽りの婚約者

始まりの冒険者

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 空から悲鳴やら怒声やら聞こえている。
 この辺りじゃケンカや犯罪なんてよくあること。特に何階層もある廃墟なら尚更だ。
 しかしながら、この日は何か様子がおかしかった。
 悲鳴が空から近づいている。

 いつもなら見上げることも気にすることもないのだが、今日ばかりは違った。
 こんな普段と変わった状況の時は、大概にしてトラブルに巻き込まれるものだ。

 どうしたものかと見上げる直前、目の前にある大量のゴミが大きな音と共に舞っていた。
 目の錯覚でなければアレは人だったと思うと、悲鳴も聞こえていたのが脳裏をよぎる。

 廃墟が立ち並び、襤褸ボロを身に付けた人々がそこかしこに座り込んでいる腐街スラムであっても、まさかゴミの上に人が降って来るとは予想だにしていなかった。

「だ、大丈夫か!?
 おい!」

「う……うぅ……。
 逃げな……きゃ……」

「ちょ……待てって!
 お前、その身体で動くなって!」

 包帯だらけの身体で、廃墟から落ちてきたのだ。ゴミの上とはいえ相当な衝撃だったはずなのに、彼女は動こうとしていた。

「っと。
 動けるわけないだろ。
 追われているのか?」

 倒れそうなところを横から支え、話しかけてみたが返事はなかった。

「女の子じゃないか。
 こんな傷だらけで、病院からでも抜け出したか?」

 返事がないことは分かっていたが、口に出さずにはいられなかった。
 とにもかくにも彼女を抱きかかえ、女医のマリエルに診てもらうことにした。

 まぁ、腐街の医者といえば決まってモグリの医者なのだが、マリエルには幼い頃から診てもらっていて腕が確かなのは知っていた。
 傷の絶えなかったオレにとっては、姉のような存在でもあるのだが。

「マリ姉、この子診てもらっていいかな」

 病院と呼ぶには程遠い廃墟の奥にある一室に入ると、白衣に身を包んだ女性が本を片手に佇んでいた。

「あら、どうしたの?
 その子。
 あんたが手当てしてあげたの?」

「イヤイヤ、飛び降りてきたのを助けたんだよ。
 なんか追われてるみたいだったから。
 ここなら平気だと思ってさ」

「分かったわ。
 それなら診察するから。
 ……ほらほら、出てった出てった」

 オレを部屋から追い出し数刻、部屋の中から悲鳴にも似た甲高い声が聞こえてきた。

「どうしたマリ姉!」

 と、勢いよくドアを開けた。瞬間、医学書であろう分厚い本が顔をめがけ飛んできた。

「若いの娘の診察中に開けるんじゃない、って言ってるだろ!」

 運よく避けれたものの、当たっていたらたまったもんじゃない。

「っ!
 危ねぇ。
 マリ姉に何かあったと思ったんだよ。
 大丈夫なら外で待つから」

「待って。
 アフメド爺さんを連れて来て。
『刻が動き出す』って言えば分かるわ。
 ほら、早く行った。
 治療はしておくから」

 何のことだかさっぱりだが、ここに居てもまた分厚い本が飛んでくるだけなので足早に爺さんの元へ向かった。

 話によると、十八年ほど前に腐街に現れ相談役になったらしい。それも危険な事に関しては、そこらの占い師より的確なアドバイスで皆を助けていたそうだ。
 オレからしてみたら、話好きのただの爺さんなのだが。

 幾つかの角を曲がり突き当たりまで進むと、地に鉄の扉が据えられている。ここから地下へ降りたところに、アフメドの爺さんは住んでいる。
 普段と変わらず過ごしていたところに言われた通り伝えると、血相を変え、オレが引っ張られる形で病室まで向かった。

 結局また部屋の外で待たされる羽目になったが、女の子を連れてきた自分だけ蚊帳の外とゆうのは腑に落ちず、聞き耳を立ててみた。

「なんと!
 そうか、そうか……。
 では、やはりアノ子だったのじゃな」

「みたいですね……。
 呼んできましょうか?」

「どうせ聞いておるじゃろ。
 ほれ、入ってこい」

 バレていたらしい。

「なんでもお見通しなんだな、爺ちゃんは。
 で?
 オレに何をしろって?」

「まず、心して聞け。
 危険な連中がもうじきここにも来るじゃろ。
 この子を追ってる連中じゃが、差し出す訳にはいかん。
 となれば、分かるじゃろ」

 言いたいことは分かった。逃がす手伝いをしろと。
 腐街から出る方法なら幾らでもある、なんせ地下水路が張り巡らされているからだ。

「となると、地下にでも隠れて怪我が治るのを待ってから送り出せばいいのか?」

「何を言っとる。
 お前がこの子を背負って一緒に行くんじゃよ。
 重要なのはお前の方なのじゃから」

 オレの方が重要で、この子を逃がせだって?

「爺ちゃん……ついにボケて……」

「あんたねぇ……これは要するに、この子だけの話じゃなく、あんたの運命にも関わってくる重大なことなの。
 この子だけでも、あんただけでも意味のないことなの」

 何がなんだかさっぱりだ。

「オレもこの子と逃げろ……って?
 なんでオレが?」

「行けば分かる。
 運命とはそうゆうもんじゃよ」

 言いながら、背中から何かを取り出し放ってよこした。

「これは……魔法銃!」

「ほれ、これもじゃ」

 魔弾やその他諸々。

「使い勝手は解るじゃろ?
 それをやるから運命に立ち向かうのじゃ」

 小さい頃から爺さんには、銃の使い方やら何やら教わってきた。それもこの、腐街を生き延びる術だと。
 それがまさか、こんなことになろうとは。

「さっきから運命がどうとか言ってるけど、この子連れてどこに逃げろって……。
 あぁ、はいはい、行けば分かる、ね」

 愚痴ってみたものの二人の表情にイライラを感じとり、素直に従うことにした。
 女の子を背負うと、治療のおかげか心地よさそうに寝息を立てている。
 もっともオレの心の整理は出来ていないが、この状況下では後戻りは出来そうに無い。

「オレが帰るまで生きててくれよ、絶対に。
 こんなこと任せるんだからさ」

「誰に言っておるんじゃか。
 自分のことだけ心配しておれ」

「爺さんのことは私がついているから、安心して行きな。
 あんたが無事で帰って来るのを待ってるよ」

 二人の言葉は予想していた通りだった。
 厳しく当たろうが、結局はオレのことを気にかけていてくれる。
 両親のいないオレをホントの家族のように見ていてくれる。

 だから『絶対に帰ってくる』

 この想いがあるからこそ、笑顔で頷き病室を後にした。
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