クリームソーダのつくりかた

みのり

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第2章

先生と宮内くん

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 なんだかボッーとする時間があると、先生のことを考えるときが多くなった。
先生と2人で公園のベンチで話したあの日、先生が『そのままでいい』と言ってくれたあの目が忘れられなかった。


先生の、目。


私は、あんな目で話す人を見たことがなかった。
決してキラキラしているわけでも特別綺麗なわけでもない。
どちらかと言えば夜の海のような、暗くて澱んだ瞳。
すべてを飲み込んでしまうくらい恐ろしくて、冷たい海。それなのに、愛情を求める無邪気な寂しさを持つ子供のようにも感じた。


本心で言ったのか、
はたまた、あれが“先生としての模範解答”だったのか...


それに、そう言った後の先生は、少し冷たい態度になったと感じた。
帰り道も話しかけてくれてはいたものの、ずっと張り付けたような笑顔を浮かべていた。なんだか壁を作られている気分だった。
でもそれからの家庭教師のときは普通だし...考えすぎなのかなぁ。


そんなことを考えていると、ブッーと携帯電話のバイブレーションが鳴った。国語の授業の真っ只中だった。LINEの通知たったので確認すると、宮内くんからメッセージが届いていた。


『今日期末テストの勉強、一緒にやらない?』


期末テストに向けて勉強するテスト週間が始まっていた。放課後の部活はないし、私はゆきと勉強するつもりだったので、


『おっけーだよ!ふくふくろう図書館行く?ゆきも一緒だよ。』


と返した。
宮内くんが来ると言えばゆきもゆうくんを連れてくるはずだろう、と思った。




なんとなく、心の中で宮内くんと先生を比べてしまっている自分がいた。
宮内くんへの胸のざわざわと先生への胸のざわざわは、どこか違う。
2人を何かに例えるなら宮内くんはどこにもいかないような安心感を与えてくれる犬、先生は気まぐれだけど目が離せない猫のようだった。


放課後、図書館にてテスト勉強をした。ゆきは予想通り、ゆうくんを誘ったので私とゆき、宮内くん、ゆうくんの4人で勉強会を行った。
図書館は20時までなので、3時間ほど勉強して帰宅することになった。


「俺、家まで送ってくよ。」


宮内くんが私に向かってそう言った。


「いやいや悪いよ。遅くなっちゃうし。」

「いや、夜道に女の子一人だと危ないし。俺、チャリあるから大丈夫。」


自宅から図書館までは徒歩10分程度なので、私は歩いてきていた。
断る理由もないので、私は宮内くんに送ってもらうことにした。


「じゃあ、お言葉に甘えて。」

「宮内くん、頼むよ!!」


ゆきが宮内くんに気合いの入った声でそう言った。なんだか色んな意味が込められていそうだな、と思った。


ゆきたちと別れて私と宮内くんは帰路についた。宮内くんは自転車を引きながら、私の横を歩いた。


「勉強どう?はかどった?」


宮内くんが私に尋ねた。


「うーん、ゆきたちが気になっちゃったかも。」

「アイツらちょくちょくいちゃついてたもんな。」


そう言って宮内くんはゆきたちが“いちゃついてた”エピソードを面白おかしく話し始めた。私は、ケラケラ笑いながら手を叩いた。学校での宮内くんと、こうして2人きりで話すときの宮内くんとは、少し違う。2人きりで話すときの宮内くんは私と一緒にいて楽しそうにしてくれるので、私も楽しい。
そう言えば、宮内くんと話すときは不思議と“自分がおかしくなる”と感じることはなかった。どちらかというと自然体でいれるし、何より一緒にいると落ち着く、という存在になっていた。


家の近くまでくると、前から見たことのあるシルエットの人が歩いてくるのに気づいた。私はすぐにわかって、ドキッとした。



あの猫背...先生だ。


先生はこちらに気づくと、にこっと笑って会釈をした。私も先生に向かって会釈をすると、先生はそのまま何も言わずに私たちの横を通り過ぎていってしまった。


私は話しかけてくれるものだと思っていたので、少し驚いた。心の中に黒い点がとん、と置かれたみたいな、そんな気持ちになった。


「知り合い?」


宮内くんが先生が通り過ぎていった方向を振り返りながら、そう言った。


「あぁうん、家庭教師の先生。」

「あの、言ってた人か。良い人そうだね。」

「うん...」


先生、気を遣ってくれたのかな。心の中の黒い点が滲んで、どんどん大きくなっていく。宮内くんはそれ以上、先生について何も聞いてこなかった。
再び楽しくおしゃべりをしながら歩いたが、私は頭の中が先生のことでいっぱいになってしまった。

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