水曜日の彼女

揣 仁希

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お出かけする日曜日 後

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まだあたりは明るいが時刻は6時になろうとしていた。
夏が近づくにつれて陽が長くなってきたのでまだ夕方といった感じ。


「そろそろ地下のカフェに行ってみる?」
「もうそんな時間なのね、うん。行きましょうか」
鈴羽が僕の手を握り、嬉しそうに微笑む。

地下に降りて海側の方に歩いていくと、地上とは違い周りはカップルばかりになってくる。

「やっぱりデートスポットだけあって、カップルばっかりね」
鈴羽が照れくさそうに言い、くすりと笑う。

僕も笑い返し
「結構広い店らしいから、席空いてるといいんだけど」

噂のカフェについてみると、これはさすがに驚いた。
海側に面した一面が全てガラス張りでまさに海の中にいるような感覚に陥る。
店内は程よく照明が落とされていて、 各席は2人がけのソファごとにシェラフで区切られている。

まだそこそこの席が空いていたため僕等は無事に海中のカフェを堪能出来ることになった。

「うわぁ雑誌で見たことあったけど、これはすごいわね!」
「うん、ちょっと想像してなかったよ、これは」

席から見る海中は、この辺りが自然保護区域ということもあり、まるで南国の海のように澄んでいる。

「ほらほら、魚泳いでる」

おそらくマジックガラスなのだろう、海中を泳ぐ魚の群れがギリギリまで泳いでくる。

海面には照明が取り付けられたブイが浮かんでおり、演出もバッチリだ。

カフェではあるが、それなりに食事も用意されており味もなかなかのものだった。


決して苦痛ではない沈黙が心地よく、僕の肩に鈴羽が頭をもたれかけ頬をすり寄せ耳元で囁くように。

「来てよかったね。今日」
「うん。」

鈴羽の唇が、耳元から僕の頬へ移る。軽く頬に唇の感触を感じ、僕は顔をすこしずらして唇を重ねる。


「・・・・ん」


鈴羽の甘い吐息が脳を刺激する。

上気した顔で鈴羽が僕を見つめる。

上目遣いで照れたようにクスッ笑い、もう一度・・・


店内はスローテンポの曲が流れ、ゆったりと時間が過ぎていく。

僕等は顔を寄せ合って心地よい時間の波に身を任せていた。

「・・・好きになった人が皐月君でよかった、私ね、幸せよ・・」
僕は鈴羽の頭を優しく撫でて
「ありがと。僕も鈴羽が大好きだよ・・今までもこれからもね」

そして僕等は、この日何度目かのキスを交わした。



帰り道、今日の出来事をお互いに茶化しあい、なんだか妙に照れくさくて、でも少し2人の関係が前に進んだ気がした。

正直、僕は今日、鈴羽を帰したくないと思った。
僕の我儘なんだけど。

帰り際

「おやすみなさい、皐月君。今度は・・・朝まで・・・ね」


この時、僕はどんな顔をしていたんだろう?
機会があれば聞いてみようと思う。
すくなくとも夜でもわかるくらいに真っ赤だったのは確かだろう。






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