水曜日の彼女

揣 仁希

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静かな食卓の木曜日

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その日は、3年ぶりに実家に泊まった。
母さんと緋莉あかりと一緒に夕食を食べたのだが、昔と同じく静かな食卓だった。

「いただきます」
から
「ごちそうさまでした」
までの間、ほぼ会話はないのだ。

緋莉ですら、黙々と食事をしていたのだからこれが今でも平常なのだろう。
最近は鈴羽と一緒に夕食を食べていたから、賑やかに楽しくが普通になっていたので、正直結構きつかった。

食事の後僕は自分の部屋に戻ってきた。
当然のように、緋莉も一緒だ。
緋莉とは年も離れいることもあり幼い頃から何かと面倒を見てきた。

「えへへ~」
と僕の膝の上でご満悦でマンガを読んでいる。

待望の女の子だったので、両親の喜びようは今でも鮮明に覚えている。特にあの母さんが本当に嬉しそうに笑っていたのは後にも先にもあの時だけだったのではないだろうか。
かと言って、両親も忙しく、緋莉の面倒は小林さんや乳母、そして僕の役目だった。

「お兄ちゃんは、1人で暮らしてるんだよね~さみしくないの?緋莉だったらムリだなぁ~」
「うん、そうだね。初めはちょっとさみしいと思ったこともあったけど、今はそうでもないかな」
「え~どうして?」
「友達も沢山出来たし、アルバイトもあるしね。それに・・・」
「それに?」
「あ~、いや何でもない」
何となく幼いとはいえ、妹に彼女の話をするのが気恥ずかしくなったので、僕は言葉を濁した。

「ふ~ん」
緋莉は何かを察したような目を向けてはきたが、それ以上は何も言わなかった。


夜10時を回った頃、僕は家の中庭で鈴羽に電話をする。
メールは結構な数送ってはくるものの電話をしてこないのは遠慮しているのだろう。

『皐月く~ん!さみしいよ~~!逢いたいよ~』
『うわっ、びっくりした。うん、ごめんね』
電話に出た瞬間に鈴羽が甘えた声で言う。
『いつ帰ってくるの?明日かな?明後日かな?逢いたいし皐月君のご飯が食べたい~』
『あれ?親孝行してこいって言ってなかったっけ?』
『わすれた!』
『あはは、帰れそうなら明日にでも帰るけど多分明後日になるかな?父さんと母さんはいいんだけど妹が帰してくれなさそうなんだ』
『皐月君、妹がいたんだ?』
『うん、結構年が離れてるんだけどね。あの感じだと明日は1日付き合わされそうだし・・・』
『シスコン?』
『いやいや。家で気軽に話せるのが妹くらいだからね』

僕が少し自嘲気味に言ったからだろうか、鈴羽はしばらく黙ってから
『お家の事情だから私は踏み込まないけど、私でよかったら聞くからね。』
『うん、ありがとう。大したことじゃないからね、心配しなくていいよ』

本当に大したことじゃないんだ。僕が勝手に気にしているだけなんだと思う。思うんだけどね・・

それから僕等は、今日あったことや帰ってからのことを話して電話をきる。

『おやすみ、皐月君。・・・大好きだよ」
『うん。鈴羽、おやすみ。僕も大好きだよ』

電話を切ったあと僕は、心がなんだか暖かくなった様な、幸せな気分でスマホの画面をしばらく眺めていた。






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