水曜日の彼女

揣 仁希

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母と妹と木曜日

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しばらくぶりに会う父さんは妙に饒舌だった。
父さんは胆石らしく手術をすれば問題ないらしい。
僕が家を出てから、父さんと母さんは色々と話し合ったらしい。僕のこと、妹のこと、今までとこれからについて。

僕は別に両親に対してなにも思うところはないし、寧ろ自由にさせてもらって感謝しているくらいだ。

立花流は代々女性が宗家を継いで来た流派だ。父さんにしろ母さんにしろ、女の子がってのは家のことを考えてのことだっただろうし、それは仕方なかったと思っている。

「皐月、お前には嫌な思いをさせてきたんじゃないかと思ってな」
「そんな時期もあったけどね、僕もいつまでも子供じゃないからね。どうってことないよ」
「そうか・・・」
父さんはそう言って俯き黙ってしまった。

「父さん、僕もう行くよ。家にも顔出さないと母さんが怒りそうだからね」
「ああ、またな。盆には帰ってくるのか?」
「さあ?どうだろうね。それなりに予定もあるからね」
僕は敢えて軽く言うと、父さんにまた来ると言って病室をでる。

病室の廊下では是蔵さんがピシッとした姿勢で待っていた。

「ぼっ・・・こほん。皐月様、車を正面に回しておきましたので、本宅までお送り致します」
「ありがとうございます。じゃあ、父さんのことお願いします」
是蔵さんは、かしこまりましたと病室に入っていく。
僕はそれを見届けてから病院の正面入口に向かった。


実家へ向かう車の中では、昔からうちの専属運転手をしている小林さんと坊ちゃんはやめてくれと言う会話を再びすることになった。
やれやれ、家に行ったら母さんに言ってもらうように言わないといけないな。


高台の上まで車で上がり、久しぶりの実家に帰ってきた。敷地内を走り本宅へと向かう。
今更ながらに無駄に広い土地だと思う。

「ただいま」
僕は玄関を開けて家に入る。
うん。3年前と変わらない空気感というかなんとなく懐かしさより居心地の悪さを感じてしまう。

「おかえりなさい。皐月さん」
「母さん、ただいま。」

奥から和服姿の女性が歩いてくる。凛とした佇まいは、以前と変わりなく相変わらずの隙のなさだ。
僕の母親、立花流第18代目宗家  立花のどかである。のどかさのかけらも感じさせない人なんだけどね。

「先に父さんの病院に行ってきたから少し遅くなりました。」
「ええ、是蔵から聞いています。そんなところにいないでお上がりなさい。今日は泊まっていくのでしょう?皐月さんの部屋はそのままにしていますから」
そう言って母さんは、奥へと戻っていく。
多分稽古の途中だったんだろうけど、相変わらずというか、ピリピリとした人だ。

僕は、家に上がりかつての自分の部屋に向かう。ドアを開けて中に入る。

「ん、何もないな。当然か」
部屋の中には、以前使っていたベッドと机、本棚くらいしかない。カビくささがしないのは僕が帰ってくるから掃除したのだろうか?

窓を開けて空気を入れ替える。もう夏になりつつあるが、夕方は冷んやりしていて風が気持ちいい。

と、ドタドタと廊下を走る音が近づいてくる。
この家で廊下を走るものなど1人しか思いつかない。

「おにいちゃ~ん!おかえりなさ~いっ!」
ドアを開けて、僕に力いっぱい飛びついてきたのは年の離れた妹、緋莉だった。
「うわっと、緋莉あかり、元気だったか?いや、うん。元気だよな。どう見ても」

僕に抱きついたまま、半ベソをかいて見上げる緋莉を撫でてやる。
「よしよし、大丈夫か?」
ようやく僕から離れた緋莉は改めて

「お兄ちゃん、おかえりなさい!今日は泊まっていくんだよね?」
「うん、2、3日はこっちにいるつもりだから、あれ?お前ちょっと背伸びたか?」

3年も経てば当然妹も成長するわけで、両親のいいとこ取りをしたような容姿は誰が見ても美少女で、あどけなさと華やかさを合わせ持った天性の小悪魔的な可愛さがある。
我が妹ながらに将来が怖くなる。

「わぁい!お兄ちゃん、ずっと帰らなくてもいいんだよ?」
「ははは、そんなわけにもいかないからね、学校もあるし・・・」
それに鈴羽がいるから、卒業後であれこっちに戻る選択肢はない。

緋莉はちょっと拗ねたように頰を膨らませて僕に抱きつく。

ぽんぽんと頭を撫でてやりながら僕は、鈴羽はどうしてるかなぁ、と考えていた。



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